代謝と物質循環
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/25 04:07 UTC 版)
バクテリアは非常に多種多様な代謝を示す。細菌のグループ内の代謝特性の分布は、伝統的に細菌の分類法を定義する際に利用されてきました。ただしこれらの特性は、現在主流となっている遺伝学的な系統分類法とは対応がつかないものも多い。細菌の代謝はエネルギー源、電子供与体、および成長に使用される炭素源、という3つの主要な基準に基づいた栄養グループに分類される。それぞれの資源としてどのようなものを利用できるかによって以下のような分類がある。(詳細は「栄養的分類」参照) エネルギー源光栄養生物 - 光をエネルギー源として利用できる(光リン酸化を行う) 化学栄養生物 - 化学エネルギーをエネルギー源として依存する(酸化的リン酸化を行う) 炭素源独立栄養 - 炭素源として二酸化炭素を利用できる(炭素固定と呼ばれる) 従属栄養 - 炭素源として有機物に依存する 混合栄養 - 独立栄養および従属栄養の混在したもの これらの、エネルギー源および炭素源の組み合わせによって、多くの生物の栄養要求性を説明できる。動物は主として有機物を酸化してエネルギーを得る化学合成従属栄養生物であり、植物は光エネルギーにて二酸化炭素を還元して固定する光合成独立栄養生物である。しかしながら微生物には、これら以外にも光合成従属栄養性と化学合成独立栄養性を示す生物群がいる。この二つの特徴ある生物群のうち、化学合成独立栄養性を示すものについては物質循環の中でも重要な役割を担っている。また硫黄酸化細菌、水素細菌などは、太陽エネルギーに依存しない生態系である深海熱水孔や地下生物圏での一次生産者の役割を果たしていると考えられている[要出典]。 細菌は、太陽光から光合成を通じて得られたエネルギーを利用するもの(光栄養生物;phototrophy)や、化学化合物を酸化反応によってエネルギーを獲得するもの(化学合成生物;chemotrophy)が含まれる。化学合成生物は、酸化還元反応により特定の電子供与体から末端電子受容体に電子を移動させることにより、エネルギー源として化学化合物を利用している。化学栄養生物は、電子を伝達するために利用している化合物の種類によって、さらに細かく分類される。例えば電子源として水素や一酸化炭素、アンモニアなどの無機化合物を使用する細菌はリソトロフ(lithotrophs)と呼ばれ、有機化合物を利用するものはオルガノトロフ(organotrophs)と呼ばれる。電子を受け取るために使用される化合物もまた、細菌の分類にも利用されている。例えば好気性生物と呼ばれるグループは末端電子受容体として酸素を利用し、嫌気性生物は硝酸塩、硫酸塩、二酸化炭素などの他の化合物を使用する。 有機化合物から炭素を取得し細胞生育に利用する細菌グループは、従属栄養と呼ばれる。一方で、シアノバクテリアや一部の紅色細菌などの細菌は独立栄養性であり、二酸化炭素を固定することで細胞生育に利用する炭素を獲得する。特殊な環境において見られるメタノトロフと呼ばれるグループでは、ガス状のメタンを炭素源として使用し、かつ電子供与体として活用している。 栄養タイプエネルギー源炭素源例光合成生物 日光 有機化合物(光合成従属栄養生物)または炭素固定(光合成従属栄養生物) シアノバクテリア、緑色硫黄細菌、クロロフレクサス菌、紅色細菌 リソトロフ 無機化合物 有機化合物(リソヘテロトロフ)または炭素固定(リソオートトロフ) サーモデスルフォバクテリア、ヒドロゲノフィラス、ニトロスピラ 有機栄養素 有機化合物 有機化合物(化学ヘテロトロフ)または炭素固定(化学オートトロフ) Bacillus、Clostridium、Enterobacteriaceaeなど 細菌の代謝は、生態学的安定性を与えるとともに、人間社会にも役立っている。例えば、窒素固定菌(diazotrophs)は、空気中に安定して存在している窒素をニトロゲナーゼを利用して窒素固定する機能を持つ。この環境的に重要な特性を持つような細菌種は、上記の表中のほぼすべての代謝タイプで知られている。窒素固定の機能は、脱窒や硫酸塩還元、酢酸生成といった生態学的に重要な下流のプロセスにつながる。また、窒素はタンパク質のアミノ基に含まれるなど生物体の構成要素として非常に重要である。 細菌の代謝過程は、汚染に対する生物学的反応においても重要である。たとえば硫酸塩還元細菌は、環境中での毒性の高い形態の水銀(メチル水銀およびジメチル水銀)の生成に大きく関与している。非呼吸性嫌気性菌は発酵を利用してエネルギーを獲得し、代謝副産物(醸造中のエタノールなど)を廃棄物として分泌する。通性嫌気性菌は、自分自身がいる環境条件に応じて、発酵と異なる末端電子受容体を切り替えることができる。 細菌は生物量としても真核生物を凌駕しており、またその呼吸活性においても同様で、多細胞生物体と細菌1gの呼吸活性を比較すると細菌のほうが数百倍大きいと言われている[要出典]。肥沃な土壌4000m2あたりの細菌の呼吸活性は数万人の人間に等しいとされる[要出典]。これは細胞が小さく体積あたりの呼吸活性を示す表面積の割合が大きいこと、世代時間が短いことがその要因であろう[要出典]。呼吸速度(炭素、水素、酸素の循環)のみならず、生物を構成している窒素、硫黄の地球全体の物質循環に寄与しているが、後者の多くは酸素を嫌う嫌気性呼吸を伴う[要出典]。
※この「代謝と物質循環」の解説は、「細菌」の解説の一部です。
「代謝と物質循環」を含む「細菌」の記事については、「細菌」の概要を参照ください。
- 代謝と物質循環のページへのリンク