【ミラージュ5】(みらーじゅご)
Dassult Mirage Ⅴ.
フランスのダッソー社が、1960年代に同社製のミラージュ3Eをベースに開発した戦闘攻撃機。
ミラージュ3との違いとしては、火器管制レーダーなどの電子機器を軽量・簡易なものに変更したため全天候能力を持たない事や燃料容量やパイロンの増加などといった点が挙げられる。
同機は元々、イスラエル向けに開発された機体だったが、第三次中東戦争を契機とした国策方針の転換から輸出が取りやめられ、フランス空軍で運用される事となった。
本機は、ローンチカスタマーとなったフランス空軍など多くの国では既に退役しているが、現在でも南米諸国やアフリカ諸国を中心に、近代化改修を受けながら第一線で運用されている。
特にパキスタンは各地で退役した機体を大量に入手しており、ミラージュIIIを含めて150機以上を保有している。
派生型として、エンジンをアター09K-50に換装したミラージュ50があったが、こちらはすべて退役している。
スペックデータ
乗員 | 1名(単座型)/2名(複座型) |
全長 | 15.55m |
全高 | 4.50m |
全幅 | 8.22m |
翼面積 | 35.0㎡ |
空虚重量 | 7,150kg |
離陸重量 (通常/最大) | 9,900kg/13,700kg |
最大兵装搭載量 | 4,000kg |
エンジン | SNECMA アター9Cターボジェット(推力41.97kN/60.80kN(A/B使用時))×1基 |
速度 (最大/巡航) | マッハ2.2/516kt |
海面上昇率 | 11,160m/min |
実用上昇限度 | 18,000m |
戦闘行動半径 | 675nm(Hi-Lo-Hi) |
武装 | 固定武装:DEFA552 30mm機関砲×2門 マトラR.550「マジック」、AIM-9「サイドワインダー」、AM39「エグゾセ」、225kg爆弾、400kg爆弾、 ベルーガ・クラスター爆弾、ロケット弾ポッド、増槽等を搭載可能。 |
バリエーション
- ミラージュ5:
昼間戦闘攻撃機型の原型機。
- ミラージュ5A:
標準型。
- ミラージュ5F:
フランス空軍用攻撃機。もとは対イスラエル輸出用。
- ミラージュ5D:
機銃を撤去した複座練習機型。
- ミラージュ5E:
電子機器をミラージュ3Eと同じタイプにした全天候型。
- ミラージュ5R:
偵察機型。機首に偵察用カメラを搭載。機銃は残されている。
- ミラージュ5MA/MDエルカン:
ベルギーでMirSIP規格に改修され、チリへ輸出されたミラージュ5BR/BD等の一連の機体。
- ミラージュ5PA2:
パキスタン空軍向け。管制レーダーを換装している。
- ミラージュ5PA3:
パキスタン空軍向け対艦攻撃機型。
レーダーの換装によりエグゾセ対艦ミサイルを運用可能。
- ミラージュ5P:
ペルー空軍向け。
- ミラージュ5A マラー:
ペルーから輸入されたミラージュ5Pをアルゼンチンが改修した型。
- ミラージュ5COAM/CODM:
コロンビアの近代化改修型。クフィルとほぼ同仕様に改修されている。
- ミラージュ5F ROSE II/III:
パキスタンがフランス空軍から取得したミラージュ5Fを近代化改修した型。
ROSEは『Retrofit Of Strike Element』の略。
- ミラージュ50:
ミラージュ5Fをベースにエンジンなどを強化した性能向上型。シラノⅣレーダーを搭載。
- ミラージュ50CN/DN:
チリ空軍用の能力向上型。レーダーを搭載。
- ミラージュ50FN パンテーラ:
チリ空軍がCH/DCHをクフィルの技術で改良したもの。
- ミラージュ50EV/DV:
ベネスエラの近代化改修型。レーダーと空中給油プローブ、カナード翼を装備。
- ネシェル:
ミラージュ5Fをイスラエルがリバースエンジニアリングしたもの。
- ダガー:
ネシェルの輸出型の名称。
- ミラン:
スイスに提案された性能向上型。機首に折り畳み式のカナード翼を装備する。
不採用となったが、後にミラージュ50の開発に繋がった。
ミラージュ5
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/30 18:36 UTC 版)
「ミラージュ5 (航空機)」の記事における「ミラージュ5」の解説
イスラエルの要求によりミラージュIII Eを改修したものである。数字表記は当初こそミラージュIIIと同じくローマ数字だったが、ミラージュIII Vと混同しやすかったためすぐにアラビア数字に変更された。 ミラージュIII Eからの大きな改修点は、シラノII火器管制レーダーと一部の電子機器が外された点である。これにより、操縦席後方にあった電子機器を53cm延長した機首に移し、空いた部分に燃料タンクを増設したことで燃料容量が増加している。パイロンも2箇所増設されているが、ペイロード自体は変わっていない。また、ダッソー社は当初ミラージュ5の構成要素をはっきり定義していなかったため、シラノII火器管制レーダーとドップラー航法レーダーを搭載した、事実上ミラージュIII Eとほとんど変わらないタイプも存在した。 1966年9月にイスラエルはミラージュ5Jを50機発注したが、フランスのシャルル・ド・ゴール大統領が1967年6月3日に輸出を禁止したためイスラエルの手には渡らなかった。この50機は結局改修された後ミラージュ5Fとしてフランス空軍機となった。その後、ミラージュ5は低価格かつ高性能・高信頼性の戦闘爆撃機を必要とする多くの国から人気を得た。 このフランスの輸出政策転換により、ミラージュ5はイスラエルと対立するリビアとエジプトにも売却された。前者は110機程度が輸出され、カダフィは第四次中東戦争に飛行隊を参加させた。このため、イスラエル空軍のミラージュIIIはリビア機と区別する識別マークが必要となった。後者は、第四次中東戦争で打撃を受けたエジプト空軍に対し、サウジアラビアが資金を負担する形でダッソーから購入し、その後無償譲渡するという変則的な輸出が行われた。エジプト空軍機はイラン・イラク戦争でイラクを支援するべく1986年3月から6週間だけ同国へ展開しイラン空軍機と交戦した。同機が搭載していたALQ-234電子戦ポッドは、F-4やホーク地対空ミサイルに対して有効であったとされる。この事実を知るまで、イラン側のパイロットはエジプトのミラージュ5を、当時の最新鋭機だったミラージュ2000と誤認していた。 敵対陣営とは異なり、結局ミラージュ5を正規ルートでは手に入れられなかったイスラエルだが、第三国スイスで主に活動していた産業スパイの得た情報を基にしたコピー品のネシェルを生産した。のちにエンジンをアメリカ製のJ79に換装した改良型のクフィルが開発・製造されると、ネシェルの中古機はアルゼンチンに「ダガー」の名称で売却され、1982年のフォークランド紛争にも参加した。クフィルもまたアメリカ海軍・海兵隊に逆輸入される形でF-21「ライオン」として導入され、短期間ながらアグレッサー部隊の仮想敵機として利用された。 現在では既にフランスを含む多くの運用国で退役しているが、パキスタンなど一部の国では現在でも第一線機として運用されている。パキスタンは各地で退役した機体を大量に入手しており、ミラージュIIIを含めて150機以上を保有している。
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