職務質問 違法な職務質問とした判例・裁判例

職務質問

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/08 02:49 UTC 版)

違法な職務質問とした判例・裁判例

  • 2000年(平成12年)4月24日、荻野昌弘関西学院大学教授が、兵庫県西宮市さくら銀行西宮支店でATMを操作していた際、当時発生していた横浜小2男児誘拐事件の犯人と勘違いした兵庫県西宮警察署の署員が、荻野に暴行を加え誤認逮捕する事件が発生した。この誤認逮捕の間にも犯人から脅迫電話がかかってきていたが、署員は職務質問と称して返答を強制。無断で荻野の携帯電話の交信記録を調べ、容貌をデジタルカメラで撮影した[注釈 3]上、荻野の手を引っ張って西宮警察署へ強制連行した。荻野は一連の署員の行動は職務質問を逸脱した違法行為であるとして5月26日に兵庫県を国家賠償法に基づき提訴した。神戸地方裁判所は「誘拐事件を捜査する上で必要な職務質問だ」などの兵庫県の主張を退け、逮捕から連行に至る一連の過程を職務質問を逸脱した違法行為と認定。兵庫県に対し330万円の損害賠償を命じた[28]。県側は控訴したものの、2003年(平成15年)7月4日、大阪高等裁判所は兵庫県の控訴を棄却し、一審・神戸地方裁判所の判決を支持する判決を出した。
  • 2006年(平成18年)3月25日、神奈川県横浜市の男性が妹所有の車に知人2人を乗せて東京都世田谷区内を運転中、警視庁の警察官から職務質問を受け、車内を見せるよう求められたが、男性は一貫して拒否したため、職務質問は約3時間半の長時間に及んだ。そのため、警察官は立ち去ろうとする男性に対して「車のドアミラーが当たった」などとし、自動車の窓を警棒で割って、男性を公務執行妨害現行犯逮捕した。逮捕後車内の捜索により大麻が見つかったとして、男性は大麻取締法違反の罪にも問われたものの、東京地方裁判所・東京高等裁判所で一連の職務質問が違法であることが認定され、大麻の証拠能力と逮捕が無効となり、2007年(平成19年)10月に男性の無罪が確定した。
  • 2007年(平成19年)6月22日、ミニバイクを運転中に大阪府大阪市天王寺区で信号待ちしていた堺市在住の女性に対し、大阪府南警察署の警察官が職務質問をしたが、当該の警察官は私服のままで、しかも警察官だと名乗らずに職務質問し、また、質問の際に女性のをつかんだ。女性は、不審者に絡まれたのと勘違いし逃げようとしたが転倒し、負傷したのみならず、持病の精神疾患が悪化したとして、大阪府に対し約1,200万円の国家賠償を求める訴訟を提起。一審大阪地方裁判所は「腕をつかむ前に、警察手帳を示していた」として訴えを退けたが、二審の大阪高等裁判所は2011年(平成23年)5月26日に、「名乗らないまま腕をつかんでおり、警察官の行為は違法である」として、大阪府に対し約300万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
  • 2007年(平成19年)10月7日、求人情報誌を持っていた無職の男性が、奈良県生駒市のパチンコ店駐車場に、駐車していた乗用車に乗ろうとしていた際、奈良県生駒警察署の警察官から職務質問を受け、「職業に就く意思がないままうろついた」などとして、軽犯罪法違反(浮浪)の現行犯で逮捕された。拘束中に尿検査覚醒剤反応が出たことから、翌10月8日に釈放した2分後に覚せい剤取締法違反(使用)容疑で逮捕された。その後、男は覚せい剤取締法違反(使用)の罪で起訴されたが、2009年(平成21年)3月3日、大阪高等裁判所は男性が就職活動中であったこと、及びマンションを賃借していた事実があることから、奈良県警察の逮捕は「浮浪」の要件を満たさない違法な逮捕に当たると認定。覚醒剤使用についても、違法な逮捕中に行われた尿検査の証拠能力が無効となり、懲役3年の一審・奈良地方裁判所の判決が破棄され、無罪となった[29]
  • 2010年(平成22年)3月、東京都千代田区外神田秋葉原)の路上を歩行中に、警視庁万世橋警察署の警察官から、職務質問と、それに続いて所持品検査を受け、マルチツールの所持が見つかり没収の上、軽犯罪法違反で東京地方検察庁に書類送検された(不起訴)。男性について、東京地方裁判所の都築政則裁判長は2013年(平成25年)5月28日の判決で「当人に明らかに異常な行動が見られない限りは、犯罪行為を疑う理由はなく違法」として、職務質問及び所持品検査を違法と認定し、男性の損害賠償請求を認め、東京都に対して5万円の損害賠償を命じた[30][31]
  • 2011年(平成23年)に、東京都内で警視庁の警察官が男性の腕を掴むなどして、令状なしに実質的に拘束し、覚醒剤を発見し逮捕したが、違法な捜査とした。なお、公文書を加えたとして、公用文書毀棄罪が成立し一部無罪となった[26]
  • 2012年(平成24年)1月、神戸市須磨区内のレンタルビデオ店の駐車場に車を駐車させた50歳代の男性が、兵庫県須磨警察署員らから職務質問を受け、車の車内やトランクの検査には応じたものの、助手席に置いていた鞄の検査を拒否したところ、同署員3人にパトカーの後部座席で取り囲まれ、最終的には鞄の中身を見せたものの、男性は県警の対応が違法であるとして、2015年1月に神戸地方裁判所に提訴。2017年1月12日に同地裁は、「犯罪を窺わせる事情が存在しなかった」などとして、兵庫県に対し3万円の支払いを命じる判決を言い渡した[32]
  • 2013年(平成25年)に、東京都新宿区で、警視庁四谷警察署の警察官が職務質問により、捜索令状なしに捜査を行い、覚醒剤を発見し現行犯逮捕した。刑事裁判で東京地方検察庁側は、被告人に対し覚せい剤取締法違反で懲役4年を求刑したが、東京地方裁判所は、令状なしの違法な捜索であり、被告人を無罪とした。東京地方裁判所の西山志帆裁判長は、判決において警察の無理解が甚だしく、違法捜査を抑制するため、無罪を言い渡したことを述べた[27]
  • 2014年(平成26年)6月22日未明に、大阪市西成区の路上で大阪府西成警察署の署員から職務質問を受けた、イラン国籍の貿易業の男性が、駐車中の自動車車内を捜索された際、車内にあった鞄を調べようとした所、男性が承諾していないにもかかわらず鞄を捜索した為、男性は抵抗したが、警察官4人に取り押さえられ、うち1人の腕や指に噛み付いて軽傷を負わせた。男性は公務執行妨害と傷害で現行犯逮捕され、その後の捜索で自宅や自動車から覚醒剤や大麻などが押収され、後に覚せい剤取締法違反や大麻取締法違反容疑でも逮捕されたが、2015年(平成27年)3月5日に、大阪地方裁判所の長井秀典裁判長は、大阪地方検察庁側の懲役1年6ヶ月の求刑を棄却し、被告人に無罪判決を言い渡した。判決では「警察官への暴行は、警察官が承諾なく行った違法な所持品検査への抵抗で、正当防衛に当たる」と認定し、さらに「違法行為に基づく押収物は証拠能力が無い」と違法収集証拠排除法則を適用し、逮捕後に警察官が捜索し発見され押収された覚醒剤なども、証拠能力が無効と判断した[33]
  • 2018年(平成30年)6月30日未明、滋賀県大津市在住の男性が、京都市内で京都府警察の警察官から職務質問を受けた。男性は職務質問及び任意同行や採尿を拒否し、タクシーと列車を乗り継いで大津駅で下車し線路内に立ち入ったところを京都府警に鉄道営業法違反の現行犯で逮捕され、さらに、付近から液体大麻などが発見されたことで、滋賀県警察が大麻取締法違反容疑で逮捕し、男性はその後大津地方裁判所に起訴された。2022年(令和4年)5月23日に同地裁は、薬物事犯の疑いは濃厚とした一方で、京都府警側が捜査車両数台をタクシーの周囲に止めるなどして降車を促したことや、走り出した男性を転倒させた捜査員の行為を違法行為と認定し、押収した薬物についても、違法捜査により収集した証拠であるとして証拠能力を否定し、男性に無罪判決を言い渡した[34]

注釈

  1. ^ 警察官の活動は司法警察作用と行政警察作用の2つに分類されている。司法警察作用とは、既に生じた犯罪を摘発し刑法を執行することである[3]。一方、行政警察作用とは、犯罪の予防鎮圧、安全確保などを目的に警察が行う活動のことである[3]
  2. ^ 警察法第二条  警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする
  3. ^ この行為は推定有罪としての職務質問行為に当たり、本来はこのようなやり方は違法であり、かつ人権上の観点からも好ましくないものである。

出典

  1. ^ 日本大百科全書. “不審尋問”. コトバンク. 小学館. 2019年1月13日閲覧。
  2. ^ 職務質問』 - コトバンク
  3. ^ a b c d e 後藤昭・白取祐司 編『新・コンメンタール 刑事訴訟法』日本評論社、2010年、443頁。ISBN 978-4-535-00190-9 
  4. ^ 2002年平成14年)度から2006年平成18年)度の各年度における職務質問による刑法犯検挙件数は、それぞれ、11万7,012件、14万2,947件、15万9,862件、15万5,446件、15万6,189件である(国家公安委員会・警察庁『実績評価書』(平成19年7月)参照)。
  5. ^ a b “「職質プロ」の女性警官 靴の汚さや汗だくが声かけの基準に”. NEWSポストセブン. (2016年2月4日). https://www.news-postseven.com/archives/20160204_381752.html 2017年7月10日閲覧。 
  6. ^ a b 警察の「職務質問」は一体どこまで正当なのか | 災害・事件・裁判”. 東洋経済オンライン (2016年12月6日). 2021年12月15日閲覧。
  7. ^ 第2条の職務質問、第3条の身体拘束、第6条の進入強行、第7条の発砲。
  8. ^ 第1条第1項つまり警察官の任務遂行。
  9. ^ a b c 原田宏二『警察崩壊 つくられた"正義"の真実』旬報社、2013年、29頁。ISBN 978-4-8451-1289-0 
  10. ^ a b c 後藤・白取『新・コンメンタール 刑事訴訟法』(2010)p.417.
  11. ^ 藤田宙靖『行政法I』56頁以下
  12. ^ a b 原田『警察崩壊』p.30.
  13. ^ “覚せい剤事件「違法な職務質問」 京都の男性に無罪判決”. asahi.com (朝日新聞社). (2010年3月24日). オリジナルの2010年3月27日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20100327084850/http://www.asahi.com/national/update/0324/OSK201003240116.html 
  14. ^ 加藤美香保、南川麻由子、高橋麻理、和田はる子、越川芙紗子、弁護士法人リバーシティ法律事務所『図解入門ビギナーズ最新刑事訴訟法の基本と仕組みがよーくわかる本』秀和システム、2011年、48-51頁。ISBN 978-4798029078 
  15. ^ 後藤・白取『新・コンメンタール』(2010)pp.417-418.
  16. ^ 最高裁判所第一小法廷決定 2003年5月26日 、平成11(あ)1164、『覚せい剤取締法違反被告事件』。
  17. ^ 最高裁判所第三小法廷決定 1994年9月16日 、平成6(あ)187、『覚せい剤取締法違反、公文書毀棄』。最高裁判所第一小法廷決定 1978年9月22日 、昭和52(あ)1846、『公務執行妨害、傷害』。
  18. ^ 最高裁判所第一小法廷決定 1954年7月15日 、昭和29(あ)101、『公務執行妨害』。
  19. ^ a b 後藤・白取『新・コンメンタール』(2010)p.418.
  20. ^ a b c 原田宏二『警察捜査の正体』講談社現代新書、2016年、106頁。ISBN 978-4-06-288352-8 
  21. ^ 「警察官が、猟銃及び登山用のナイフを使用しての銀行強盗の容疑が濃厚な者を深夜に検問の現場から警察署に同行して職務質問中、その者が職務質問に対し黙秘し再三にわたる所持品の開披要求を拒否するなどの不審な挙動をとり続けたため、容疑を確かめる緊急の必要上、承諾がないままその者の所持品であるバツグの施錠されていないチヤツクを開披し内部を一べつしたにすぎない行為(判文参照)は、職務質問に附随して行う所持品検査において許容される限度内の行為である。」松江相銀米子支店強奪事件最高裁判所第三小法廷決定 1978年6月20日 、昭和52(あ)1435、『爆発物取締罰則違反、殺人未遂、強盗』。
  22. ^ 原田『正体』p.103.
  23. ^ a b c d e 原田『正体』p.104.
  24. ^ 酒巻匡「行政警察活動と捜査(1)」法学教室285号47頁以下
  25. ^ 忍び寄る警察国家の影 2004年11月、白川勝彦Web No.284 またまた職務質問に! 、2006年12月22日、白川勝彦Web
  26. ^ a b “覚醒剤事件で一部無罪 東京地裁「重大な違法捜査」”. 日本経済新聞. (2013年2月7日). http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0604H_W3A200C1CC1000/ 2014年8月17日閲覧。 
  27. ^ a b c “覚醒剤所持の被告に無罪 令状なしに捜索 「無理解が甚だしい」と東京地裁”. msn産経ニュース. (2014年8月1日). https://web.archive.org/web/20140801151913/http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140801/trl14080115240002-n1.htm 2014年8月17日閲覧。 
  28. ^ 「誤認逮捕事件裁判」通信 荻野昌弘(関西学院大学社会学部)のホームページ(archive.org)
  29. ^ “就活中なのに浮浪犯?「覚せい剤」の男性に無罪”. 47NEWS (共同通信社). (2009年3月3日). https://web.archive.org/web/20090306124106/http://www.47news.jp/CN/200903/CN2009030301000794.html 2014年12月13日閲覧。 
  30. ^ “東京地裁、職務質問は違法と認定 都に5万円賠償命令”. 47NEWS (共同通信). (2013年5月28日). https://web.archive.org/web/20130607113705/http://www.47news.jp/CN/201305/CN2013052801001940.html 2013年8月22日閲覧。 
  31. ^ 警視庁万世橋署の警察官の職務質問は違法!!!』(プレスリリース)明るい警察を実現する全国ネットワーク、2013年6月11日http://www.ombudsman.jp/fswiki/wiki.cgi/akarui?page=%B7%D9%BB%EB%C4%A3%CB%FC%C0%A4%B6%B6%BD%F0%A4%CE%B7%D9%BB%A1%B4%B1%A4%CE%BF%A6%CC%B3%BC%C1%CC%E4%A4%CF%B0%E3%CB%A1%A1%AA%A1%AA%A1%AA2015年8月27日閲覧 
  32. ^ 訴訟 職務質問に違法性 神戸地裁認定、50代男性勝訴 毎日新聞 2017年1月13日
  33. ^ “「違法検査で正当防衛」警官暴行のイラン人無罪”. 読売ONLINE (読売新聞社). (2015年3月6日). https://web.archive.org/web/20150307193131/http://www.yomiuri.co.jp/national/20150305-OYT1T50108.html 2015年3月6日閲覧。 
  34. ^ 京都府警の職務質問に「重大な違法行為」 大津地裁、男性に無罪判決 毎日新聞 2022年5月23日
  35. ^ 「ドレッドヘアーは薬物持つ人多い」ミックスの男性への職質、「差別的で違法」と波紋”. ハフポスト (2021年2月14日). 2021年12月15日閲覧。






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