巡回連絡とは? わかりやすく解説

巡回連絡

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/09/16 02:20 UTC 版)

巡回連絡の様子(北海道警

巡回連絡(じゅんかいれんらく)とは、日本の警察官が地域住民や事業所を訪問し犯罪の抑止、災害防止などの目的で行う活動である[1][2]。また、住民との良好な関係を保つため、受持区内の実態を掌握するためという目的がある[3]

戦前視察と呼ばれ、社会主義者や準社会主義者を監視するために行われていた[4]。視察は戸口調査とも呼ばれ、1875年の太政官達「行政警察規則」第4章「巡査心得」における

第五条 持区内ノ戸口男女老幼及其職業,平生ノ人トナリニ至ル迄ヲ注意シ,若シ無産体之者集合スルカ又ハ怪シキ者ト認ルトキハ常ニ注目シテ其挙動ヲ察スヘシ 
第六条 持区内へ他ヨリ移リ来ル者アラハ前条ニ随テ速ニ之ヲ探知スヘシ 但右等ノ事ニ付権威ヲ以テ其人ヲ呼出ス等ノ儀ハ決シテ有之間敷,勉メテ当人ノ覚知セサル様隠密ニ探偵スルヲ以テ警察ノ本意トス。若シ已ムヲ得サルコトアルトキハ自ラ行テ尋問スヘシ

との規定を根拠としていた[5][6]。この制度が巡回連絡の名称で復活したのは1950年のことであり[7]、主な目的は、地下にもぐった共産党員の摘発であった[8]

概要

交番勤務の警察官が、自身の受持ち地域内にある家庭や事業所などを訪問し、相談や警察に対する要望、意見などを聞き取り、あるいは事件事故の防止の観点からの必要な連絡などを行う[1][2]。この際、警察官は以下の情報を住民側に説明しているとしている[9]

  • 管轄地域での最近の犯罪災害事故の発生状況と被害の防止方法。
  • 被害に遭う可能性の高い犯罪及び災害事故の発生状況と被害の防止方法。
  • 犯罪や災害事故等の発生時における応急措置及び緊急の連絡方法。

訪問の際に、警察官は巡回連絡カードと呼ばれるものを作成する[9]。交番又は駐在所から制服の警察官が訪問する。私服の警察官が巡回連絡に訪れることはない[9]

日本に住む外国人が急増している現況を鑑み、民間通訳人を同行した外国人世帯への巡回連絡を強化している警察署もある。静岡県警では外国人共生対策の一環と称し、富士宮市内で行っている。理由は「外国人に日本での生活に安心感を与える」としている[10]

巡回対象

  • 受持ち区内のすべての家庭と事業所。ただし警察署長が巡回連絡を行う必要がないと認めて特に指示したときは、この限りでないとしている[3]

巡回連絡の実施回数

  • 一般家庭等、定住性のある対象 - 2年に1回以上[3]
  • アパート、貸家等、転出入者の多い対象 - 半年に1回以上[3]
  • 事業所等 - 年に1回以上[3]

巡回連絡を実施する時間帯

  • 訪問先の住民の迷惑にならない時間帯に行う。訪問先の住民の都合で夜間に巡回連絡を行う場合は、警察署の地域課長の承認を受けなければならない[3]

法的根拠

警察法2条(警察の責務)[11]

第二条 警察は、個人の生命身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。

2 警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない。

警察法第二条に書かれている内容は上記の通りであるが、例えば大阪府警ではこれを自署のホームページ内で以下の通り表現している[2]

警察法2条(警察の責務)
「巡回連絡は公共の安全と秩序の維持を図る為に、地域警察官のみに与えられている重要な任務である」[2]

地域警察運営規則(昭和44年国家公安委員会規則第5号)第20条は、交番勤務及び駐在所勤務の巡回連絡について定めている[12]

巡回連絡カード

巡回連絡の際に、巡回連絡カードと呼ばれる個人情報票を作成している。多くの警察署ではこれを「地理案内や迷子の連絡、事件・事故の発生時における緊急連絡先への連絡など、住民へのサービス活動に役立てるもの」と説明している[1]。例えば大阪府警では例を挙げ、緊急時や万が一の時に「留守宅に空き巣に入られた」「自宅が火事になった」「身内が何らかの事故や犯罪に巻き込まれた」などの場合に緊急に家族など関係者への連絡のために使用するもので、それ以外の目的で使用せず鍵のかかるキャビネットで厳重に保管しているとしている[2]

これには以下の情報が記入されている。

個人情報の保護

鍵のかかる場所に厳重に保管しており、住民の安全を守るために必要な範囲で使用しており、巡回連絡の時以外は交番外に持ち出すことはなく、巡回連絡カードの内容を警察以外の機関に漏らすことはない[1]

ただし2012年4月には神奈川県警の巡査長のバイクから記入済の巡回連絡カード124枚が盗まれている[13]2016年12月5日午後2時すぎには新潟県警長岡署地域課の女性巡査(当時19)が記入済の巡回連絡カード8枚を一時紛失している[14]。2019年5月には愛知県警一宮署の男性巡査長が巡回連絡簿の書類1枚を紛失、この書類には6人分の住所と氏名が記載されていた[15]

また2000年には、警視庁警部補の経営する興信所「東京シークレット調査会」に、警察の管理する個人情報などが違法に漏洩していた事件が発覚(東京シークレット調査会事件)[16]。この時は浜崎あゆみ福山雅治ら芸能人多数の自宅の住所が警察から漏洩されていた[16]。この事件は国会でもとりあげられ、現職の警視庁警察官1名と同庁OB2名が逮捕され、個人情報を漏洩して報酬を得ていた全国の警察官数十名が処分された[16]。このとき漏洩した情報の出どころも巡回連絡であった[16]。ジャーナリストの寺澤有は「「巡回連絡カード」は警察が個人情報を悪用するために収集しているものですから廃止したほうがいい」、「「巡回連絡カード」の提出は任意なので、絶対に拒否してください」と呼びかけている[17][18]

巡回連絡の実施状況

財団法人日工祖社会安全財団の調査によると自宅に警察官の巡回連絡を受けたことのある人の割合は45%前後であった(1999年度では41.8%)。地域別で「ある」と答えた人の多い都道府県では北海道(60.8%)、宮崎県(55.2%)、広島県(49.6%)が高く、低い方では大阪府(32.0%)、徳島県(36.8%)となっている。東京都は48.0%であった[19]

巡回連絡にまつわる不祥事

  • 2009年4月には、長野県警の巡査長が巡回連絡で知り合った女性の個人情報を業務用の情報端末で複数回、不正に閲覧する事件が発生している。巡査長は、この女性と2010年3月から2013年1月頃まで不適切に交際し、別れた後もメールで復縁を要求し不安を与えた[21]
  • 2015年2月18日群馬県警は、同県警の24歳の渋川署地域課巡査を10歳の少女への未成年者誘拐未遂容疑で逮捕したが、容疑者が女児や父親の名前を事前に知っていた点については、「巡回連絡カード」から職務上知り得た情報を利用した疑いがあるとしている[22]。このため産経新聞からは「「巡回連絡」なんか必要なのか」と報じられた[23]
  • 2016年4月から9月まで、長野県警OBが巡回連絡カードなどから1120人分の個人情報を不正に取得し、女性らにショートメールを送って問題となり、県個人情報保護条例違反(盗用)で書類送検された[24][25]
  • 2016年12月5日新潟県警長岡警察署地域課に勤務する女性警察官(19)が住民から記入してもらった巡回連絡カードを玄関の外で落した事に気づかず、アパートの住民が交番に届けた[26]
  • 2019年6月15日には、京都府警山科署地域課巡査長が高齢男性から現金1180万円を騙し取った容疑で逮捕され、調べに対し「巡回連絡簿を使い、別の高齢者にも金を借りに行った」と供述した[27]
  • 2021年5月11日新潟県警長岡警察署地域第一課の巡査(23歳)が巡回連絡カードで知り得た情報を元に女性と個人的に連絡を取ろうとしていたことが判明した。捜査の過程で巡査はデリヘル嬢を盗撮していたために迷惑防止条例違反で逮捕された[30]
  • 2021年9月、大阪府警中堺警察署は、管内居住の465人分の住所や氏名や電話番号などの個人情報を記載した居住者名簿が地域課の男性巡査により紛失されたと発表した。巡査は名簿に基づいて各世帯を回り、巡回連絡をおこなっていた[31]
  • 2021年11月、広島県警尾道警察署地域課の巡査部長が巡回連絡にかこつけて10代前半の少女宅を訪れ、玄関先で「服に虫がついている」と声をかけ、上半身を触った[32]。巡査部長は強制わいせつと住居侵入の罪で逮捕起訴され懲戒免職処分となった。
  • 2021年11月、千葉県警成田警察署地域課の巡査長が巡回連絡中、職務に関連して知り合った女性と性行為をおこない、強制わいせつと強制性交の疑いで書類送検され、減給処分を受けた[33]。巡査長は依願退職した。

脚注

  1. ^ a b c d 【巡回連絡】とは 北海道警察手稲署
  2. ^ a b c d e 巡回連絡について Q&A 大阪府警察
  3. ^ a b c d e f 栃木県警 巡回連絡実施要領の改正について(例規通達)
  4. ^ 荻野富士夫『北の特高警察』23頁
  5. ^ 『警視庁史』第1巻477頁
  6. ^ 広中俊雄『戦後日本の警察』9頁
  7. ^ 西尾漠、橋本勝『日本の警察』151頁
  8. ^ 『社会主義』第136~146号137頁、1963年。
  9. ^ a b c d 愛知県警察
  10. ^ 静岡新聞ニュース外国人世帯の巡回連絡に「民間通訳人」同行 富士宮(2014/12/11 07:58)
  11. ^ 警察法(昭和二十九年法律第百六十二号)第二条”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局 (2019年4月1日). 2019年12月28日閲覧。 “2019年4月1日施行分”
  12. ^ 地域警察運営規則(昭和四十四年国家公安委員会規則第五号)第二十条”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局. 2019年12月28日閲覧。
  13. ^ https://web.archive.org/web/20120421161140/http://sankei.jp.msn.com/region/news/120416/kng12041621250015-n1.htm
  14. ^ https://archive.is/SBUDd
  15. ^ 「巡査長が書類紛失 住民6人分の個人情報を記録 愛知県警一宮署」毎日新聞2019年5月9日 01時00分(最終更新 5月9日 01時17分)
  16. ^ a b c d 寺澤有『警察史上最悪の個人情報漏洩 東京シークレット調査会事件』
  17. ^ https://twitter.com/Yu_TERASAWA/status/568167197962473472
  18. ^ https://twitter.com/Yu_TERASAWA/status/1084719441688940544
  19. ^ 財団法人日工祖社会安全財団 巡回連絡の実施状況
  20. ^ 現代評論社 「現代の眼 78年8月特大号 全特集・戦後犯罪史-怨恨と欲望の社会病理」
  21. ^ 『読売新聞』2014年1月16日付
  22. ^ 毎日新聞「女児誘拐未遂容疑:逮捕の巡査「巡回連絡カード」悪用か」2015年02月18日 23時42分(最終更新 02月19日 07時55分)
  23. ^ https://www.sankei.com/premium/news/150312/prm1503120003-n1.html
  24. ^ https://web.archive.org/web/20180424202420/http://www.sankei.com/affairs/news/171220/afr1712200028-n1.html
  25. ^ https://web.archive.org/web/20171222043819/http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20171220/KT171219FTI090008000.php
  26. ^ 『新潟日報』2016年12月7日付朝刊
  27. ^ 「京都新聞」2019年7月4日付「巡回連絡簿悪用、別住民にも「金貸して」高額詐欺疑いの警官」
  28. ^ https://archive.fo/BRMRK
  29. ^ https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2905Y_Q2A630C1CC0000/
  30. ^ “別女性にSNSで連絡取ろうと… 盗撮容疑で逮捕の巡査 “巡回連絡”の情報を私的利用【新潟】”. NSTニュース. (2021年5月12日). https://www.nsttv.com/news/news.php?day=20210512-00000002-NST-1.xml 2021年5月12日閲覧。 
  31. ^ “大阪府警、個人情報の名簿紛失 住人465人分、中堺署”. 高知新聞. (2021年9月13日). https://www.kochinews.co.jp/article/detail/506233 2022年3月12日閲覧。 
  32. ^ “少女に「服に虫ついている」と声かけて…「巡回連絡」装った警官、上半身触る”. 読売新聞. (2022年1月21日). https://www.yomiuri.co.jp/national/20220121-OYT1T50414/ 2022年3月12日閲覧。 
  33. ^ “【速報】成田署巡査長、制服で巡回連絡中に性的行為 職務上知り合った女性と 千葉県警が書類送検 「男女の仲になれると…」”. 千葉日報. (2021年11月26日). https://www.chibanippo.co.jp/news/national/853202 2022年3月12日閲覧。 

関連項目

外部リンク


巡回連絡

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交番」の記事における「巡回連絡」の解説

交番職務中に「巡回連絡」がある。これは、管轄区域内の住宅事業所など交番勤務員が巡回し住宅であれば世帯主はじめとする家族構成勤務先通学先などを、事業所であれば業種従業員数などを、それぞれ家人経営者などから直接聞き取り交番備え付けの「巡回連絡簿」に記載するというものである管轄区域内の住民などは絶え流動しているため、半年から1年ごとに区域全ての住宅・事業所を巡回することを目安としているが、他の業務との兼ね合いもあり、必ずしもこの通り実施されてはいない交番もある。 巡回連絡は、第二次世界大戦直後ら行われていた戸口査察さかのぼる。調査は「行き過ぎた警察行政だ」として1950年1月一度廃止されたが防犯上に不便があるとして同年9月5日強制的な調査から任意調査改め再出発している。

※この「巡回連絡」の解説は、「交番」の解説の一部です。
「巡回連絡」を含む「交番」の記事については、「交番」の概要を参照ください。

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