擬態 擬態と行動

擬態

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/19 00:25 UTC 版)

擬態と行動

一般には、擬態は外見がモデルによく似ることをさすが、モデルが動物などの動くものの場合、動きが似ていなければ、外見が似ていても効果が薄い。そこで、擬態するものの動きや行動が、モデルそっくりになるのもよく見られる。例えば、ハチに擬態するカミキリは、細かく触角をふりながら、せわしなく歩く。また、コノハチョウは危険を感じると体を前後にユラユラと動かし、木の葉がゆれるように見せかける。

単に動きが似ているというより、行動として、特別に他者によく似た動きをとるものもある。タテハチョウは強くはばたいてしっかりと飛ぶが、マダラチョウは柔らかくはばたいてふわふわと飛ぶ。タテハチョウの仲間で、カバマダラ(有毒)に擬態しているとされるメスアカムラサキのメスは、普段はマダラチョウのようにふわふわと飛んでいるが、人が追っかけて捕虫網をふりまわし、取り逃がしたとたん、タテハチョウの飛び方に変わって力強くはばたいて逃げてしまう。このことは、このチョウのふだんの飛び方が、モデルに似せるための、つまり擬態のためにあえてとっている行動であることを示唆するものである。

視覚以外の擬態

視覚以外の感覚にうったえる擬態もある。

たとえば、ナゲナワグモというクモは、枝先に足場のような糸を張り、そこにぶら下がって前足から糸を垂らす。この糸の先には粘液の球がついており、虫が近づくとそれをぶつけて虫を捕らえる。ところが、よく調べて見ると、捕まる虫が特定の数種のばかりで、しかもオスであることが判明した、そこから研究が進み、粘球にガの性フェロモンに類似した物質が含まれることが判明した。つまり、雄のガがメスだと思ってやってくると、そこにクモがいるわけである。したがって、これは化学物質を利用した攻撃型擬態である。またガータースネークのオスは、冬眠からさめたときメスのフェロモンを出すことがある。 すでに日光をあびて体温が上昇したほかのオスたちがこれにだまされて接触してくると、このオスは彼らから熱をうばい、自分の冷えた体をすみやかにあたためる[2]。これは同種の動物をあざむく化学的擬態の例である。

花粉を媒介させるため、花から腐肉の匂いを発してハエシデムシなどの昆虫を集めるラフレシアスマトラオオコンニャク、スタペリアなどの植物が知られているが、これも化学的擬態の例と言えるだろう。スッポンタケ科のキノコも胞子をふくんだ腐敗臭を放つ粘液を出してハエなどの虫を集め、胞子を拡散させる。

視覚に訴えるものではあるが、外見によらないものもある。ホタルの仲間はオスとメスが光の信号でやり取りすることが知られているが、北アメリカのフォトリウス属には、メスがフォティヌス属のホタルの発光パターンで発光し、フォティヌス属のオスを誘引し、捕食するものがある。

擬態の限界

ベイツ擬態のように、無害な動物が有害な生物をモデルとした擬態の場合、捕食者がモデルを攻撃したときのいやな記憶を長く保っていなければ効果がない。もしもハチに刺された動物が、すぐにハチのことを忘れてしまえば、次に(ハチに擬態した)カミキリを見つけたときにも、ためらわずに捕食する。また、ハチの模様と刺された痛みを関連づけて覚えていなければ、次にカミキリを見つけたときにも、やはりためらわずに捕食することとなる。

したがって、脳神経系と視覚などの感覚器がある程度発達した捕食者に対してしか効果はない。

また、捕食者があらかじめモデルの発する信号の意味を理解していなければ(これは遺伝的なものと学習によるものとがある)、擬態者の「偽の」信号の意味も知らないことになり、効果がない。もしモデルより擬態者のほうがあまりに多ければ、捕食者は、危険なモデルよりも無害な擬態者に遭遇する頻度が高くなり、擬態者の発する信号は機能しない。黄色と黒のカミキリがハチよりもはるかにたくさんいるのであれば、捕食者は、「黄色は食べられる」と理解する。黄色と黒のカミキリがハチと同数ならば、「黄色と黒は危険だが、捕食を試みる価値はある」と理解する。

したがって、擬態者は、モデルよりあまり多数になるような繁殖はできない可能性がある。








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