セルビア・クロアチア語 文字と正書法

セルビア・クロアチア語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/05/28 00:49 UTC 版)

文字と正書法

キリル文字とラテン文字の両方が用いられる[3]

セルビアでは、カラジッチ以前には古教会スラブ語のキリル文字が使用されていた。クロアチアではルネサンス期まではグラゴル文字が使われ、それ以降は徐々にラテン系文字が使われるようになっていた。いずれもセルビア・クロアチア語を表記するのに適しているとは言えないものであった[8]。19世紀になると、セルビアではブーク・カラジッチによって、「話すように書き、書くように話す」という言文一致の方針のもと教会スラブ語のキリル文字に独自のњ、љを加え、さらに不必要な文字を削ることで、文字と音を一対一対応させた体系が作られる[9][10]。他方クロアチアでも、リュデヴィト・ガイによってチェコ語のアルファベットを元にした表記体系が作られた[9]。この2つの文字体系はほぼ一対一に対応している[10]

現代においては、セルビアではキリル文字とラテン文字が併用される。モンテネグロではキリル文字がほとんどで、ボスニア・ヘルツェゴビナではキリル文字よりラテン文字が多く見られる。クロアチアではもっぱらラテン文字が用いられる。[11]

キリル文字

ブーク・カラジッチがキリル文字を改良して作った文字で、30文字からなる[3]。音素と文字表記の一対一対応関係を持つ。アクセントが記されることはない[12]

ラテン文字

ラテン文字を使用するスラブ諸語のなかで例外的に、音素と文字表記の一対一対応がある[13]。音調が記されることはない[14]。リュデヴィト・ガイによって、チェコ語アルファベットをもとにして作られたものである[15]

文字一覧表

ラテン文字[16] キリル文字 呼称[17] 音価 (IPA表記) [16]
A, a А, а a [a]
B, b Б, б be [b]
C, c Ц, ц ce [ts]
Č, č Ч, ч če [tʃ]
Ć, ć Ћ, ћ će [tɕ]
D, d Д, д de [d]
, Џ, џ dže [dʒ]
Đ, đ Ђ, ђ đe [dʑ]
E, e E, e e [e]
F, f Ф, ф ef [f]
G, g Г, г ge [ɡ]
H, h Х, х ha [x]~[h]
I, i И, и i [i]
J, j J, j je [j]
K, k К, к ka [k]
L, l Л, л el [l]
Lj英語版, lj Љ, љ elj [ʎ]
M, m М, м em [m]
N, n Н, н en [n]
Nj英語版, nj Њ, њ enj [ɲ]
O, o О, о o [o]
P, p П, п pe [p]
R, r Р, р er [r]
S, s С, с es [s]
Š, š Ш, ш eš / ša [ʃ]
T, t Т, т te [t]
U, u У, у u [u]
V, v В, в ve [v]
Z, z З, з ze [z]
Ž, ž Ж, ж že [ʒ]

出典

  1. ^ 『実用ユーゴスラビア語入門―文法・日常会話・単語集』(戸部実之泰流社、1993年)
  2. ^ a b c 亀井孝河野六郎千野栄一編著 三省堂『言語学大辞典 第2巻 世界言語編(下-1)』1992年 p.475
  3. ^ a b c d e 栗原, 成郎 (1989), “セルビア・クロアチア語”, in 亀井孝; 河野六郎; 千野栄一; 西田龍雄, 言語学大辞典 第2巻 世界言語編 中 さ-に, 三省堂, pp. 474-477, ISBN 4385152152 
  4. ^ a b Katičić 1984, p. 264.
  5. ^ Browne 1993, p. 382.
  6. ^ a b Sussex & Cubberley 2006, pp. 505–506.
  7. ^ Sussex & Cubberley 2006, p. 506.
  8. ^ Sussex & Cubberley 2006, p. 72-75.
  9. ^ a b 三谷 2011, p. 138.
  10. ^ a b Sussex & Cubburley 2006, p. 73.
  11. ^ a b Browne 1993, p. 308.
  12. ^ Comrie 2013b, p. 737.
  13. ^ Comrie 2013a, p. 703.
  14. ^ Comrie 2013a, p. 702.
  15. ^ 三谷 2011, p. 139.
  16. ^ a b Comrie 2013a, p. 709.
  17. ^ 三谷 2011, p. 150.
  18. ^ 三谷 1997, p. 3.
  19. ^ 中島由美、野町素己著 白水社『ニューエクスプレス セルビア語・クロアチア語』 2010年 p.13
  20. ^ 三谷 1997, p. 4.
  21. ^ Browne 1993, p. 309.
  22. ^ Browne 1993, p. 310.
  23. ^ a b 三谷 1997, p. 5.
  24. ^ 三谷 1997, pp. 6–7.
  25. ^ a b 三谷 1997, p. 9.
  26. ^ Browne 1993, p. 311.
  27. ^ Browne 1993, pp. 311–312.
  28. ^ 三谷 1997, p. 14.
  29. ^ 中島由美著 白水社 『エクスプレス セルビア・クロアチア語』 1987年 p.39

脚注

  1. ^ * は再建形を表す。
  2. ^ カイ方言では/e/となる。
  3. ^ 2つ並んでいる場合は、左が無声音、右が有声音である。


「セルビア・クロアチア語」の続きの解説一覧




固有名詞の分類

セルビアの言語 ボスニア語  セルビア語  ゴーラ語  ハンガリー語  セルビア・クロアチア語
クロアチアの言語 カイ方言  セルビア語  イタリア語  ハンガリー語  セルビア・クロアチア語
モンテネグロの言語 モンテネグロ語  クロアチア語  ボスニア語  セルビア語  セルビア・クロアチア語
コソボの言語 トルコ語  ボスニア語  セルビア語  ゴーラ語  セルビア・クロアチア語
ボスニア・ヘルツェゴビナの言語 クロアチア語  ボスニア語  ボスニア語版ウィキペディア  セルビア語  セルビア・クロアチア語
マケドニア共和国の言語 トルコ語  マケドニア語  アルーマニア語  ゴーラ語  セルビア・クロアチア語
スロベニアの言語 スロベニア語  イタリア語  ハンガリー語  セルビア・クロアチア語

英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「セルビア・クロアチア語」の関連用語

セルビア・クロアチア語のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



セルビア・クロアチア語のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのセルビア・クロアチア語 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS