性的虐待
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性的虐待(せいてきぎゃくたい、英語: Sexual abuse)とは、力の行使による、もしくは不平等・強制的な状況下における、性的性質の身体を侵害する行為(やそのおそれ)を指す[1]。性虐待(せいぎゃくたい)ともいい[2]、性虐(せいぎゃく)とも略される[3]。広義には、性暴力、強姦、セクシャル・ハラスメントなどが含まれる。
児童性的虐待が問題とされることが多いが、高齢者、内縁関係を含む配偶者などの家族や親族、障害者も虐待の対象となっている。ペットや家畜などの動物に関しても用いられる。
被害者の性別
女性
性犯罪の被害者は多くが女性であり、例えば2014年に日本で発生した強制わいせつ罪の被害者の97%が女性であった[4]。2023年に発生した強制性交等罪では、被害者の96%が女性であった[5]。
第4回世界女性会議(1995年、北京)で採択された行動綱領は「女性及び女児の人権は普遍的人権の不可侵、不可欠かつ不可分な部分である」という世界人権会議の「ウィーン宣言及び行動計画」で述べられている基本原則を再確認している[6]。
2017年にアメリカ合衆国で起こったセクハラの大規模告発、いわゆる#MeToo運動の翌年、「もう終わりにしよう」を意味するタイムズ・アップ運動を支援する基金が発足した[7]。
男性
日本では、旧・強姦罪の被害者は「婦女」に限定されており「婦女暴行」と言い換えられることもあったが[8]、強制性交等罪へと改称され(その後不同意性交等罪へ改称)、男性も被害者として認められるようになった。アメリカでは、州によって異なるが、ニューヨーク州では、行為者及び被害者の性別に関係なく、第一級強姦罪が適用される[9]。
弱い被害者
子供
子供への性的虐待は、子供への虐待の中で最も対応が困難とされている。その理由として性に関する問題はタブー視されることが多いため、表沙汰になりにくく、なったとしても家族によって隠蔽されてしまうこと、身体的虐待に比べて立証が困難であること、激しい精神症状や性化行動をはじめとする行動障害などの深刻な後遺症につながる場合が少なくないことが挙げられている[10]。
2004年度の児童相談所への虐待通告のうち性的虐待は3%だったが、実際の直接調査では女性の39%、男性の10%に達しており、現状に現れているものは氷山の一角にすぎないと考えられている[10]。日本では2000年5月に成立した児童虐待防止法が、第2条において「児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること」を禁止しているが、これは家庭内の児童性的虐待を定義したものである。児童への性的虐待は、家庭の内外を問わず問題となっており、家庭外であっても被害が深刻なケースは多い。男児は女児に比べて家庭内より家庭外での虐待の割合が高いという研究もある[10]。
その他、刑法においては、すでに述べた強制性交等罪の他に、強制わいせつ罪が13歳未満の男女に対する全てのわいせつな行為を刑事罰の対象としている。また、児童福祉法が第34条1項6号において「児童に淫行をさせる行為」を禁止しているほか、児童買春・児童ポルノ禁止法は、児童買春や児童ポルノに関する様々な行為を禁止しているが、従来の法律で十分にカバーできているとは言いがたいという指摘もある[10]。
児童性的虐待をより明確に定義しようとする試みもあり、日本子ども虐待防止学会元理事長で精神科医の奥山真紀子は、子供への性的虐待は子供の性的権利への侵害であり「子供の発達にとって過度に性的な刺激となる行為、社会通念を越えて性的であると考えられる行為、虐待者の性的欲望を満たすために行われる行為の全て」が性的虐待に相当すると主張した[10]。ここでいう性的権利とは、自分の体・性器を自己管理する権利、性的平等が保障される権利、自らのセクシュアリティを保全し選択する権利、性に関する健康の最高水準を保障される権利、性に関する情報・教育を保障される権利をいう[10]。
子供の性的虐待の後遺症においては、虐待直後から6割の子供に精神科的症状が認められ、その半数は重篤な症状を呈することが知られている[10]。最も顕著なものは、解離と抑うつであり、解離については解離性同一性障害類似の特定不能の解離性障害の1型と解離性健忘類似の特定不能の解離性障害5型を呈するものが最も多い。また、自尊感情の低下や愛情と性行動の混同が普遍的な症状としてみられ、年齢不相応な性的行動化傾向(性化行動)を示すことが多い[10]。もう一つの特徴的な初見は、精神的無症状群である。性的虐待を受けた児童の約4割は当初は何ら症状を示さないが、そのうちの半分程度は1年から1年半の間に様々な問題や症状を示すようになり、時の経過とともに徐々に激しい所見を示すようになる。これはスリーパーエフェクトと呼ばれている[10]。性的虐待を受けた子供が後年別の精神科疾患を発症することも多く、大うつ病、境界性人格障害、身体表現性障害、薬物依存性障害、PTSD、解離性同一性障害、摂食障害などと因果関係があることが分かっている[10]。
我が国においては、虐待を受けた児童を保護するインフラの不足が問題となっており、児童相談所が対応した性的虐待の事例のうち76%が在宅処遇で、そのうち虐待者との分離が確保されたのは43%にすぎず、残りの33%は再び加虐者との同居という処遇になっている[10]。インフラの問題の他に、被虐待児が加虐者に強い愛着を形成する「虐待的絆」という現象もあり、児童相談所が介入した事例のうち、27%の児童は虐待者がいても家で暮らしたいと回答した[10]。また、被虐待児においては虐待者の絶対視や虐待の否認がしばしば認められ、虐待があったと第三者に報告してもすぐに撤回し否認する場合がある。これは性的虐待順応症候群と呼ばれる[10]。
性的虐待を受けた子供の治療のうち、PTSDに対しては認知行動療法が最も有効という報告があるが、攻撃的行動や不適切な性的行動への効果は薄いという欠点があり、精神療法、薬物療法、環境療法、家族療法、周囲の機関との連携などを含む包括的治療が必要とされている[10]。
老齢者
高齢者の性的虐待に関しては、全体に対する比率としての調査は行われていないが、事例は多く存在する。日本の「高齢者の福祉施設における人間関係の調整に係わる総合的研究」(1994年6月、調査内容は家庭内虐待)では、過去半年間で3人、「特別養護老人ホームにおける高齢者虐待に関する実態と意識調査」(2000年3月)では過去1年間で16人とされたが、虐待の多くが密室で行われることや、認知症を起こしている入居者も多いため、その詳細に関しては不明な点が多い。
日本では2006年4月1日より「高齢者の虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)」が施行され、「高齢者にわいせつな行為をすること・又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること」として、性的虐待を定めている。
障害者
障害者も性的虐待の被害者となることがある。性的虐待を受けた障害者は、加害者のケースもある介助者からの報復を恐れて虐待を報告せず、必要な支援を得られない場合がある。また、障害による身体的・心理的制約により、虐待の報告が難しい場合もある[11]。
動物
動物に対しても獣姦などの性的虐待は行われている[12]。イヌのペニスは人間のサイズに近いため、こうした動物などが被害に遭う[要出典]。また、近年の獣医学では動物であっても人間と同じような外傷性の精神障害が現れることが分かっている[要出典]。
加害者と被害者の関係
親子
2017年に刑法第179条に「監護者わいせつ罪」と「監護者性交等罪」が新設され、被害者が18歳未満の場合は警察がその行為についてだけで対応できるようになった。
配偶者
一般には配偶者に対して、身体的虐待をする例がよく知られている。だが日本では、夫から性的虐待を受けているとされる女性は「女性に対する暴力調査」(1997年)では20.9%に上っている。その心理的苦痛にもかかわらず、妻という立場のためか社会的な認知は非常に受けづらい。輪姦や監禁などといった極端な例で逮捕される例こそあれ、一般には沈黙を強いられている場合が多い(なお、ドメスティック・バイオレンスの家庭で育った子供達は、その後の性被害率が高いことでも知られる)。
児童指導員・保育士と入所児童
児童養護施設に勤務する児童指導員・保育士が、入所する児童を性的虐待する事件は度々報道されている。特に男性保育士は保育士登録を取り消される割合が高く、女性保育士の20倍以上となっている[13]。
取引先
教師と教え子
教師と教え子の性的関係はかつては事実上無視されていた。日本では21世紀に入って懲戒免職のような対応が進んでなされることになった。
聖職者と教区民
医学的影響
かつての医学界では性的虐待は精神分裂病(当時の名称、現在の名称は統合失調症)による幻覚だとしか思われていなかった。統合失調症の提唱者であるオイゲン・ブロイラーは、1911年の著書『早発性痴呆または精神分裂病群』において性的な幻覚を統合失調症における最も重要な身体的幻覚の症状であると定義した。
しかし、時代の経過とともに本当にこれは幻覚なのかと疑惑が持ち上がってくることになる。2018年には性的虐待のような長期反復的トラウマ体験にみられる心的外傷後ストレス障害(いわゆる「複雑性PTSD」)が、疾病及び関連保健問題の国際統計分類 (ICD) の次回改訂版(第11版)で疾患として認められるべく準備版が用意されていることが発表され、2019年に実際に改訂が行われた。
- 虐待防止に取り組むアメリカのある団体[注釈 1]が1986年に行った調査によれば、抑うつ状態・自殺念慮・分裂性障害(当時の名称による)・多重人格障害(同じく当時の名称)などの精神衛生上の治療を受けている女性のうち、60%がレイプされた経験があるという(男性は36%)。
事例
- 1973年、近親姦を強制され、子供を産まされ続けていた娘が父親を殺害した事件で、尊属殺重罰規定違憲判決が下る。
- 1980年、神奈川金属バット両親殺害事件発生。警察内部で、母親と息子の近親姦の発表議論がなされたという話が飛び交う。
- 1988年、宮﨑勤が幼女を次々に誘拐し、猥褻行為を行った後に殺害した東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件が発生。
- 1989年、東京都で、少年達によるレイプ殺人事件である女子高生コンクリート詰め殺人事件発生。
- 1995年、妹や娘、母などとセックスしていたシリアルキラー、フレデリック・ウェストが刑務所で首吊り自殺。米兵による小学生に対するレイプ事件沖縄米兵少女暴行事件発生。障害者に対するレイプ事件・水戸事件発覚。
- 1996年、ベルギーで少女監禁レイプ殺人事件が起こり、6人が誘拐され、そのうちの4人が殺害され、生存はザビーヌ・ダルデンヌら2人のみ。リトル・ミス・コロラドに選ばれていた少女が性的暴行を受け殺害されたジョンベネ殺害事件が発生。千葉県船橋市の児童養護施設「恩寵園」で園長や職員による児童に対しての性的虐待(恩寵園事件)が発覚。
- 1997年、女の教師メアリー・ケイ・ルトーノーによる、教え子に対するレイプ事件発覚。彼女は2回妊娠し、2005年に少年と結婚した。
- 2002年1月、ボストン・グローブ誌でカトリック教会の大規模な性的虐待を報道(カトリック教会の性的虐待事件)。2月、伊勢崎市同居女性餓死事件が発覚し、姉と弟の近親姦があったと騒がれる。
- 2003年、かつて性被害者であった少年が男児に対しサディスティックな猥褻行為を行った後に殺害し補導された長崎男児誘拐殺人事件が発生。
- 2004年3月、高崎小1女児殺害事件発生。4月、アブグレイブ刑務所における捕虜虐待が発覚。11月、奈良小1女児殺害事件発生。アメリカではフロリダ性的暴行事件が発生。
- 2005年、男が女性たちを性奴隷化した北海道・東京連続少女監禁事件発覚。11月、広島小1女児殺害事件発生。
- 2006年10月、福岡中2いじめ自殺事件(ズボンを脱がそうとしたとして少年たちが送検された)。11月、新潟県神林村男子中学生自殺事件が発生。
- 2007年3月、尼崎小学生女児暴行事件が報道される。
- 2014年、アメリカンスクール・イン・ジャパンの元教員であるジャック・モイヤーから1960年代から2000年代にかけて数十人の女子生徒が性的虐待を受けていたことが発覚。セント・メリーズ・インターナショナル・スクールにおいて、設立以来、教員による性的虐待が生徒に対して繰り返されていたことが発覚。
- 2016年から2019年にかけて、福岡県北九州市の民間の児童養護施設で男性職員が入所児童4名に性的暴行をした北九州児童養護施設虐待事件が発生。
- 2019年から2020年にかけて、男性保育士による児童性的暴行(野田市園児性的暴行事件)が発生。
- 2022年、男性保育士による児童性的虐待(静岡児童性的虐待事件)が発生。
- 2023年、ジャニー喜多川性加害問題が表面化。
- 2023年、BBCの調査報道番組「パノラマ」によりアメリカ合衆国のファッションブランド「アバクロンビー&フィッチ」のCEOマイク・ジェフリーズによる、組織的なネットワークを介した世界各地でセックスイベントを開催した上でのモデルの青年男性らを性的に搾取・虐待していた疑惑を放映されたことで[14]、FBIの捜査を経て、2024年に、ニューヨーク連邦地検はジェフリーズら3人は性的人身売買などの罪で逮捕、起訴された[15]。
脚注
注釈
出典
- ^ “第86回 性的搾取・虐待(SEA)防止の取組み”. 内閣府. 2026年1月12日閲覧。
- ^ “子どもへの性虐待に関する提言”. 日本小児科学会. 2026年1月12日閲覧。
- ^ “児童養護施設における性的問題の発覚経緯と初動対応”. 2026年1月12日閲覧。
- ^ “平成27年版 犯罪白書”. 法務省. 2026年1月12日閲覧。
- ^ “令和6年版 犯罪白書”. 法務省. 2026年1月12日閲覧。
- ^ “第4回世界女性会議(World Conference on Women)”. 人権ライブラリー. 2026年1月12日閲覧。
- ^ “女性議員の数を増やすことがなぜ重要なのか?“TIME’S UP”【4つのキーワードからひも解くアメリカ】”. ENGLISH JOURNAL. 2026年1月12日閲覧。
- ^ “婦女暴行”. 刑事弁護OASIS. 2026年1月12日閲覧。
- ^ “強姦罪の主体等及び性的行為の分類に関する主要国の法制度の概要”. 法務省. 2026年1月12日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n “性的虐待のケアと介入に関する研究”. 2026年1月12日閲覧。
- ^ McEachern, Adriana G. (2012). “Sexual Abuse of Individuals with Disabilities: Prevention Strategies for Clinical Practice” (英語). Journal of Child Sexual Abuse 21 (4): 386–398. doi:10.1080/10538712.2012.675425. ISSN 1053-8712.
- ^ Stern, A. W.; Smith-Blackmore, M. (2016). “Veterinary Forensic Pathology of Animal Sexual Abuse” (英語). Veterinary Pathology 53 (5): 1057–1066. doi:10.1177/0300985816643574. ISSN 0300-9858.
- ^ “把握難しい保育士の性暴力 犯歴あっても取り消しなしも”. 朝日新聞 (2021年6月22日). 2021年7月2日閲覧。
- ^ リアナ・クロックスフォード調査担当編集委員 (2023年10月5日). “アバクロンビー・アンド・フィッチの元CEO、多数の男性を性的搾取か=BBC調査報道”. BBC News Japan 2024年11月4日閲覧。
- ^ “アバクロ前CEOらを起訴 モデル志望の男性ら15人に性行為強要か”. 毎日新聞. (2024年10月23日) 2024年11月4日閲覧。
関連項目
- 虐待
- 性犯罪
- 性的いじめ
- ドメスティックバイオレンス
- 婦女暴行
- 子供の性
- 急性ストレス障害
- PTSD - 複雑性PTSD
- 抑圧された記憶
- 虚偽記憶
- 保育園などでの性的虐待の可能性に対する社会的恐怖
- 少年への性的虐待 - 女性による性的虐待
- 兄弟姉妹間の虐待
- 悪魔的儀式虐待
- 女性護身術
- 近親相姦
- 機能不全家族
- 毒親
外部リンク
- JUST(日本トラウマ・サバイバーズ・ユニオン) - 性的虐待を受けた人々が沈黙を強いられないような活動をしている特定非営利活動法人。
- Sexual Abuseのページへのリンク