バッハ:アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻 | Das zweiten Notenbuch der Anna Magdalena Bach BWV Anh.113-132,183, 508-517 etc. |
楽章・曲名 | 演奏時間 | 譜例 | |
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1 | メヌエット ヘ長調 Menuett F Dur BWVAnh.113 | 1分50秒 | |
2 | メヌエット ト長調 Menuett G Dur BWVAnh.114 | 1分30秒 | |
3 | メヌエット ト短調 Menuett g Moll BWVAnh.115 | 1分40秒 | |
4 | メヌエット ト長調 Menuett G Dur BWVAnh.116 | 2分00秒 | |
5 | ポロネーズ ヘ長調 Polonaise F Dur BWVAnh.117 | 1分20秒 | |
6 | メヌエット 変ロ長調 Menuett B Dur BWVAnh.118 | 1分20秒 | |
7 | ポロネーズ ト短調 Polonaise g Moll BWVAnh.119 | 1分00秒 | |
8 | メヌエット イ短調 Menuett a Moll BWVAnh.120 | 1分40秒 | |
9 | メヌエット ハ短調 Menuett c Moll BWVAnh.121 | 1分20秒 | |
10 | 行進曲 ニ長調 Marche D Dur BWVAnh.122 | 1分05秒 | |
11 | ポロネーズ ト短調 Polonaise g Moll BWVAnh.123 | 1分30秒 | |
12 | 行進曲 ト長調 Marche G Dur BWVAnh.124 | 1分30秒 | |
13 | ポロネーズ ト短調 Polonaise g Moll BWVAnh.125 | 1分40秒 | |
14 | ミュゼット ニ長調 Musette D Dur BWVAnh.126 | 1分10秒 | |
15 | 行進曲 変ホ長調 Marche Es Dur BWVAnh.127 | 1分30秒 | |
16 | ロンド 変ロ長調 Rondo B Dur BWVAnh.183 | 3分50秒 | |
17 | ポロネーズ ニ短調 Polonaise d Moll BWVAnh.128 | 1分30秒 | |
18 | チェンバロ独奏曲 変ホ長調 Solo per il cembalo Es Dur BWVAnh.129 | 3分10秒 | |
19 | (曲名なし) ヘ長調 F Dur BWVAnh.131 | 1分00秒 | |
20 | メヌエット ニ短調 Menuett d Moll BWVAnh.132 | 1分00秒 | |
21 | メヌエット ト長調 Menuett | 1分20秒 | |
22 | ポロネーズ ト長調 Polonaise G Dur BWVAnh.130 | 2分10秒 |
作品解説
(上記の表は、《アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳第2巻》のみに伝えられる鍵盤曲のみ。全体は資料:全体構成参照。)
バッハは2度目の妻アンナ・マグダレーナに2巻の音楽帖を贈った。1冊目は1722年に作られ、大半が失われてしまったが、現存する部分は《フランス組曲》第1-5番の初期稿を伝えている。2冊目は1725年に書き始められた。内容は雑多とも言えるほど様々な種類にわたっている。もっともバッハ自身が書いたのは最初の2つのパルティータを含めた数曲だけで、残りはほぼアンナ・マグダレーナ自身が折にふれ書き込んでいった。家庭用の愉しみ以上に、子供たちの音楽教育を目的として綴られたものと考えられている。1740年ころまで続けられた音楽帖は、アンナ・マグダレーナの筆跡の変遷を知る上でも極めて貴重な資料である。また、表紙の頭文字「AMB」にエマーヌエルが母のフルネームを書き加えたり、誰のものかは判らないが幼い筆致で書き写された部分があったりと、バッハ家の和やかな家庭の雰囲気をうつしとったようなアルバムでもある。
収められた作品には、舞曲などクラヴィーア用の小品、アリアやコラールなど声楽曲、さらに通奏低音の規則までもがある。多くはバッハの作品ではないが、作曲者名が書かれておらず、現在もその特定のための議論が続いている。おそらくバッハの息子たちの作品もかなり含まれていると思われる。
鍵盤用の小品は大抵がギャラントな二部構成の舞曲で、その多くが現在でもバロック音楽への端緒としてレッスンに用いられている。大規模な作品としては、《パルティータ》や《フランス組曲》のほかに、エマーヌエル・バッハのソナタの1楽章や、《平均律クラヴィーア曲集》第1巻第1番の前奏曲が書き込まれている。
27曲目に書き付けられた変ホ長調の行進曲(BWV Anh. 127)は、作曲者不明。3度和音の連打や同音反復のバス、単純な和声進行はJ. S. バッハの様式ではあり得ない。推進力あるアウフタクトや細分化するリズムに18世紀中葉の様式が窺えることから、C. P. E. バッハの作とも考えられるが、確証はない。
和音を連打する動機は、撥弦によって音を出すチェンバロにうってつけの効果を生む。撥弦のポイントをテンポと微妙にずらすことで、時間の流れを自在にコントロールすることができるからである。3分割と2分割のリズムが入り乱れる走句や散りばめられたトリルもテンポ感のコントロールに役立っている。すなわち水平方向の音の密度の濃淡によって、気ままに流れたり止まったりする水面の落ち葉のような動きが描かれる。さらに、随所に顔を出す跳躍がユーモアを添える。全体を通じて「行進曲」のリズムである4分音符の刻みは絶えることがないが、こうしたさまざまな要素によって単調さを免れ、自由な空気に満ちた小品となっている。
※《アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳第2巻》の曲目は「資料:全体構成」をご覧下さい。
ところで、作品番号500番台を割り振られた10の歌曲は、この音楽帖が伝える重要な作品群である。原旋律は讃美歌の他、作者不詳のものが多いが、和声と伴奏はバッハあるいはその家族による。ひとつの歌曲が異なる調で現れるのは、アンナ・マグダレーナの声域に合わせて移調したものだろう。これらは通奏低音の教材として使われたとみられる。旋律の伴奏付けは当時の音楽家にとってもっとも基礎的な技能だった。第2巻の最後の数ページにはアンナ・マグダレーナの筆跡で通奏低音の規則が列挙されている。
バッハ作品番号順に列挙する。左の数字は、《音楽帖》のNBA配列による番号。
25. コラール〈御身が共にあるならば〉"Bist du bie mir" Es-Dur 508 (G.H. シュテルツェル)
41. アリア〈思いみよ、我が霊〉Aria "Gedenke doch, mein Geist" Es-Dur BWV 509(作曲者不明)
12. コラール〈己が平安に帰り〉Choral "Gib dich zufrieden und sei stille" F-Dur BWV 510
(ヨハン・ゲオルク・ベルンハルトが和声付けしたものとの説あり)
13a. コラール〈己が平安に帰り〉Choral "Gib dich zufrieden und sei stille" g-Moll BWV 511 (J.S. バッハ?)
13b .コラール〈己が平安に帰り〉Choral "Gib dich zufrieden und sei stille" e-Moll BWV 512
(BWV511を3度下に移調したもの)
41. コラール〈おお永遠、そは雷の言葉〉Choral "O Ewigkeit, du Donnerwort" BWV 513 (J. クリューガーによる旋律。)
35. コラール〈我を取り計らいたまえ、神よ〉Choral "Schaff's mit mir, Gott" C-Dur BWV 514
(不明だが、バッハ自身の作曲によるとも言われる。音名と低音数字が書き込まれている。)
20b. アリア〈パイプにおいしいタバコを詰めて〉Aria "So oft ich meine Tabackspfeife" d-Moll BWV 515b
(アンナ・マグダレーナの最初の子、ヨハン・ゲオルク・ハインリヒ作の旋律を母が書き取り、父が伴奏付けしたもの。歌詞は当時流行した詩による。)
33. アリア〈汝なにゆえに憂うるや〉Aria "Warum betrubst du dich" f-Moll BWV 516 (作曲者不明)
40. コラール〈何と幸せな我〉Choral "Wie Wohl ist mir" F-Dur BWV 517 (作曲者不明)
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