音詩・交響詩
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/08 14:44 UTC 版)
7曲の交響曲とヴァイオリン協奏曲に次いでシベリウスの13曲の交響詩は彼の最も重要な管弦楽作品であり、リヒャルト・シュトラウスの交響詩に並んでリストが創始したジャンルを代表する最重要の作品群を形成している。全体としてみると交響詩の創作はシベリウスの芸術家としてのキャリア全般に及んでおり、彼がいかに自然とフィンランド神話、特に『カレワラ』に魅了されていたのかが窺い知れる。また、これらによって彼の作風が時とともに成熟していく様を余すことなくつぶさに知ることができる。なお、このジャンルにおけるシベリウスの作品は多くが「音詩」(Tondichtung)と題されており、明確に「交響詩」(Sinfonische Dichtung)と銘打ってあるものは最後の作品となった『タピオラ』のみである。 『エン・サガ』(「おとぎ話」の意)はシベリウス自身の指揮で1893年に初演された。この単一楽章の交響詩はアイスランドの神話的作品である『エッダ』から影響を受けている可能性も考えられるが、作曲者本人は単に「[自分の]心の状態の表出」であると語っている。弦楽器による夢見るような主題に始まると木管楽器、次いで金管楽器とヴィオラと発展していき、シベリウスのオーケストラ操作能力が示される。この作品は彼にとって初めての重要な管弦楽作品であり、ブゾーニの招きによりベルリンで自作を演奏することになった1902年に改訂されている。この時の成功に勇気づけられた彼はアイノに次のように書き送った。「私は熟達した『芸術家』として認められたよ。」 『森の精』は管弦楽のための単一楽章の交響詩で、スウェーデンの詩人ヴィクトル・リュードベリ(英語版)の同名の作品に霊感を受けて1894年に作曲された。初演は1895年4月にヘルシンキにてシベリウス自身の指揮で行われた。構成的には4つの部分に分けることが可能であり、それぞれが詩の4つの節に対応してそこに描かれた物語の雰囲気を想起させる。一つ目が英雄の活力、二つ目が熱狂的な行動、三つ目は官能的な愛、四つ目が癒すことのできない悲しみである。音楽自体は美しい仕上がりであるが、多くの批評家はシベリウスが題材とした物語の構造に「過度に依存」していると非難している。 『レンミンカイネン組曲』は1890年代初頭に書き上げられた。元々は神話に題材を採ったオペラ『船の建造』として、ワーグナーの楽劇に匹敵する規模の作品として構想された。しかしシベリウスは後に考えを改め、作品は4つの楽章から成る管弦楽作品となった。この組曲はフィンランドの民族叙事詩『カレワラ』の登場人物レンミンカイネンに基づいている。この作品は連作交響詩であると捉えることもできる。第2曲(発表時は第3曲)の『トゥオネラの白鳥』は単独でもしばしば演奏される。 『フィンランディア』は非常に愛国的な作品であり、シベリウスの全作品の中でもおそらく最も人口に膾炙した楽曲である。初演が行われたのは1899年11月で、当初は新聞の日を祝うための一連の作品のうちのひとつだった。改訂版は1900年7月に初演されている。現在の表題が出てきたのはさらに後のことで、最初はピアノ編曲版がそう呼ばれ、その後1901年にカヤヌスが管弦楽版を演奏した際に『フィンランディア』という名称を用いた。シベリウス自身は本来管弦楽曲であると強調していたが、特に賛歌としてのエピソードによりこの作品は合唱曲としても世界的な人気を獲得した。ついには作曲者自身も同意し1937年にフリーメイソンのために、1940年により一般的に使用できるよう賛歌として歌詞を加えることを認めた。愛国的な感情を呼び覚ますとされ、当時支配を受けていたロシア当局の弾圧を受けた結果、別名で演奏されたこともある。 『大洋の女神』は1913年から1914年にかけて作曲された単一楽章の交響詩である。表題はギリシア神話において地中海に住むとされるオーケアニスのことを指している。初演は1914年6月4日にアメリカ合衆国、コネチカット州のノーフォーク(英語版)で催されたノーフォーク室内楽音楽祭においてシベリウス自身の指揮によって行われた。初演の際に「これまで音楽で行われた中で海を想起させる最良のもの」と称賛されたこの作品は、厳格でない3つの部分で2つの主題が次第に展開されることによって進行する。第1の部分が穏やかな海、第2の部分が激しさを増す嵐、第3の部分が雷鳴のごとく打ち付ける波によるクライマックスである。嵐が静まり、最後の和音が海の巨大な力と限りない広がりを象徴するように響く。 『タピオラ』は最後の主要な管弦楽作品となった楽曲である。ウォルター・ダムロッシュによりニューヨーク・フィルハーモニック協会のためにとして委嘱され、同管弦楽団により1926年12月26日に初演された。曲は『カレワラ』に登場する精霊であるタピオに着想を得ている。アメリカの音楽評論家アレックス・ロスの言葉を引用すると、この作品は「シベリウスの最も厳しく、濃縮された音楽表現となった。」作曲家で伝記作家のセシル・グレイは一層強い調子で次のように断言している。「たとえシベリウスが他に何も作曲していなかったとしても、この作品ひとつのみで彼は史上最も偉大な巨匠のひとりに位置付けられただろう。」
※この「音詩・交響詩」の解説は、「ジャン・シベリウス」の解説の一部です。
「音詩・交響詩」を含む「ジャン・シベリウス」の記事については、「ジャン・シベリウス」の概要を参照ください。
- 音詩・交響詩のページへのリンク