音訳と意訳と
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/04 16:11 UTC 版)
「外国地名および国名の漢字表記一覧」の記事における「音訳と意訳と」の解説
外国地名の漢字表記の方法は、まず元の地名を表す語音・語形に近い音を持つ漢字を仮借(当て字)する方法を主とする。アジアに対する「亜細亜」、アフリカに対する「阿弗利加」は、その代表例である。この方法を音訳と呼ぶ。これに対して、原語の語意や形態素に対応する字義を持つ漢字または漢字熟語を用いる方法を意訳と呼ぶ。 音訳地名の用字選択に際しては、字面から音を想像しやすいか、筆画が少なく書きやすいか、土偏や三水偏が付く地名らしい字かなど、種々の心理的な要因によって、用字範囲および使用頻度にある程度の偏りがみられる。近代中国においては、音訳字であることを明確にするために口偏を付けて際立たせることも行われた。たとえば、イギリスは「𠸄咭唎」のように「英吉利」の各漢字すべてに口偏が付けられた。この方法は話し言葉に多い。また、日本語においては、上記したような漢字の音読みによる音音訳だけでなく、「浦潮斯徳」(ウラジオストク)のように訓音に従って訓音訳された表記もあり、とりわけ『世界国尽』をはじめとする福沢諭吉の著作では、「荒火屋」(アラビア)「金田」(カナダ)「志辺里屋」(シベリア)「武良尻」(ブラジル)などの独創的な表記が見られる。 意訳地名では、「象牙海岸」(コートジボワール)「獅子山」(シエラレオネ)のように原語の全部を意訳したものと、一部のみを意訳して「新西蘭」(ニュージーランド)「南斯拉夫」(ユーゴスラビア)とするなど、意訳と音訳を組み合わせたものとがある。また、複数の用例に共通する意訳字として定型化した用字の中には、たとえば、「聖路易」(セントルイス)「漢堡」(ハンブルク)「剣橋」(ケンブリッジ)のうち、それぞれ St./Saint, -burg, -bridge を意味する「聖」「堡」「橋」のように音訳字を兼ねるものがある。都市名に多く用いられる「港」「府」は、それぞれ「港湾都市」「政治の中心地または主要な都市」といった意味を帯びると同時に、「桑港」(サンフランシスコ)や「寿府」(ジュネーヴ)のように原語に類似した音の存在を示唆する場合がある。 そのほか、特殊な漢訳の仕方としては、星条旗の意匠に因む「花旗国」の例のように国の象徴をもって国名の異称に代えた事例、英語で Florida と記すフロリダがスペイン語の「花のような、花咲く」という意味から「花地」と漢字表記された例、直訳すれば「喜望岬」と訳されるはずの「喜望峰」のように原語から直接は想起されない用字による表記が慣用されている事例などがある。
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