砧とは? わかりやすく解説

きぬた【×砧/×碪】

読み方:きぬた

《「きぬいた衣板)」の音変化

木槌(きづち)で打って布を柔らかくしたり、つやを出したりするのに用いる木や石の台。また、それを打つこと。《 秋》「—打て我に聞かせよや坊が妻/芭蕉

砧拍子(きぬたびょうし)」の略。

[補説] 曲名別項。→砧


きぬた【砧】

読み方:きぬた

[一]謡曲四番目物世阿弥作。長年帰らぬ夫を砧を打ちつつ待っていた妻が焦がれ死にし、死後妄執苦しむ。

[二]箏曲(そうきょく)および地歌曲名一類。砧の音を表現する部分(砧地)を含むのが特徴岡康砧五段砧新砧などがある。砧物。


読み方:キヌタ(kinuta)

織った布または洗濯した布や着物をたたく道具


作者佐藤春夫

収載図書定本 佐藤春夫全集 第5巻 創作 3
出版社臨川書店
刊行年月1998.6


作者北村謙次郎

収載図書日満露在満作短篇選集
出版社ゆまに書房
刊行年月2001.9
シリーズ名日本植民地文学精選


作者藤原緋沙子

収載図書おぼろ舟―隅田川御用帳
出版社広済堂出版
刊行年月2003.9
シリーズ名広済堂文庫


作者杉谷みどり

収載図書いまこそ平安の恋
出版社EH春潮社
刊行年月2004.8


読み方:キヌタ(kinuta)

布を打つ道具

季節

分類 人事


読み方:キヌタ(kinuta)

分野 謡曲

年代 成立年未詳

作者 作者未詳


読み方:キヌタ(kinuta)

所在 東京都世田谷区

地名辞典では2006年8月時点の情報を掲載しています。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/18 00:34 UTC 版)

砧を打つ朝鮮人女性
和漢三才図会』にある砧の挿絵。「枮」は木製のきぬたを表す[1]
砧石の上に置かれた布と杵。北海道札幌市厚別区「北海道開拓の村」で撮影
葛飾応為『月下砧打美人図』(部分)より、砧を打つ女性

(きぬた)は、洗濯したを生乾きの状態で台にのせ、棒や槌でたたいて柔らかくしたり、をのばすための道具。また、この道具を用いた布打ちの作業を指す。古代から伝承された民具であり、古くは夜になるとあちこちの家で砧の音がした。その印象的な音は多くの和歌にも詠まれ[注釈 1]また数多くの浮世絵の題材とされてきた。日本の家庭では、炭を使うアイロンが普及した明治時代には廃れたが、朝鮮では1970年代まで使われていた。現在では完全に廃れている。

概要

厚布を棒に巻き付け、その上に織物の表を内側にして巻き付け、さらに外側を厚手の綿布で包み、これをの台に乗せ、平均するように槌(つち)で打つのである。上記の用法の他、装束に使う絹布などは糊がついておりこれを柔らかくし、光沢を出すために砧で打つことが行われる。こうしてできた衣を打衣といい、女房装束に用いられる。古来は単衣のすぐ上五衣の上、中古以来は順番が異なり表着のすぐ下に着られるものになる。

和語の語源は「キヌイタ(衣板)」に由来するといわれる。衣を打つのに用いた石の台。または草を打って柔らかくするのに用いる石のこと。台のほうが「きぬた」であり棒のことではない。叩く棒が「きぬた」とされがちだが、これは「:きね」との混同であり、棒は「砧杵(チンショ):きぬたのきね」である。民具としては木製のものが普及していた。表記としては、材質にかかわらず「砧」が使われた[2]が、木製のものに「枮」が使われることもあった[注釈 2]。また、衣を叩いて柔らかくする用途の他に、わらなどを叩いて柔らかくしてわらじなどの製品を作る際に使う棒も「きぬた」と呼ばれがちだが、この叩く棒だけを指す場合、正しくは「横槌:ヨコヅチ」である[4]

文化

漢詩

曹毗の「夜聽擣衣」、庾信の「秋砧調急節」、古樂府の「藁砧今何在」など、古くから漢詩に詠まれ、晩秋の風物誌であった[5]

白居易にも「聞夜砧(夜の砧を聞く)」という漢詩がある。この作品は特に、白居易の詩が日本文化に与えた影響の大きさの例に漏れず、平安貴族文化における「砧」のモチーフ形成に大きな影響を与えたという(後述)。

聞夜砧(夜の砧を聞く)
原文 書き下し文 通釈
誰家思婦秋擣帛、 誰が家の思婦か秋に帛(きぬ)を擣(う)つ、 どこの家の思い煩う婦人が絹(の衣)を打っているのだろうか、
月苦風凄砧杵悲。 月苦(さ)え風凄(すさまじ)く砧杵(ちんしょ)悲し。 月が酷く冴え凄絶な風の中、悲しげな砧を打つ音。
八月九月正長夜、 八月九月 正(まさ)に長夜、 陰暦八月九月、正に秋の夜長にあたって、
千聲萬聲無了時。 千声万声了(や)む時なし。 数限りない音のやむ間もない。
應到天明頭盡白、 応(まさ)に天明に到らば頭尽(ことごと)く白かるべし、 夜明けまでにもの悲しさのあまり頭髪は真っ白になってしまうであろう、
一聲添得一莖絲。 一声添え得たり一茎の糸。 一打ち毎に一本ずつ白髪が増える(かのような思いがする)のだから。

また、「砧」の文字こそ書き込まれていないが、李白「子夜呉歌 秋」も同様のモチーフを詠み込んだものである [注釈 3]

砧青磁

[6]中国青磁の一種で南宋時代に龍泉窯で作られた青磁のうち粉青色の上手(じょうて)のものを砧手(きぬたで)と呼ぶ。砧という名称は『分類草人木』[注釈 4]に「砧、松枝隆仙所持、天下一也、ひびき有とて砧と名付也」、
槐記[注釈 5]

享保十二年三月廿九日、参候、青磁の花生、これも拝見して見をぼゆべし、きぬた青磁の至極也、是は大猷院殿より東福門院へ進ぜられ、東福門院より後西院へ進ぜられ、後西院より此御所へ進ぜられし物也、後西院の勅銘にて千声と号す、擣月千声又万声と申す心にやと申上ぐ、左あるべしとの仰也、是に付て陸奥守にある、利休が所持のきぬたの花生は、前の方にて大にひヾきわれありて、それをかすがいにてとじてあり、利休が物ずきとは云ながら、やきものにかすがいを打こと、心得がたきことなり、景気にてもあるべきか、此われのある故に、利休がきぬたと名付けるとなん、響あると云こヽろ也と仰也

とある。これらは白居易の『聞夜砧』(あるいはそれを元にした平安文学・文化)を見立てとして銘々したとの説である。

形状からの見立て説としては、世阿弥の作った能「砧」の演目中で、これを演じるシテが手にもつ槌(つち)の形と龍泉窯青磁の花瓶が似ていたことから砧青磁と呼ぶようになったとするものがある[7]

』は、世阿弥作といわれる能楽作品。成立は室町時代。『申楽談儀』に曲名が出ており『糺河原勧進猿楽記』には音阿弥による上演記録がある。夫の留守宅を守る妻の悲しみが描かれており、詞章、節づけともに晩秋のものがなしさを表現して、古来人々に好まれてきた能である。

脚注

注釈

  1. ^ み吉野の 山の秋風小夜ふけて ふるさと寒く 衣打つなり (百人一首 参議雅経)
  2. ^ 漢字としての「砧」に着目した場合、衣を打つ民具だけに用いるものではない。樹砧(ジュチン:接ぎ木の台木)、砧鑕(チンシツ:古代中国の処刑法「腰斬」の際、伏せて斧を受ける台)、砧斧(チンフ:切り台と斧、腰斬の道具)などの用法がある[3]
  3. ^
    子夜呉歌 秋【楽府題】
    原文 書き下し文 通釈
    長安一片月 長安 一片の月 長安は月一つ照らす空の下
    萬戸擣衣聲 万戸 衣を擣つの声 数えきれない家々から衣を砧で打つ音
    秋風吹不盡 秋風 吹いて尽きず 秋風が絶えず吹きすぎ
    總是玉關情 総て是 玉関の情 全て玉門関に引かれる思いを駆り立てる
    何日平胡虜 何れの日にか胡虜を平らげ いつになれば西域を征服して
    良人罷遠征 良人 遠征を罷(や)めん 夫は遠征を終えて帰ってくるのだろうか
  4. ^ 利休時代の茶書。「永禄7年(1564)甲子季春初吉 真松斎春溪(しんしょうさいしゅんけい)」の奥書がある。名物茶器や目利のことについて解説した茶書(茶の湯の楽しみ|茶道用語)。
  5. ^ 江戸時代の随筆。近衛家熙(このえいえひろ)の侍医であった山科道安が、享保9年(1724)から同20年までの間、家熙の言行を日録風に記述したもの(goo辞書「槐記」)。

出典

  1. ^ Chinese-tools.com)(ウィクショナリー)(康熙字典網上版
  2. ^ 大槻文彦言海」251ページ
  3. ^ KO字源「樹」「砧」(KO字源
  4. ^ 末尾外部リンク参照。また(goo辞書「横槌」)も参照
  5. ^ KO字源「砧」(KO字源
  6. ^ この項、「茶道|茶の湯の楽しみ|茶道用語」サイトのうち「砧青磁」ほかから引用(茶の湯の楽しみ|茶道用語
  7. ^ 砧青磁”. 2005年3月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年9月24日閲覧。

文献情報

  • 段笑嘩 (2008年). “『源氏物語』における『白氏文集』引用の特色” (PDF). 北陸大学紀要第32号. p. 12/15. 2017年11月14日閲覧。※平安貴族文化における「砧」のイメージ「月、雁、砧の三点セットが平安貴族の間に、遠地の夫を思う女性の情を詠むパターンとして受け取られていた・・と思われる」

関連項目

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外部リンク


砧(きぬた)

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めしにしましょう」の記事における「砧(きぬた)」の解説

瀬戸弟子筋四十二の膳登場

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