海運貨物の陸運転移
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/28 05:06 UTC 版)
1937年(昭和12年)7月の日中戦争勃発以降は、内航船の対中国大陸航路への転用等による国内沿岸航路の船腹不足が進み、沿岸航路で輸送していた貨物は並行する陸運へ転移した。これを「海運貨物の陸運転移」というが、当時この分野の陸運はほとんど鉄道であった。鉄道連絡船航路として鉄道網の一部を構成する青函航路にもこの時期陸運転移は波及し、同航路の貨物輸送量は1936年 (昭和11年)度の109万7134トンから1940年(昭和15年)度の213万1500トンへと倍増していた。しかし、この間の車両渡船の増強は、1939年(昭和14年)11月就航の第三青函丸1隻にすぎなかった。1941年(昭和16年)夏には国内炭運搬船不足から、北海道や九州からの石炭積出しが滞り、港頭や山元に大量の石炭が山積みされる事態となり、鉄道省は関釜連絡船の貨物船新羅丸を7月10日から9月30日まで本輪西 - 塩釜間に運航した。1941年(昭和16年)12月8日の太平洋戦争開戦後は、さらに多くの船が南方占領地から内地への資源輸送に振り向けられ、沿岸航路の船腹不足は一層深刻さを増した。そのうえ1941年(昭和16年)11月20日には、浮流機雷の津軽海峡への流入もあり、以後半年間は12往復中、夜間便5往復の休航を余儀なくされ、翌1942年(昭和17年)2月には14万トンもの滞貨が積み上がってしまった。このため、1941年(昭和16年)12月8日から1942年(昭和17年)2月28日まで新羅丸の助勤を受け、1942年(昭和17年)2月15日からは、青函間での機帆船を用いた鉄道貨物一貫輸送を開始し、滞貨解消に努めた。機帆船輸送はその後も増加する石炭輸送の一手段として拡大増強され、青森、函館両港でも機帆船岸壁ならびに船車連絡設備の整備が推進された。 平時、北海道炭の本州方面への移出は、内陸部に位置する主力の石狩炭田では、山元から100kmあるいはそれ以上離れた小樽港、室蘭港まで鉄道で長距離輸送し、以後大型内航船で消費地へ運んでいた。これは石炭のような不急の重量低価品は鉄道運賃が船舶運賃より相対的にかなり高く、鉄道輸送距離を可及的に短縮する必要があったからで、海運貨物の陸運転移が相当進んでいた1941年(昭和16年)度でも、青函航路の石炭輸送量は年間1万3000トンと北海道炭総移出量732万9000トン、青函航路上り貨物輸送量114万9782トン、と比べても極めて少量であった。 しかし太平洋戦争開戦以降の深刻な船腹不足は、大量の石炭海上輸送を否応なく陸運へ転移させざるを得なくした。道内産炭地から最大消費地京浜工業地帯への鉄道輸送ルートは、北海道側が室蘭本線 函館本線経由函館まで、本州側は青森から長町、水戸経由田端に至る東北本線 常磐線ルート、ならびに青森から秋田、長岡、高崎経由の日本海縦貫線 上越線ルートで、青函航路はこれら両岸の鉄道をつなぐ重要な位置を占めてはいたが、上記の通り当時石炭輸送はほとんど行われていなかったにもかかわらず、既に輸送余力のない状況であった。 このため鉄道省は1942年(昭和17年)春、石炭輸送の陸運転移に伴う青函航路の石炭輸送量を1943年(昭和18年)10月には年間130万トン、1944年(昭和19年)10月には250万トンに達すると予測し、車両渡船1隻で年間45万トン輸送できるものとして建造中の第四青函丸を含む車両渡船4隻の早期建造を海軍艦政本部に要請した。 鉄道も、当時これらのルートの大部分は単線で、線路容量増大のため、多くの信号場が建設中で、複線化工事を急いでいた区間もあった。青函航路においても、函館港では1941年(昭和16年)4月から、青森港では 1940年(昭和15年)11月から、車両渡船用岸壁増設工事が進められており、函館港有川埠頭の函館第3第4岸壁が1944年(昭和19年)1月3日と11月17日から使用開始され、青森第3岸壁は1944年(昭和19年)5月1日から昼間のみ使用開始(7月20日より昼夜使用)された。さらに、有川埠頭では引き続き函館第4岸壁の裏側に右舷着けの第5岸壁の工事が進められ、青森側でも1943年(昭和18年)12月からは夏泊半島東側の小湊に突堤の両側使用となる2岸壁の建設工事が進められた。これら両港の岸壁増設工事と並行して、航送貨車中継施設増強工事も行われ、函館側では五稜郭操車場新設工事が1942年(昭和17年)4月に着工され、1944年(昭和19年)9月に完成し、既設の青森操車場も1940年(昭和15年)から拡張工事が進められ、1944年(昭和19年)2月に竣工していた。
※この「海運貨物の陸運転移」の解説は、「第五青函丸」の解説の一部です。
「海運貨物の陸運転移」を含む「第五青函丸」の記事については、「第五青函丸」の概要を参照ください。
- 海運貨物の陸運転移のページへのリンク