日本の格差の拡大
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/19 20:16 UTC 版)
「グローバル資本主義」の記事における「日本の格差の拡大」の解説
1990年代半ば以降、パートタイマー・契約社員・派遣社員など非正規労働者が大幅に増えており、この背景としてグローバルな競争に対応するためのコスト削減・規制緩和の影響などが指摘されている。 中野剛志は2002年-2006年に日本は好調な輸出の主導で景気回復をしたが、輸出が好調にもかかわらず、一人当たりの給与は下がっており、また大企業においては労働分配率が下がることが顕著であったため、国民が景気回復を実感できなかったことは当然であるとしている。一般に輸出企業は競争相手の多い世界市場で厳しい競争にさらされるが、激しいコスト競争の中で、輸出企業は実質賃金を抑制せざるを得なくなり、グローバルな世界における競争の結果として、労働者の賃金は最も低い賃金の水準まで低下する「底辺への競争」と呼ばれる現象が発生するとしている。このようなグローバルな「底辺の競争」は一国全体の賃金水準を下げるデフレ圧力となり、グローバル化は格差拡大につながるとしている。 岩田規久男は「2003年から2007年初頭までの景気回復期、企業収益が伸びたにもかかわらず、正社員の実質賃金の伸びは鈍いままだった。発展途上国から輸入品との競争で、実質賃金を下げざるを得なかったからである。その過程で企業は正社員よりも賃金の低い非正規労働者を多く雇った。アジアなどで生産される輸入品は、現地の低賃金労働者がつくっている。それに対抗するために、日本の非正規労働者の賃金を低く抑えてしまった。グローバル競争が正社員と非正規労働者の経済格差を拡大させた可能性がある」と指摘している。また岩田は「経済のグローバル化によって、安くて質の良いモノが輸入されることによって、未熟練労働者も利益を受けている」と指摘している。 竹中平蔵は「グローバル化が進む中、日本が今後も現在(2001年)の生活水準を維持するためには、少なくとも彼ら(中国)の20倍の生産性を持たなければならないことになる」と述べ「構造改革」の必要性を強調している。 森永卓郎は「中国と競争するためには、日本の人件費が半分になっても勝てず、20分の1以下まで下げるべきだと言うのだろうか」と指摘している。 経済学者の田中秀臣は「グローバル化の競争圧力によって、日本企業はコスト削減を余儀なくされている。企業は社員を教育・訓練する余力を失ってしまい、スキルのある人材だけを求めている。スキルの無いフリーターは、正社員として雇用されなくなってしまう」と指摘している。 「経済格差の原因は、グローバリゼーションやIT革命、規制緩和による構造改革である」という議論について、田中秀臣は「1990年代におけるデフレと失業の増加・不況の悪化を整合的に説明できない。長期停滞や経済格差の原因は、総需要不足にある」と指摘している。 経済学者の大竹文雄は「グローバル化が、格差が拡大する原因であることは確かであるが、グローバル化による貿易拡大によって日本人全体が豊かになっていることも事実である」と指摘している。大竹は「グローバル化の阻止は、世界の貧困問題を深刻にするという問題もある。日本がグローバル化をやめて、後進国からの農産物・製品を輸入しなくなると、日本も貧しくなるが後進国は更に貧しくなる。貿易による日本国内の格差・貧困問題は、社会保障制度・教育で対応すべきである」と指摘している。 経済企画庁は、貿易を制限するよりも非熟練労働者の技能水準を高める教育・職業訓練が、賃金格差拡大の対策となるとしていた。 為替レートの影響 経済学者の飯田泰之は「企業は国際的であり、為替レートによってどの国の人を雇用するかを決める」と指摘している。 野口旭、田中秀臣は「日本の賃金が各国と比較して割高だとすれば、それは単に為替レートが実物経済の均衡・整合的な水準にまで調整されていないということに過ぎない」と指摘している。 経済学者の円居総一は「貨幣という名目価値で、他国の通貨で表示した絶対価格で比較し、日本の物価は高い、国際的価格に収斂させなければならない、または高コスト体質を是正しなければならないという議論は意味がない。為替レートですべてが決まるため、日本のモノ・賃金が他国と比べて実質的に高いのか低いのかは解らないからである」と指摘している。 大和総研は「日本国内で商品を生産・販売している企業は、海外と競合している商品の場合、円高となると人件費などのコストが相対的に高くなるため、競争が厳しくなる」と指摘している。 岩田規久男は「過度の円高は、非正規雇用の比率を引き上げ、製造業を中心とした海外移転を促進し、国内雇用の需要の減少・失業率の上昇をもたらした」と指摘している。
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