日本のスピリチュアル・ブーム
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「スピリチュアリティ」の記事における「日本のスピリチュアル・ブーム」の解説
アメリカのニューエイジ運動は主に「精神世界」の名で日本に広まったが、その後日本で「スピリチュアル」と呼ばれるものにほぼ受けつがれた。ただし、中村晋介によれば、日本のスピリチュアルブームは欧米のニューエイジ運動に由来するものだが、先祖崇拝や死者の魂の実在を重視する日本のスピリチュアルは、欧米のニューエイジ運動と似て非なるものではないかとしている。 ヒーリングや「癒やし」は1995年頃から徐々に知られるようになり、その後急速にブームとなって、それを引き継ぐようにスピリチュアル・スピリチュアリティという言葉が2000年頃から広まっていった。2004年には占い師の細木数子が出演するテレビ番組「ズバリ言うわよ!」(TBS系)がヒットした。しかし、従来型の先祖祭祀や古典的な夫婦関係の復活、地域の寺社への参拝などを強弁した細木に対して多くの女性視聴者は拒絶反応を示した。翌2005年には自らスピリチュアル・カウンセラーを名乗る江原啓之と美輪明宏らが出演した『オーラの泉』(テレビ朝日系)が放送開始され大ヒットした。細木と違って江原は死者への敬意や追慕の念を抱くことの重要性を説きつつも既成宗教の枠組みにとらわれることには批判的であり、「大きな物語」への接近と忌避を矛盾なく並列させることで、自己が多元化した若者に受容されたという。真言宗智積院研究員鈴木晋怜は、江原啓之の人気について「従来の霊能者は、低い霊現象を扱い、風変わりな行動をとり、何らかの宗教的背景をもち、現世利益を提供するというものが多かった。それに比べて、現在の霊能者は、スピリチュアル・カウンセラーと称して、高次のスピリットのメッセージを伝達し、成熟した人格を養うことを重視し、宗教的外観をとらず、クライエントに「人生の地図」を提供するという非常に洗練されたものとなっている」と指摘している。 江原啓之の人気を典型とする「スピリチュアルなものへのあこがれ」を「スピリチュアルブーム」という。スピリチュアルブームの中核には心霊と交流する特殊能力者が出演するテレビ番組のほか、癒やしとスピリチュアルに特化したイベント型見本市 のスピリチュアルマーケット(スピマ)には2009年に年間11万人が利用している。スピリチュアルブームの要因には、個人化した社会の中で傷ついた自己があり、そのような自己が努力や自己責任という言葉でなく、「悪いのはあなたではない」「そのままでいい」という「許しの言葉」によって肯定されることがあるという。 テレビでのスピリチュアル番組が台頭する背景の一つとしては、1970年代に映画「エクソシスト」が大ヒットし、日本のテレビ番組でも超能力や霊能力、心霊写真などのオカルト番組が多数出現したこともある。國學院大學教授石井研士は、テレビ局は霊感商法・霊視商法、カルト教団を批判する一方で、1970年代から霊能力者や超能力者、占い師などを継続的にテレビ番組に登場させてきており、これは視聴者に直接的影響を与えるとしている。 また、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有元裕美子によれば、現代日本の「スピリチュアル」には、ニューエイジのエコロジー、自然志向、平和主義など社会性の高い領域よりも、個人におけるご利益など現世利益的側面が強いという特徴があり、現代日本スピリチュアルは狭義では癒やし、セラピー、補完・代替医療(食事療法を除く)、占星術、東洋思想、古代文明、超自然現象などがあり、広義では哲学、心理学、宗教学、民俗学、人類学、また宗教、日本的霊性(先祖崇拝、巫女、イタコ、ノロ、ユタ、陰陽道など)も含まれる一方、かつての「精神世界」に含まれる潜在能力開発(自己啓発)、ニューサイエンス、疑似科学、オカルト、宇宙人、UFOなどは狭義のスピリチュアルには含まれないとしている。有元は、限られた人の中で愛好されていた「ストイックできまじめな"精神世界"」が、おしゃれで「やさしく明るい"スピリチュアル"」に作り替えられた結果、社会的需要の高まりとあいまって、昨今のブームにつながったのではないかと述べている。忙しい現代では様々な苦難や悲しみから素早く回復することが求められており、「ゆっくりと根本的な回復」ではなく「たとえ表面的にでも通常の生活がおくれる程度まで、『効率的に癒されたい』」という需要が発生する。自ら試行錯誤し答えを得るのではなく、専門家による効率的なプログラムやプロによる高度なサービスにより、短時間で人生の正解を手に入れることが求められるのである。 上田弓子は現代の多様なスピリチュアリティを愛好する日本人の感性には、神道的な感性や、自然崇拝などのアニミズムが大きく関与していると論じている。
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