日本における輸入車のハンドル位置
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/07 14:53 UTC 版)
「輸入車」の記事における「日本における輸入車のハンドル位置」の解説
日本国内では、自動車は左側通行をすることが道路交通法により規定されている。 しかし、日本では一部の輸入車が左ハンドル仕様のままで正規輸入・販売されており、これは世界的には特殊な例である。海外においては、ごく一部の例に限られている。これは「左ハンドル」に対し、ごく一部において「ステータスシンボル」「高級外国車の象徴」といった、自動車本来の機能とは無関係な要素を見出している日本独特の現象であり、輸入販売元がその嗜好にあわせ対応している結果である。通常とは逆側の、運転席が歩道側に面する自動車が、ごく一部であるとはいえそのような地位を得ていることは、先進国の中では日本のみであり、極めて特殊な現象といえる。これには本項にて記述するとおり、輸入車の受容に関する日本独特の歴史的経緯が原因である。 前述のとおり、第二次世界大戦以前の日本では、国内で販売されているほとんどの自動車が輸入車であるか、外国メーカーのライセンス生産により製造された車両であった。フォードとGMの日本国内工場において生産された車両も右ハンドル仕様車であった。 しかし、敗戦を迎えると進駐軍により、北米仕様そのままの軍用ジープ、そして大衆車のシボレーはもとより、ビュイック、キャデラック、リンカーンといった豪奢なアメリカ車が直接持ち込まれるようになった。そういった車両を目の当たりにした戦後すぐの日本人は、それら左ハンドルのアメリカ車に対し憧れとしてのイメージを形成した。それに加え、日本国内のマーケットにおいても、大衆車・実用車の市場は国内メーカーが受け持ち、高級車は欧米からの輸入車が受け持つという構造が早くから形作られていた。日本政府も特にハンドル位置に対する規制を設けなかったこともあり、「舶来物」のエキゾチックな印象、あるいは日本車に対する輸入車としての象徴(ステータスシンボル)として、日本人は「左ハンドル」に対し強い憧れを持ち続けることになった。 このため、かつては日本に輸入される大半の輸入車が、日本と同じ左側通行圏のイギリス車を含めて左ハンドル車であった。日本での大衆レベルへの販売に力を入れていたフォルクスワーゲンなどは1950年代から右ハンドル車を輸入(輸入元はヤナセ)していたが、これは稀な例であった。 1970年代、新設された排気ガス規制(昭和50年排ガス規制 - 昭和53年排ガス規制)に対し、大半の日本国外のメーカーは同等の規制をクリアしていた北米カリフォルニア州仕様車をベースにすることで対応したため、結果的にますます左ハンドル車が多くなることになった。 しかし、こうした象徴性も、日本において輸入車の存在が一般化すると、徐々に消滅してゆく。バブル景気に伴って市場が拡大した1980年代中盤、まずヨーロッパ車を中心に右ハンドル車の導入が進んだ。ポルシェでも、1991年モデルからは全シリーズに右ハンドルモデルが設定されるようになった。1993年(平成5年)には、クライスラーがジープ・チェロキーの日本仕様を右ハンドルに変更・投入した。戦後ビッグスリーのアメリカ生産車としては初めてとなる。 2000年代以降は、日本自動車輸入組合(JAIA)の統計調査によると、輸入車全体の8割超が右ハンドル車となっている。現在は右ハンドル車のみ輸入されている車種が販売の主力になっている。 従来、右ハンドルの輸入車には、ドライビングポジションやペダル配置・感触などに問題がある場合があったが、1990年代の半ばぐらいからメーカー側でも設計時点からの考慮、ドライブ・バイ・ワイヤなど操作系の電子化などにより大きな改善を見せており、それらの問題はほぼなくなった。 一方、心情として「輸入車は左ハンドルであるべき」という信仰を持っている人たちも根強く存在し、スポーツカーや高級車では左ハンドル仕様車のみ輸入されているケースがある。メーカーにより右ハンドル仕様車が製造されているにもかかわらず、それが日本向けとしては用意されない車種すら存在している。フェラーリやランボルギーニといった高級スポーツカーは、日本向け右ハンドル自体は用意されているが、実際の販売では今なお左ハンドル仕様車が中心である。消費者側でも「左ハンドル車を乗り継いだことによる慣れ」 を優先して左ハンドル車が選択されることも多く、イギリス車でも、イギリスから見て本来は右側通行圏向け輸出仕様車である左ハンドル仕様が販売・購入されるケースがある。この場合、日本が左側通行であるという点はもちろん、イギリス車が本国では右ハンドル仕様であるという点すら考慮されていない。 メーカー側の事情もある。GMやフォードの北米生産車では、1990年代の後半には積極的に右ハンドル仕様車を用意したが、2000年代後半に入り再び左ハンドル車に戻した(キャデラック・セヴィルの後継車種であるSTS、フォード・エクスプローラーがその代表例)。これは、両メーカーの業績が悪化したため、右ハンドル車を設計・製造し世界市場へ展開する余力が無くなったからである。キャデラックSTSに関しては2008年モデルから右ハンドル仕様車が再投入されたものの、2015年時点では、右ハンドル仕様のキャデラックは用意されていない。 基本的には左右ハンドルが選べる車種は同一グレードの場合、同じ価格だが、例外として、マイバッハやアルピナ(共にオプション扱いになるため、右ハンドル車が割高)といった少数輸入される高級車があるが、一部には、低価格車としてはGM大宇・マティス(こちらは左ハンドル車が割高)の例があった。かつて輸入されていたアルファロメオ・156や、クライスラー・300C(2006年モデルまでと2011年モデル)は、装備品の違いにより同一グレードでも価格が異なっていた。 2022年現在においては、前述の通り右ハンドル仕様の販売が大半を占め「左ハンドル」への特別視はごく一部を除き消滅しつつある。これについては、日本市場への輸入車の普及が本格化・一般化したものとする意見もある。
※この「日本における輸入車のハンドル位置」の解説は、「輸入車」の解説の一部です。
「日本における輸入車のハンドル位置」を含む「輸入車」の記事については、「輸入車」の概要を参照ください。
- 日本における輸入車のハンドル位置のページへのリンク