文体の特徴
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 07:18 UTC 版)
ケータイ小説を語る上では、しばしば内容だけでなくその文体が関心の的となる。ケータイ小説の文体には、以下のような特徴が見られる。 改行が多い 一文一文が短い 会話が多い 横書きである 情景描写・心理描写が少ない 顔文字・記号・半音(「ゎ」など)の使用 主人公の主観視点・意識の流れ的記述 改行を多用することにより余白が多く生まれることになるが、これは実際にケータイの画面上で読んでいるときのスクロール速度を想定して適当な「間」をつくるために行われている。場合によっては空白のページを1つ挟むこともある。 文章の末尾に句点をつけず、改行やスペースによって文章の区切りを示すこともしばしば行われるが、これは歌詞や漫画のふきだしでの表記でみられるもので、ケータイ小説の文体はこれらから影響を受けている面がある。中には絵文字が使われる作品も存在するが、ケータイ小説全体の中ではそれほど多くは使用されていない。 これらの文体上の特徴のうち横書きであったり文章が短いといった部分は携帯電話というデバイスの特性によるものであり、会話ばかりで描写が浅いといった部分は若年の素人の書き手が直接サイト上に投稿するシステムの特性によるものである。絵本作家の相原博之は、1995年以降に日本のサブカルチャー領域を中心に台頭したとされるセカイ系と呼ばれる作品類型を、「「私=キャラ」が客観的な中間項のすべてを呑み込むように肥大化し、ついには世界そのものと同化してしまう」ような作品である捉えなおし、客観的な情景描写が欠落し主観的な独白や会話文であふれたケータイ小説の文体はまさにそれにあてはまっていると述べている。瀬名秀明は200、300文字程度まで表示する一画面では感情の起伏や山場がを書くには足りず、一瞬で何かを感じさせる必要があり、セオリーによる感情表現でないと読者が付いて来られず、ケータイ小説で表現できるのは喜怒哀楽のような単純な感情が向いているが、読めば感動はしても動物の本能のようでカタルシスとしてはいいが複雑な感情、主人公への感情移入やそういう人生もいいかもしれないと思わせるのは難しいのではないかとしている。 ゴマブックスは日本の名作文学を横書きにするなどケータイ小説に近い文体に直して出版している。評論家の福嶋亮大によると、インターネット上でもケータイ小説の文体を模倣する遊びが行われることがあるなど、既存の物語に対する変換装置として文体が機能しているともいえる。ケータイ小説の文体は、日本語の可塑性の高さの極限を表しているとみることもできる。 後述するように、人気が出た作品は書籍化されることもある。この場合、日本語の出版小説の一般的な体裁(縦書き、右開き)をとらずに、横書きで左開きという特殊な体裁(ノートと同じ)で出版される。ただし、書籍化するときに縦書きに直すことを望む著者もおり、実際、例えば『王様ゲーム』『東京娼女』のように縦書きで書籍化・出版されるケースもある。2019年時点ではローティーン向けの一部を除いてほとんどの作品は書籍化の際は縦書きになっている 小池未樹はケータイ小説の条件に物語がポエム調の文章で始まることを挙げ、他の場面でもあるこの場合のポエムは詩人の詩とは違い、何かを語っているようで何も語っていない抽象的な文で、具体的な固有名詞ができるだけ削られたケータイ小説には相性が良く、その結果による「私の物語でない、と思わせる要素を極限まで除去した、安全な世界」の物語であるとの見方を示した。また嵯峨景子はヒロインの虚無感、孤独の様がどこか心地よく内面描写がないと否定的にみられているのとは違い、小池は深みがない意味で内面描写がないと言われるが精神が発達途上の子からするとその方が助かり、自分と近い印象を持つと肯定している。
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