家畜と環境
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/09 00:09 UTC 版)
2020年時点で、世界には、牛約17億頭、豚約10億頭、羊約13億頭、鶏330億羽の家畜がいる(そのほか七面鳥や山羊などその他の家畜も存在する)。畜産業の土地利用割合は、2004年時点で、全農地の70%だという。この割合は、2019年には77%まで拡大している。これらの家畜飼養に使われるエネルギーは膨大な量に上り、例えば、2017年のランドマーク調査によれば、食肉会社大手のJBS、カーギル、タイソン・フーズの3大企業だけで、2016年に、フランス全土よりも多くの温室効果ガスを排出している。 国連食糧農業機関 (FAO) は2006年に調査報告書「家畜の長い影」(Livestock’s long shadow) の中で「畜産業はもっとも深刻な環境問題の上位2.3番以内に入る」と発表、2050年までに肉・乳・卵需要は倍増すると予測され、家畜の増加に伴う環境破壊は2050年には今の倍以上に広がると警告した。同レポートはまた、放牧によって占められている土地の総面積は約3,430万ヘクタールで、これは地球上の氷のない陸面の26%に相当し、飼料の生産面積は約471万ヘクタールで全農地の33%にあたり、これらの土地の大部分は乾燥や低温によって作物を作るには不向であり、人もあまり住まないような土地であると報告した。 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2019年に発表したレポートには次のように述べている「動物ベース食品の消費量が多いほど環境への影響の推定値が高くなり、植物ベース食品の消費量が増えると環境への影響の推定値が低くなる」「動物性食品がまったく消費されない最も極端なシナリオでは、現在使用されているよりも少ない土地で、2050年でも十分な食料生産を達成でき、かなりの森林再生を可能にし、土地ベースの温室効果ガス排出量を3分の1に削減できるとされている。」。IPCCワーキンググループ2は2022年2月に発表した第6次評価報告書(気候変動2022:影響、適応、脆弱性)の草案では、新しいタンパク質源として、培養肉(clean meat)は食用タンパク質の需要に寄与し、そのような技術は、牧草地や植物由来の飼料生産のための土地利用を大幅に削減する可能性があるとした。削減された分の飼料のタンパク質源は植物性飼料などの土地由来の作物の代わりにミールワームやバエなどの昆虫由来の飼料を使うことで畜産由来のGHGを削減する可能性があるとされる。また海藻の紅藻や緑藻は、非常に消化の良いタンパク質を豊富に含み、ウシとヒツジのメタン産生を減少させる。新しいタンパク質源は、食料と飼料のタンパク質の持続性に貢献できる可能性を秘めているとした。その後、IPCCワーキンググループ3が2020年4月に発表した第6次評価最終報告書(気候変動2022年:気候変動の緩和)では、培養肉に加え、新興食品技術である cellular fermentation(発酵ベースの細胞農業)や代替肉は世界の排出量を大幅に減少させることができるとした。また、排出量の削減に加え、土地や水の使用の低下、人獣共通感染症リスクの低下、抗生物質使用削減につながり、動物福祉の問題への対応できることにも言及した。植物性タンパク質の割合が多い食事、動物性食品の適度な摂取、飽和脂肪の摂取量の減少は、GHG排出量の大幅な減少につながる可能性があるとした。 家畜による環境負荷は高く、例えば毎日グラス1杯の牛乳のためには650㎡の土地が必要であり、この面積は乳代替品(豆乳やライスミルク、アーモンドミルク)等と比較して10倍も高い。このような生産効率の面が指摘されることもある。2019年にサイエンスジャーナルに掲載された論文は、「肉と乳製品生産には、全農地の83%が使用されているにもかかわらず、そこから得られるカロリーは18%にすぎない。」と報告する。 以上のような背景から、環境問題の解決策の一つとして動物性食品の消費削減や家畜の数の削減が提唱されるようにもなっている。 2018年10月10日、科学誌『ネイチャー』に、「世界は壊滅的な気候変動を回避するために、肉の消費量を大幅に削減することが不可欠だ」とする研究結果が発表された。 2019年1月16日付の英医学雑誌The Lancetには「野菜を多くとり、肉、乳製品、砂糖を控える」ように提案する論文が、発表された。「ランセット委員会」の名の下に、栄養や食に関する政策を研究する世界の科学者30人が3年にわたって協議し、100億人の食を支えるために、各国政府が採用できる案をまとめたもので、こうした食の改革を行わないと、地球に「破滅的」なダメージが待ち受けているという。 2019年12月、科学者たちは、畜産業がこのまま拡大し続けるなら2030年には気温が1.5度上昇するのに必要な二酸化炭素の49%を畜産業が排出することになる、と述べ、畜産業は「これ以上家畜生産を増やさない」というピーク点を設定すべきだと表明した。
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