大船団主義の採用
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1944年(昭和19年)2月にヒ40船団の全滅などを経験した日本海軍は、海上護衛総司令部の発案にもとづいて、ヒ船団の運用方針を大船団主義に転換した。これは、船団の運航頻度を減らして1個の船団の規模を大型化することで、護衛艦艇の集中を図る戦術であった。1隻だけの護衛艦の無力さが明らかになり、特にアメリカ海軍潜水艦が群狼作戦を採用しつつあることからも、1個の船団に複数の護衛艦が必要と認識されたのであった。既述のように本来のヒ船団は石油輸送用の高速船団であったが、フィリピン行きの増援部隊を積んだ軍隊輸送船も途中まで同行することが多くなり、これも船団の大規模化につながった。 大船団主義の本格採用と合わせ、1944年(昭和19年)4月には石油輸送船団の速度別の再編が実施された。船団速力13ノット以上を高速ヒ船団(ヒA船団)、船団速力9 - 12ノットを中速ヒ船団(ヒB船団)とし、それ以下の低速船団としてシンガポールより日本に近いボルネオ島ミリ行きのミ船団が創設された。高速のヒA船団は従前目標通りの門司=シンガポール直行便を建前とする一方、中速のヒB船団は高雄に途中寄港する運用へと変わった。 護衛強化策としては、量産が軌道に乗った海防艦が次々とヒ船団用に投入された。1944年(昭和19年)1月から試験されていた船団護衛への空母使用も、護衛空母搭載用の第931海軍航空隊を同年2月に創設、同年4月のヒ57船団から本格運用に移された。日本における船団護衛への空母使用は、上陸作戦時などの例外を除けば、ヒ船団のみで行われた。空母から哨戒機を飛ばすことで、敵潜水艦に対する探知能力を強化する目的であった。兵力の増加した護衛部隊の指揮統制のため、特設護衛船団司令部の制度も導入された。特設護衛船団司令部は司令官の少将以下人員若干のみの組織で直接の戦闘兵力を持たず、船団編成時に集められた護衛艦艇を臨時に指揮することになったが、司令部専属の参謀もいない態勢で、寄せ集めの護衛部隊を有効に統制することは困難であった。その後、1944年(昭和19年)11月、司令部だけでなく固有の戦闘艦艇を有する初の護衛専門戦隊として、第101戦隊(軽巡1隻・海防艦6隻)が編成されている。同年12月には、第一海上護衛隊が第一護衛艦隊へと格上げされた。 こうした大船団主義の下で、ヒ船団の規模は輸送船10隻程度に護衛艦5隻以上と拡大された。最大級の事例は、空母3隻を含む輸送艦船17隻と護衛艦艇10隻で構成されたヒ69船団、輸送艦船20隻と護衛艦艇14隻で構成されたヒ71船団などがある。従来の日本船団に比べて大規模であったが、大西洋の戦いでイギリスが運航していた護送船団に比べると小規模であった。 1944年(昭和19年)4月の船舶被害は一時的に大きく減少したことから、大船団主義は潜水艦に対する被害対策として一定の効果があったと日本側では評価されている。もっとも、アメリカ潜水艦が通商破壊以外の任務に振り向けられたことや、運用ローテーションにより練度の低い艦が増えたことの影響とする見方もある。いずれにしろ大型化した船団でも、レーダーやソナーなどの対潜水艦用センサーが劣っていたことなどから、防御が完璧ではなかった。ヒ船団で最大規模のヒ71船団は、輸送船4隻沈没・3隻損傷のうえ、護衛の空母「大鷹」まで失った。優秀輸送船10隻・護衛艦7隻のヒ81船団も、多数の兵員・物資を搭載した陸軍特殊船2隻と護衛の空母「神鷹」が撃沈されてしまっている。 マリアナ諸島の攻防戦が一段落した1944年(昭和19年)後期は、アメリカ潜水艦が日本の南方航路周辺に集中するようになり、ヒ船団の戦いは一層激化した。アメリカ海軍はサイパン島に潜水母艦を進出させて前線基地とし、潜水艦が短い航海で南方航路付近に到達できるようになった。ヒ船団やフィリピンへの増援船団が多く航行するバシー海峡周辺海域は、アメリカ海軍によって「コンボイ・カレッジ」(英語: Convoy College;船団大学)とあだ名され、潜水艦部隊の格好の戦場と見られた。 また、大船団主義は主に潜水艦対策として採用されたものであったが、フィリピンへの連合軍上陸など戦況が悪化して新たに航空機の脅威が大きくなると、かえって一網打尽にされる弊害が出てきた。1945年(昭和20年)1月、それぞれ護衛艦を合わせて15隻以上の大型船団だったヒ86船団とヒ87船団は、南シナ海に侵入したアメリカ海軍第38任務部隊の空母航空隊による空襲を受けて、相次いで壊滅してしまった。
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