大気圏再突入および着陸
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/03 02:40 UTC 版)
「スペースシャトル」の記事における「大気圏再突入および着陸」の解説
シャトルの大気圏再突入の過程では、降着装置をおろすのと、対気速度計に使うピトー管 (air data probe) を展開する作業以外はすべてコンピューターが自動で行うが、もし何か緊急事態が発生した場合は手動で再突入することも可能である。滑走路への進入と着陸も自動操縦装置に任せることはできるが、通常は手動で行われる。 再突入の作業は、まず軌道船の飛行方向を反転させ、機体後部を進行方向に向けることから始まる。その姿勢でOMSロケットを進行方向に約3分間噴射し(逆噴射)、軌道周回速度を322km/hほど減速する。これにより、軌道の近地点を下げて大気圏上層部に入るようにする。逆噴射の間にかかる加速度は約0.1Gである。その後軌道船は反転して機首を下げ(地球から見ればひっくり返した姿勢になっていたので機首を上げる方向(ピッチ軸を時計回り)に180度回転)、機首を進行方向に向ける。逆噴射は、着陸地点のケネディ宇宙センターから見てほぼ地球の裏側の、インド洋上空の赤道付近で行われる。 高度約120kmの熱圏下層部にさしかかる頃、機体にかかる空気抵抗が顕著になりはじめる。この時の速度はマッハ25(時速30,000km、秒速8.3km)ほどである。シャトルは40°ほどの迎角をとりつつ姿勢制御システムと動翼を併用して機体を制御し、長い航跡を引いて速度だけでなく熱も減少させながら次第に降下していく。空気抵抗が増加するにつれ、シャトルは宇宙船から次第に航空機としての性格を現すようになる。直進している間は、機体には機首を下げるかもしくは40°よりも高い迎角をとらせようとする力が働く。軌道船は途中で4回、70°以上の深いバンク角をとったS字飛行をする。この間迎角は40°を保ったままで、各Sターンは数分間行われる。この操作を行うことで、機体の運動エネルギーを上下方向ではなく左右方向に分散して減速する。このS字飛行が始まるのは熱負荷が最も強烈になる時間帯で、この間熱保護シールドは灼熱化し、加速度は最大となる。最後のターンが終わる頃には軌道船は完全に航空機(グライダー)となっており、機首を下げて機体を水平にし、着陸施設への進入作業が開始される。 軌道船が超高速で飛行する状態をコンピューター・シミュレーションで再現した画像 メディアを再生する エンデバー号(STS-127)帰還の動画 軌道船の最大滑空比/揚抗比は速度によって相当に変化し、極超音速域では1:1、超音速域では2:1で、滑走路への進入と着陸を行う亜音速域では4.5:1にまで低下する。大気圏下層部では、軌道船は毎秒50m(時速180km)という高い降下率を除けば通常のグライダーのように飛行する。この高い高い降下率は、しばしば「空飛ぶレンガ」「翼の生えたレンガ」と揶揄される。速度がマッハ3程度にまで低下したところで、機体の対気速度を検出するため、胴体前方下部の左右両側に設置された対気速度測定用のピトー管が展開される。 高度3,000m、滑走路端まで12kmに達したところで、進入および着陸操作が開始される。飛行士は空力ブレーキを作動させ、機体の速度を682km/hから着陸速度の346km/hにまで減速させる(一般的なジェット旅客機の着陸速度は260km/h程度である)。機体のノーズは滑走路手前ギリギリまでノーズダウンの状態であるが、着陸寸前でノーズアップの状態とされ機体下面の空気抵抗を利用してさらに減速が行われる。430km/hで降着装置がおろされ、343km/hあたりでタイヤが接地し着陸する。シャトルは通常航空機に対して重く、着陸時のタイヤへの加重は過酷で、ボーイング747の2-3倍の63.6トンにもなる。タイヤは16層構造で1本4000ドルで6回まで再使用できるが、実際は使い捨てである。空力ブレーキの作動を補助するために、後輪または前輪が接地したところで直径12mのドラグシュートが展開されるが、どちらの段階で開くかはシュートの展開モードの選定によって変わる。ドラグシュートは機体が110km/h以下になった段階で投棄される。 着陸後は、機体の表面温度が下がるまで数分間待ち、有毒な水素やヒドラジン、四酸化二窒素(姿勢制御システムや3台ある補助動力装置の燃料として使用される)、アンモニアが機体周囲から検出されないかを確認し終えるまで、軌道船は滑走路上で停止したままにされる。支援車両によってパージとベント用の配管が軌道船の燃料配管と貨物室への配管に取り付けられ、着陸後約45-60分かけて有害なガスが除去される。 以上の着陸行程は、基本的にグライダーとして動作するために、やり直しが行えない。そのため着陸地点の天候は厳重にチェックされ、気象予報によっては他の着陸ポイントに変更される。機体は航空機としては非常に重量があるため、通常の飛行場の滑走路では耐えられず、特別に強化された路面をもつ飛行場が選ばれた。通常はNASAシャトル着陸施設の長さ5.2kmの滑走路が主に使用されるが、カリフォルニア州のエドワーズ空軍基地も使用された。この他世界各地に予備の着陸地点が指定され、日本では嘉手納飛行場がその一つであった。 上記のような操縦特性とアプローチに習熟するため、NASAではガルフストリーム IIを改造したシャトル訓練機での訓練を行っていた。 タイヤが接地する瞬間、摩擦で煙があがっているところ(ディスカバリー、STS-95) 着陸(ケネディ宇宙センター、コロンビア、STS-73) 着陸直後、減速のためにドラグシュート(後方のパラシュート状のもの)を展開する(エンデバー号) 停止後、乗降用のタラップが寄せられたところ。(ディスカバリー号) シャトル訓練機
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