他言語への輸出
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/09 12:40 UTC 版)
21世紀現代の日本語「かわいい(可愛い)」は他言語圏へ輸出されてもいる。ほとんど全ての輸出は日本語発音 (IPA) [ /kaɯβ̞aii/ ] の音写形としてである。 日本のポップカルチャー研究家・櫻井孝昌によれば、2009年(平成21年)時点で「21世紀に入って世界に最も広まった日本語」であり、その広がりは、「かわいい」に相当する語──その言語における「かわいい」の借用語──を実際に使用しているわけではない高齢世代にも語意を理解されるまでになっている。普及していることについて櫻井が提示する一つの証左として、外務省が2009年(平成21年)2月26日付で行ったポップカルチャー発信使(公認の通称:カワイイ大使)就任の記者会見やインタビューにおいて、当局の配布資料に記されていない「かわいい」(実際にはそのローマ字表記である『kawaii』)という語に関して日本国外メディアから一切の質問が無かったという事実がある。この例にあるとおり、日本国外メディアにおいて(※少なくともそれら日本担当者において)「かわいい」という語はこの時点で既に解説不要なほどに周知されていた。「かわいい」にいくらか近い意味をもつ語は諸言語にもあるが、根底にある概念から極めて類義と見なせるようなものは存在しないため、「かわいい」「kawaii」という語が輸出されて使われるようになったのだと、櫻井は分析している。 もっとも、日本語以外での語義は、辞書に載っている現代日本語「かわいい(可愛い)」そのままではなく、それを含むかなり広い範囲の意味をもつ包括的概念と考えるほうがよいとも、櫻井は言っている。実際、日本国外での用法を日本語話者向けに解説する場合には、日本語の用法と日本語以外での用法を明確に区別する目的をもって、日本語以外で借用語として用いられるものを「カワイイ」と片仮名表記することで示そうとする例が多い(※本項もこれに準じる)。「カワイイ」を象徴するキャラクターの代表格としてはハローキティがある。他方、日本国外製の──より厳密には、日本や東京のテイストを含まない──スヌーピーのようなキャラクターに「カワイイ」は用いられない。つまり、日本語由来借用語の「カワイイ」には「日本」や「東京」を文化的背景とするものに対する評価が含まれているのだと、櫻井は言う。 日本語由来借用語の「カワイイ」は、10代から20代の若い女性の間で、現代日本的で小さくて愛らしいという意味で用いるのが、主な用法である。このほか、漫画やアニメなどの日本文化が輸出された際に、現地の読者・視聴者がそれらに登場する可愛いキャラクターに対してこの語を用いる。 中国語圏では、旧来の中国語「可愛(普通話拼音:kě'ài〈日本語音写例:クゥーァアィ、クゥーアィ〉、広東語拼音:ho2ngoi3)」と互換性があるため、この語がそのまま日本語の「かわいい(可愛い)」の意味にも転用されている。また、それとは別に、日本語発音 [ /kaɯβ̞ii/(カワイイ)] を音訳した「卡哇伊(普通話拼音:kǎwāyī〈日本語音写例:カァーゥアイー〉、広東語拼音:ka1wa1yi1、ka2wa1yi1〈日本語音写例:カァーゥアイー〉)」が現地語化している。初出の時期は不明。Google Trendsが遡れる最古の2004年の段階で検索ワードとして使われているほか、百度百科は2006年4月にサービスを開始しているが、2006年4月の段階で卡哇伊の記事が作られているので、これよりも前から使われている。 欧米の諸言語には、現代日本語でいう「かわいい」の概念を正しく対訳できる語が存在しない。 たとえば、英語の "cute(日本語音写:キュート)" や、イタリア語の "carino(日本語音写:カリーノ)" と "carina(日本語音写:カリーナ)" は、いずれも「未熟なもの」「幼児的愛らしさ」という本来の意味での「かわいい」くらいの表現しかないため、日本発の概念を表すのには "kawaii" を用いることが多いようである。 ロシア語では、現代日本語「かわいい」に由来する "кавай(ラテン翻字:kavaj など、日本語音写例:カヴァーイ)" とその異表記 "кавайи(ラテン翻字:kavaji など、日本語音写例:カヴァーイ)" があるが、他の欧米諸言語と同じく漫画・アニメ文化を中心として広まったため、日本語「かわいい」の本義よりも日本語「萌え」に近い意味合いで使用される傾向が強く、また、形容詞化された "кавайный(ラテン翻字:kavajnyj など、日本語音写例:カヴァーイヌィ)" も散見される。 フランスには "Kilo Shop Kawaii(キロショップ カワイイ)" を屋号として掲げる古着屋があり、パリ本店やルーアン店で古着を重量単位の価格で販売(量り売り)している。2014年5月23日から、この業者は「KILO SHOP TOKYO」を謳って東京の表参道へも進出しており、ラフォーレ原宿店と五本木店(ラフォーレ原宿内に所在)がある。 「カワイイ」の文化論的著作としては、マンチェスター大学所属のイギリス人社会学研究者シャロン・キンセラ (Sharon Kinsella) が1995年に著した『Cuties in Japan 』、『ニューヨークタイムズ』誌の記者ケン・ベルソン (Ken Belson) と『ブルームバーグ ビジネスウィーク』誌の東京支局長ブライアン・ブレナー (Brian Bremner) が2007年に刊行した共著『The Remarkable Story of Sanrio and the Billion Dollar Feline Phenomenon(邦題:巨額を稼ぎ出すハローキティの生態)』、日本人比較文学者・四方田犬彦が2006年(平成18年)に著した『「かわいい」論』などがある。これらの著作では、「カワイイ」を日本発の感性価値としたうえで、未成熟なものを不完全なものとみなす従来のヨーロッパの価値観に対して、それらを「カワイイ」ものとして肯定的に評価する日本的な美の原理に特徴を見いだしている。
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