今後の課題と対策
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/26 08:20 UTC 版)
明治日本の産業革命遺産が世界遺産に推薦された時点で既に拡張登録を望む声があり(稼働遺産ではないが東日本大震災からの復興の契機としたい福島県いわき市の常磐炭田など)、稼働遺産の世界遺産登録に尽力し内閣官房参与も務めた加藤康子は黒部ダムの可能性を示唆、京都では琵琶湖疎水(国内唯一の運河法適用)の登録を目指しており、開業50周年を迎えた東海道新幹線の可能性も浮上するなど、今後稼働遺産の保護は必然的となる。 世界遺産条約関係省庁連絡会議参加省庁や稼働遺産を有する自治体は有効な法律の活用を検討しており、これまでに工場立地法や民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)などが浮上している。 この他、政府はものづくり支援を掲げものづくり基盤技術振興基本法を整備しており、国家戦略特区に提案された「歴史的建築物活用特区」が採用されれば稼働中にある工場などを取り込むことも可能であり、産業観光による地域おこしを推進する観光立国推進戦略会議(国際競争力のある観光立国の推進)は「産業遺産、産業施設を観光資源として積極的に活用する」とし、全国産業観光サミットが採択した定義では「生産現場(工場・工房等)」を含めており、観光産業推進会議も対象に「産業設備・機械などものづくりの製造現場」を上げている。これらの提言から観光立国推進基本法が制定されているが、現時点で直接的に産業遺産を支援するための運用はされていない。その一方で、生産現場には危険性や企業秘密に抵触する部分もあり、どこまで開放公開するかは各企業判断に委ねられる。 ユネスコ事業の一つである創造都市ネットワーク(クリエイティブシティネットワーク)は法的拘束力こそないが、地域に根差した文化産業を活かし社会的経済的発展を目指すもので、技術と芸術が融合した文化的産物を生み出す都市を対象とすることから、中小企業や町工場が保護されることに繋がる。例えば音楽部門で認定されているイタリアのボローニャでは、職人による個人経営の楽器工房を中心に関連産業が独自に成長し、繊維業や家具製造に始まりフェラーリやドゥカティの部品生産、その設計を請け負うコンピュータ技術からIT産業まで展開し複合産業都市となり、法人税収益によって工場の維持支援や町並み保存に還元されており、日本の伝統工芸を支える稼働遺産保護の在り方の参考になる。 一方、稼働させ続けるため今後故障した際に機械類の部品交換を行うことは純正品であっても、オーセンティシティ(真正性)の観点からすると価値を損なったと見做されかねないことは真正性の奈良文書(英語版)や国際産業遺産保存委員会の「ニジニータギル憲章」で確認されており、企業と行政による文化資材の選定と管理の徹底も求められる。 明治日本の産業革命遺産の実地調査を行ったオーストラリア・イコモス(英語版)は、「稼働遺産保全への取り組みは企業の社会的責任のみならず、経営方針を左右する株主の社会貢献意識も重要である」と言及しており、三菱重工の長崎造船所分社化計画など企業の経営体制が世界遺産へ影響を与えかねない可能性もある。さらに、八幡製鉄所を候補とした際に今井敬新日鐵住金名誉会長は「うちが遺産になったらお終いだ」と激怒したという。遺産という言葉に稼働施設を持つ企業が過剰反応したもので、そうした誤解を払拭する必要もある。 また、今回の世界遺産登録の過程で、長崎造船所(第三船渠、ジャイアント・カンチレバークレーン、旧木型場)、三池炭鉱(三池港)、八幡製鉄所(具体的な施設名の提示なし)は強制徴用があった場所として韓国が猛反発し、その史実の表記をすることで妥協したが、どのような記述になるのか、またその表現次第で韓国が2017年の記憶遺産登録を目指す『日帝時被徴用者名簿』『倭政時被徴用者名簿』『国務総理所属の対日抗争期強制動員被害調査および国外強制動員犠牲者支援委員会作成名簿』の動向に影響を与えかねない杞憂もある。
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