今後の在り方について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/03 22:28 UTC 版)
「日本の世界遺産」の記事における「今後の在り方について」の解説
新型コロナウイルス感染症の流行により、2020年に開催予定であった第44回世界遺産委員会が延期となったため、文化庁文化審議会世界文化遺産部会は2022年に審査を受ける国内候補選定を行わないことにし、2023年審査分選定も例年の7月には行わず2021年中に結論を出すと先延ばしにした。 このような社会情勢に加え、ユネスコと世界遺産委員会が世界遺産に求める条件が多様化したこと(以下に列挙)などをうけ、2020年10~11月にかけて文化審議会世界文化遺産部会は今後の世界遺産の在り方について協議を始めた。 近年、ユネスコ・世界遺産委員会は、災害等を含めた管理体制と被災時における適正な復旧手法の事前構築、緩衝地帯を含めた景観保護や開発の監視・規制、世界遺産管理のエッセンシャルワーカーとしてのサイトマネージャーの育成、文化遺産維持に必要な文化資材の確保、遺産の価値や意義の周知徹底、保存活動への地域コミュニティの関与、世界遺産が与える地域貢献の具体案、観光公害対策を求めるようになり、こうした条件に対応できる物件・地域(自治体等の地方行政機関)でなければ世界遺産の候補とすることは難しいとした。 また物件そのものも、ユネスコや諮問機関がこれまで行ってきたテーマ研究に基づく「世界遺産リストにまだ充分に反映されていない分野」から選定すべきとし、これは前述の西村の意見とも合致しているほか、イコモスによる「遺産としての農村景観に関する原則」に基づき地域多様性を反映する一般家屋や集落景観の可能性も示唆。 文化ナショナリズムが台頭していることをうけ、国際軋轢(あつれき)を生まない物件にする配慮も必要とする。 さらに、国連機関の一員であるユネスコは、国連が推進する持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みから持続可能な開発のための文化を採択し、持続可能な開発を世界遺産にも反映させるべく求めるようになり、今後の世界遺産登録を目指す際には官民一体となった対応が不可欠とされる。SDGs目標11「包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する」の第4項に「世界の文化遺産および自然遺産の保全・開発制限取り組みを強化する」と明記されており、特に世界遺産候補地周辺での開発は慎重かつ国際ルールに則った適切なもので実施しなければならない。 こうしたことを踏まえ、2021年1月21日に開催した文化審議会世界文化遺産部会は新たに推薦されるべき候補として、 地震や洪水といった防災に係るもの 対象の保護に無形文化遺産が必要不可分に関わっているもの 独自の信仰形態を表すもの 自然の尊重や自然との共生という古来からの精神を体現したもの 自然環境と生活の相互作用が独自の文化的価値を表現しているもの その時代の日本文化を象徴する資産が全国に展開されているもの 戦後の復興を象徴するもの という指標を示した。 また2021年2月4日の同部会では、トランスバウンダリー(国境を超える遺産)での国際協調も重視するとし、ユネスコの求めに沿った複数の都道府県をまたぐシリアル・ノミネーションの増加を指摘。2005年、2006年のように単体の自治体推挙による公募制は採らないこと(シリアル・ノミネーションの優位性を示唆)や各既登録地の拡張登録を模索すること、自然との共生や相互作用を意識して自然面での保護根拠にエコパークやジオパークを充てる試みなどを決めた。 3月30日の最終部会では、前回で単独自治体推挙による公募制を採らないとしたことをうけ、新候補地の選定方法として、文化審議会と外部有識者による書類審査・現地調査・ヒアリングで、前述の諸条件を満たし証明してるかを検証するとし、文化庁幹部は「有力候補を一本釣りする」としている。 さらに2021年に順延開催された第44回世界遺産委員会において、世界遺産保全に気候変動対策を盛り込むことが決定し、新規推薦に際して遺産影響評価(HIA)として被害想定シミュレーションと対策案を盛り込むことが義務付けられ、対応が求められる。 一方、自然遺産に関しては、生物多様性条約において生態系保全のため2030年まで国際社会が取り組むべき行動指針として、全世界の陸海域の30%を生物・生態系保護区にするという目標が定められ(2010年制定の愛知目標では陸域の17%、海域の10%と設定)、各国の制度下で国立公園や国営保護区を積極的に設けるよう求める方向性が示され、ユネスコとしても世界遺産に登録枠を設けることができないか検討することになったことから、その可能性を追求する余地も出てきた 世界遺産の推薦は2020年から文化遺産・自然遺産を問わず審議対象は一国一件に限られるようになり、全体審議数も35件までとして登録数の少ない国を優先するため推薦物件が多い場合には日本からの推薦が受理されない可能性もあるなど(2021年第44回世界遺産委員会での新規登録で日本は25件となり保有数で世界11位になった)、一層狭き門となるつつある状況に加え、正式推薦に先立ち「潜在的顕著な普遍的価値(POUV)」などを書面審査する「事前評価」制度を導入することが決まり、推薦書作成に際してさらに手間と時間を要するようになり、これにも対応しなければならない。
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