インディアンによる廃止変更要求
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/29 23:34 UTC 版)
「ワフー酋長」の記事における「インディアンによる廃止変更要求」の解説
「特定の民族を、動物並みに球団のマスコット・キャラクターとして使用する」という「インディアン・マスコット」の典型として、この「ワフー酋長」のキャラクターは長年にわたり、「アメリカインディアン国民会議」(NCAI)や、多数のアメリカインディアンの団体、個人からの廃止要求に晒され続けている。「全米黒人地位向上協会」(NAACP)や、「米国市民権委員会」もこの要求に賛同している。 「インディアン民族のスポーツチームの名称やマスコットでの使用」とその廃止要求運動は、各界多数のインディアンが「インディアン戦争」と位置付けている問題である。 1972年、当時、インディアン権利団体「アメリカインディアン運動」(AIM)のクリーブランド支部代表を務めていたラッセル・ミーンズらが、「ワフー酋長の意匠はインディアンの伝統を卑しめている」として、チーム名の変更と、ワフー酋長の使用廃止を求め、大規模な抗議デモを本拠地球場前で行った。さらにラッセルらは、これらチーム名、マスコット使用をインディアン民族に対する人種差別であるとして、インディアンス球団に対して900万ドルの損害賠償訴訟を起こした。 ラッセルはこの訴訟の中で、球団に対して「私は、あなたたちに呪いをかける。あなたたちは、決してワールドシリーズに勝つことはない。それはあなたたちの業だ」との抗議声明を行った。この抗議と訴訟は、インディアンスのファンの猛反発を呼んだ。ラッセルの許にはインディアンスのファンからの嫌がらせの手紙が殺到し、その中の何人かは、アメリカインディアンに対する民族浄化を主張していた。あまりの嫌がらせのひどさに、ラッセルは「クリーブランド・インディアンセンター」の所長を辞任せねばならなかった。 1992年、「AIM」はヴァーノン・ベルコートが中心となり、「インディアン・マスコット」根絶のための全国組織「スポーツとメディアにおける人種差別の全国連合」(NCRSM)を結成。シャーリーン・テッタース、スーザン・ショーン・ハルジョといった女性インディアン運動家も、「インディアン・マスコット」根絶に向け、連携体制をとって全米に抗議運動を展開し始めた。シャーリーン・テッタースは、「インディアンにとって酋長は高い尊敬を受ける立場であり、このようなにやついた顔で見世物にされるような存在ではない」と「ワフー酋長」を激しく批判している。 1994年、「インディアンス」の新球場「ジェーコブス・フィールド」完成に合わせ、反「ワフー酋長」を掲げた大規模デモが、球場周辺で決行された。ヴァーノン・ベルコートたちインディアン抗議者はワフー酋長のマスコット人形を燃やして抗議し、ヴァーノン他4人のインディアンがクリーブランド警察によって「加重放火」の罪で逮捕された。 1998年、「連合メソジスト派協会」の「東オハイオ会議」が「ワフー酋長」の非難決議の採決を行ったが、2/3の過半数の反対によって却下された。 1999年10月7日、クリーブランド、ボストン間でのア・リーグ地区決勝戦に合わせ、ジェーコブス・フィールドで抗議デモが行われる。 2000年、クリーブランド市長ミッチェル・ホワイトは、すべての市有財産からの「クリーブランド・インディアンス」のロゴの撤廃を議会提案した。市長と側近たちは、「チームが使用している“赤い顔をした”、“鉤鼻の”アメリカ・インディアンの描写は、不快な人種差別主義の象徴であり、市有財産にふさわしくない」とし、「行政は人種的、民族的ステレオタイプの特徴付けに、常に敏感なものです」と表明した。この声明に対し、「クリーブランドAIM」のロバート・ロシュは「提案されたこの政策は、長年の悲願である」とコメントし、対するインディアンスはコメントを避けた。 この年5月、クリーブランドで開催された「連合メソジスト派協会」の代表は、「インディアンス」のオーナーに「攻撃的な意匠」を削除するよう申し入れ、「以後、こういったインディアン・マスコットが存在する都市で、会議を開かない」と決定した。宗教団体の姿勢変化の背景には、黒人のキリスト系団体からの非難の声の高まりがあった。シオン山バプティスト教会のラリー・メーコン師は、この「ワフー問題」に関して、「我々はこれが、我々の兄弟であるインディアンの差別的な肖像であり、彼らに対する攻撃であると感じた。私はこれを非常に重要な問題であると思っている」とコメントしている。 これを受けてクリーブランドの「ウェスタン・リザーブ長老会」は、「インディアン・マスコット」を使用しているスポーツ・チームに対して、新しい意匠を採用するよう促すことを決議。さらに長老会派の信者に、インディアンを否定的にステレオタイプ化した製品を買わないよう申し入れた。11月には、オハイオ司教教区が「ワフー酋長」の廃止要求と、教会の信者に対してインディアンスの意匠製品の不買を求める決議を採択した。宗派のアリソン・フィリップス師は、「報復の嫌がらせへの恐れは別として、異なった宗教団体が、道徳的な問題に立ち向かうために、最終的にまとまった」とコメントした。 2002年4月24日、クリーブランドの地元新聞「CityNews」紙の発行者であるジェームズ・クロスビーが、インディアンの主張に賛同し、デモ抗議に加わった。 2005年5月19日、米国最高裁判所は、「AIM」のヴァーノン・ベルコートらの「1994年にワフー酋長の人形を燃やした抗議に対する市警察の逮捕は、憲法修正第1条の言論の自由の侵害である」とする告訴を却下した。オハイオ州最高裁判所はすでに、ヴァーノンらに不利な裁決を下していた。ヴァーノンは地元紙『The Cleveland Plain Dealer』のインタビューに対し、こうコメントしている。 我々が球団やフランチャイズ所有者とメディアの注意を引いたのは、ワフーの人形を燃やした時だけだった。 2018年1月29日、クリーブランド・インディアンスは2018年シーズンをもってワフー酋長のロゴの使用を中止することを発表した。
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