書類送検
刑事事件の手続きの流れ上、警察から検察へ事件を移管する際に、被疑者の身柄拘束・引き渡しを伴わない手続きのこと。調査書類および証拠物の引き渡し(送致)のみ行われる。
被疑者が逮捕された刑事事件においても、調査書類および証拠物の送致は行われる。その意味で、被疑者を逮捕した事件にも書類送検は伴う。「書類送検」は法律上の用語ではなく、主にマスメディアなどにおいて、多くの場合は「逮捕を伴わない逮捕事案」とでも言うべき意味合いで用いられている。
逮捕は被疑者の逃亡や証拠隠滅工作をあらかじめ阻止する目的で行われる、一時的な身柄拘束である。そのため、被疑者が逃亡などを図ることがないと判断される場合は、逮捕せず書類送検の手続きのみを取ることがある。また被疑者がすでに死亡している場合も、身柄の拘束が必要なく、おのずと書類送検のみの手続きとなる。
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書類送検
書類送検(しょるいそうけん)とは、刑事事件において被疑者の身柄を拘束せず(拘束しない状態で)警察から検察庁に捜査書類を送付する手続きのことである。報道などでよく用いられる表現ではあるが、法的に(刑事訴訟法などで)定義されているような用語ではない。
書類送検は、主に、被疑者の逮捕が行われない場合や、一度逮捕した被疑者を釈放した場合、すでに事件の時効が成立している被疑者の場合などに実施される。
「書類送検」という言葉が報道などで用いられる場合は、「警察から検察庁に捜査書類を送る」という意味だけでなく、さらに「警察から検察庁に捜査の主体が変わった」という意味も含まれている。実際、書類送検が実施された後は、刑事などの警察官に代わって検察官が被疑者の取り調べを行うことになる。
英語では「書類送検」は「send(ing) papers to prosecutors」あるいは「send(ing) the case to prosecutors office」といった表現が用いられることが多い。
書類送検は、警察での被疑者の取り調べがひと通り済んだ後に行われる検察官送致の刑事手続のひとつである。刑事事件は、まず警察が被疑者の取り調べを行い、のちに検察庁が捜査を引き継ぐ、という流れで進められる。書類送検の際には、被疑者の罪状とともに警察側の見解も検察庁に送られる。書類送検の後、送られた捜査書類や証拠などをもとに検察庁が改めて捜査を実施し、起訴・不起訴いずれの処分を下すか決定する。
書類送検の際に検察側に送られる警察側の見解は、「処分意見」と呼ばれる。処分意見は、「厳重処分」、「相当処分」、「寛大処分」、「しかるべき処分」の4種類に区分される。
・「厳重処分」は、起訴による厳重な処分を強く勧める意見。
・「相当処分」は、起訴するか否かの判断を検察側に委ねる意見。
・「寛大処分」は、起訴猶予などの寛大な処分を求める意見。
・「しかるべき処分」は、嫌疑が定かでない等の理由で不起訴を求める意見として知られる。
書類送検の後に起訴処分となった場合には、裁判所に公訴され、被疑者は刑事裁判を受ける流れになる。一方、検察官により不起訴処分と決定された場合は、公訴は実施されず裁判なしでそのまま刑事手続きが終わるのが一般的といえる。
不起訴処分になった被疑者は、後から身柄を拘束されるようなことはなく、取り調べを受ける前とほぼ同様に生活できることが多い。つまり、不起訴処分が決定した被疑者は、身柄の拘束が解かれて社会生活に戻ることができる。このような処遇は、逮捕や拘留をされていた被疑者の場合も基本的に変わらない。
不起訴処分になる理由としては、「起訴猶予」や「嫌疑なし」、「嫌疑不十分」などが挙げられる。「起訴猶予」は、罪状や被疑者の状況などを考慮して検察官が「起訴の必要がない」と判断したときに下される決定のことである。「嫌疑なし」は、証拠がまったくないなど、被疑者が明らかに犯人でないと判断できる場合が該当する。また、有罪と判断できる証拠が十分にない場合は、「嫌疑不十分」を理由に不起訴処分が決定されることがある。
新聞などで報じられる書類送検と逮捕の違いは、被疑者の身柄が拘束されるか否か、という点にある。書類送検の場合、警察で取り調べを受けるときにも被疑者の身柄は拘束されない。被疑者は拘留されることなく自宅などで過ごし、必要に応じて警察署などに出向いて聴取を受けるのが書類送検のケースの一般的な進め方といえる。このようなケースは「在宅事件」として扱われる。逮捕の場合は、逮捕と同時に被疑者の身柄の拘束が行われる。逮捕された後は、警察による取り調べが行われ、48時間以内に被疑者の身柄と書類、証拠などが検察庁に送致される。
書類送検になるか逮捕になるかは、被疑者が「逮捕の要件」を満たすか否かによって変わってくることが多い。また、逮捕が必要かどうかの判断には、被疑者の年齢や状況も考慮される。「逮捕の要件」は、たとえば「被疑者に逃亡の恐れがある」とか「被疑者が証拠隠滅をする可能性がある」といった事項が該当する。こういった要件に該当するケースでは、警察や検察官の請求に基づいて裁判所から逮捕状が発行され、警察が被疑者の逮捕を行う。逮捕が実施された後には、警察による取り調べが行われる。なお、「現行犯逮捕」や「緊急逮捕」の場合は特例的に、逮捕状の発行を待たずに被疑者の逮捕が遂行される。
逮捕の場合は、検察官に身柄が送られてからも勾留請求により引き続き一定期間の拘留が行われる。また、逮捕された被疑者は起訴となった後も拘留される。そのため、逮捕された被疑者は長時間にわたり自由な行動を制限されることになる。書類送検と同様、逮捕においても、検察官による取り調べを経て最終的に起訴・不起訴が決定されるという流れは基本的に同じである。起訴された後の裁判の判決が(書類送検か逮捕かによって)大きく変わるということもない。
検察庁での捜査の結果、不起訴となった場合は、書類送検された者も逮捕された者にも、いわゆる「前科」はつかない。ただし、逮捕された場合は「逮捕歴」が残る。書類送検をされた被疑者にも、取り調べを受けた履歴や送検の履歴は残る。逮捕歴や取り調べの履歴は前歴として扱われるが、前科には該当しない。したがって、履歴書などを作成する際に履歴を記載する必要はない。
「書類送検」という言葉は、マスメディアが芸能人の不祥事を取り沙汰するような場合において、しばしば用いられる。「昨日、書類送検が行われました」とか「明日、書類送検される予定です」といった言い回しで事件が報じられる場合は、身柄を拘束されないまま検察官送致が行われた「在宅事件」であろうと推測できる。証拠がひと通り揃っているにもかかわらず、被疑者の逮捕が行われていない場合、さまざまな理由が考えられるが、このようなケースは「被疑者に逃亡や証拠隠滅の恐れがない」と警察側が判断した可能性が高い。また、事実を認めて反省の様子を呈しているなど、本人が誠意のある対応をしていることも考えられる。
逮捕をするかどうかを警察が判断するときには、被疑者の社会的な立場も考慮されることが多い。顔や名前が世間に広く知られており多大な人気を獲得している有名人の場合は、業界へのいわゆる忖度があって警察が書類送検という方法をとったと邪推する余地も生じてくる。芸能人の不祥事は、報道の内容いかんによってさまざまな憶測・風評を生みやすい。巷間で誹謗中傷が巻き起こるような事態を防ぐために、警察が逮捕という強い処分を避けた、ということも考えられる。報道による社会的な影響が大きいと判断される場合は、書類送検という方法をとって警察が内密に刑事手続きを進めている可能性もある。
書類送検は、被疑者が高齢であったり病気であったりする場合に行われる場合もある。実際、介護を必要とする被疑者や入院での治療が必要な被疑者は、著名人でなくとも在宅事件として書類送検で手続きが行われるケースが少なからずある。
なお「誰々が書類送検された」と報道された場合、逮捕でないからといって、当の被疑者が「無実である」とか「罪が軽い」とは一概に判断できない。一般人の場合と同様に、芸能人が書類送検されたケースも、逮捕が行われたか否かは罪の重さにあまり関係がない。「逮捕された」「逮捕されていない」という要素が検察官の起訴・不起訴の判断を左右することはない。
書類送検された被疑者が最終的にどのような結果を下されるのか、罪科があるか否か、これは早急に安易に判断できない。あくまでも、その後の経緯を見届けることが最終的な判断には必要となる。
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