「私はこの世で最も幸せな男です」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/02 18:00 UTC 版)
「ルー・ゲーリッグ」の記事における「「私はこの世で最も幸せな男です」」の解説
1939年7月4日のセネターズとのダブルヘッダーで、ヤンキースはルー・ゲーリッグ感謝デーを制定し、メジャー他チームを含む多数の人々がゲーリッグを祝福しに訪れた。ゲーリッグが初めて勝った1927年のワールドシリーズ制覇の記念旗が掲げられ、当時のナインもゲーリッグのために式典に訪れた。 ニューヨーク市長フィオーレロ・ラガーディアも訪れ、当時現役を引退していたベーブ・ルースもスピーカーとして招かれた。ゲーリッグの成績上昇期はちょうどルースの下降期と重なったため、ルースはゲーリッグの連続出場記録を皮肉って、たまには休んだり釣りに行った方がいいんじゃないかと記者に述べる事もあった。しかしこの日のスピーチでは、皮肉ではなく、心から一緒に釣りに行きたいと述べ、ライバルを称えた。2人がこのように親密さを示したのは、ゲーリッグの妻がルースと関係を持っていると一部メディアで報じられて以来初めてだった。 また、マッカーシー監督はスピーチをしたら泣き出してしまいそうだと述べ、なかなかこの依頼を受けようとはしなかった。結果的にマッカーシー監督はゲーリッグについて「野球人、スポーツマン、そして一般市民としての素晴らしい例であり、野球というスポーツが出会った最良の人材である」と述べ、その後ゲーリッグに「ルー、君が『チームに迷惑をかけるので辞めます』と言いにきたあの日の悲しいデトロイトでの夜が、俺の人生の中で最も悲しい日のうちの一つだった。他に何が言えるかい?」と泣き顔で振り返った。 ヤンキースはゲーリッグの背番号「4」をMLB史上初の永久欠番に指定。背番号制が導入されたのがゲーリッグのキャリア開始後の1929年であったため、彼の他にヤンキースで背番号4を付けた選手はいない。この日ゲーリッグはさまざまなVIPやスタジアムのグラウンドキーパー、用務員などからも贈り物をもらい、球団は銀のトロフィーをプレゼントした。 式典の後、この日の担当者マーサーはゲーリッグが泣き崩れているのを見て、「今日はゲーリッグにスピーチをしてくれとは言わないことにします。そうしない方が良いと思います」と述べ、マイクを片付けた。ゲーリッグもマッカーシーとフィールドを去っていったが、観客からゲーリッグコールが湧き上がり、本人もフィールドに戻りスピーチを始めた。ゲーリッグは歴史に残る名スピーチを行った。 「 ファンの皆様、ここ2週間に私が経験した不運についてのニュースをご存知でしょう。しかし、今日、私は、自分をこの世で最も幸せな男だと思っています。私は選手として球場へ17年間通い続けてきましたが、いつもファンの皆様からご親切と激励をいただきました(Fans, for the past two weeks you have been reading about a bad break. Yet today I consider myself the luckiest man on the face of the Earth. I have been in ballparks for seventeen years and have never received anything but kindness and encouragement from you fans.)。……こちらにいらっしゃる偉大な方々をご覧下さい。例え一日でもこのような方々とともに同じ場所にいられることは最高の栄誉ではないでしょうか? 私は間違いなく幸せ者です。ジェイコブ・ルパートと知り合えて名誉だと思わずにいられない人がいるでしょうか? 最上の野球帝国を築き上げたエド・バローと知り合えたことを名誉だと思えない人は? 6年間過ごしてきた素晴らしい小さな仲間でもあるミラー・ハギンスと知り合えたことは? その後の9年間を、卓越した指導者であり、人の心理を読むことに長けた、知る限りもっとも素晴らしい監督のジョー・マッカーシーと知り合えたことを名誉と思わない人は? そんな人はいないでしょう。私は間違いなく幸せ者なのです(Look at these grand men. Which of you wouldn't consider it the highlight of his career just to associate with them for even one day? Sure, I'm lucky. Who wouldn't consider it an honor to have known Jacob Ruppert? Also, the builder of baseball's greatest empire, Ed Barrow? To have spent six years with that wonderful little fellow, Miller Huggins? Then to have spent the next nine years with that outstanding leader, that smart student of psychology, the best manager in baseball today, Joe McCarthy? Sure, I'm lucky.)。……ニューヨーク・ジャイアンツという、常に闘争心を駆り立ててくれたチームの選手から贈り物をいただき、グラウンド整備の担当者やホットドッグ売りの少年たちからも記念のトロフィーを貰えるなどということも素晴らしいという以外にありません。妻との口喧嘩の際に自分の娘よりも私に味方してくれた素敵な義母、さらに両親が懸命に働いてくれたおかげで私が教育を受けられ、そして立派に育つことが出来ました。私は神の祝福を受けたのです。比類のない強さを持ち、考えていた以上に勇気のある女性を妻に出来たことほど嬉しいことはありません(When the New York Giants, a team you would give your right arm to beat, and vice versa, sends you a gift - that's something. When everybody down to the groundskeepers and those boys in white coats remember you with trophies — that's something. When you have a wonderful mother-in-law who takes sides with you in squabbles with her own daughter — that's something. When you have a father and a mother who work all their lives so you can have an education and build your body — it's a blessing. When you have a wife who has been a tower of strength and shown more courage than you dreamed existed - that's the finest I know.)。……つまりは、私を不運だとおっしゃる方もいるかもしれませんが、数え切れないほど多くの人々からの愛情を受けている私の人生は本当に幸せなものなのです(So I close in saying that I might have been given a bad break, but I've got an awful lot to live for.)。……ありがとう(Thank you.)。 」 観客は立ち上がり、約2分間スタンディングオベーションが続いた。ゲーリッグはマイクから離れて大きくよろけ、頬から流れる涙をハンカチでふき取った。球場内で「あなたを心から愛してる(英語版)」が演奏され、聴衆が「ルー、私たちはあなたを愛してます」と歌詞を替えて歌う間、ルースはゲーリッグにかけ寄り、彼を優しく抱きしめた。翌日の『ニューヨーク・タイムズ』は「今まで野球場で見た光景の中で最も感動した場面の一つ」と報道し、ハードボイルドで知られた非情な記者たちさえも「懸命に涙をこらえていた」と伝えた。ダブルヘッダーの第2試合が終了してビル・ディッキーと一緒にヤンキー・スタジアムを後にしたゲーリッグは彼の親友にはっきりとした口調で「ビル、今日のことはずっと先まで覚えておくつもりだ」と語った。ジョー・ディマジオは野球場で二度涙を流したが、最初に泣いたのがこのゲーリッグのイベントであった(2度目は1949年10月1日のジョー・ディマジオ感謝デー)。 テレビが普及していなかったこの時代、「私はこの世で最も幸せな男です」というセリフは3年後に公開された映画『打撃王』で広く知られた。このセリフはアメリカ映画協会(AFI)が「AFIアメリカ映画100年シリーズ」の一環として選定した『アメリカ映画の名セリフベスト100』の38位に選ばれた。しかし映画と実際のスピーチには異なる点があり、語られた元オーナーやGM、また球団の裏方、相手チームへの感謝が削られ、代わりに新聞記者への感謝が加わっている。また、「最も幸せな男」をゲーリッグは最初に語っているが、映画では最後に語るよう変えられている。
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