呼吸困難 呼吸困難の概要

呼吸困難

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/02 23:28 UTC 版)

呼吸困難
別称 息切れ
発音 Dyspnea: /dɪspˈniːə/; see also #Etymology and pronunciation § 
概要
診療科 呼吸器学
分類および外部参照情報
Patient UK 呼吸困難
A subjective experience of breathing discomfort that consists of qualitatively distinct sensations that vary in intensity
American Thoracic Society

とし、呼吸困難の評価として、そのいつもと違う感覚の強度、苦痛や不快感の程度、患者の日常生活動作 (ADL)に対する負担や影響を評価することを推奨している。「いつもと違う」感覚には、呼吸自体に努力が要る、胸の締め付け感や痛み、「空気飢餓感」(酸素が足りないという感覚)などがある[1]前傾で肩で息をしている状態(三脚位、tripod position)英語版は、しばしばその徴候であると想定される。

呼吸困難は、激しい肉体運動の際に生じる正常な症状でもあるが、予期せぬ状況、安静時や軽い運動時に生じると病的なものとなる[2]。85%の症例では、喘息肺炎心筋虚血英語版間質性肺疾患うっ血性心不全慢性閉塞性肺疾患、またはパニック障害不安[3]などの心因性原因に起因する[2][4]。息切れを緩和し、あるいは取り除くための最善の治療法は通常、根本原因により異なる[5][6]

定義

呼吸困難とは、「息切れ」を意味する医学用語である。アメリカ胸部疾患学会英語版は、呼吸困難を「強さは様々だが、いつもと違う感覚より成る、主観的な呼吸愁訴」と定義している[7]。 他の定義では、「息をするのが難しい」(difficulty in breathing)[8]、「乱れたまたは不十分な呼吸」(disordered or inadequate breathing)[9]、「呼吸不快感の自覚」(uncomfortable awareness of breathing)[4]、または「息切れ」(breathlessness)の経験であり、急性、慢性、いずれもあり得ると記述されている[2][6][10]

鑑別診断

呼吸困難は一般的に循環器系呼吸器系の障害によって引き起こされるが、神経系[11]筋骨格系内分泌系造血系英語版精神系などの他の疾患が原因となっている場合もある[12]。オンライン医療エキスパートシステムであるDiagnosisProは2010年10月に497の異なる原因を挙げている[13]。最も一般的な心血管系の原因は急性心筋梗塞うっ血性心不全であり、一般的な肺の原因は慢性閉塞性肺疾患喘息気胸肺水腫肺炎である[2]。病態生理学的には、原因は、(1)不安発作などの通常の呼吸に対する意識の高まり、(2)呼吸努力の増大、(3)換気または呼吸器系の異常[11]に分けることができる。

呼吸困難の病因を知るには、発症の速さと呼吸困難の持続時間が有用である。急性の呼吸困難は、通常、喉頭浮腫、気管支痙攣心筋梗塞肺塞栓症気胸などの急激な生理的変化と関連している。COPD特発性肺線維症(IPF)の患者は、労作時の呼吸困難が軽度から徐々に進行し、呼吸困難の急性増悪に至る。一方、喘息患者の多くは日常的な症状はないが、呼吸困難、咳、胸部圧迫感などの間欠的なエピソードがあり、通常、上気道感染やアレルゲンへの暴露などの特定の誘因に関連している[14]

急性冠症候群(Acute Coronary Syndrome: ACS)

急性冠症候群は、後胸部不快感や息苦しさを訴えることが多いが[2]、非典型的に呼吸困難だけで発症することもある[15]。危険因子は、高齢、喫煙高血圧高脂血症糖尿病である[15]。診断と治療の方向付けには、心電図心筋酵素英語版が重要である[15]。 治療には心臓の酸素要求量を下げる対策と冠血流量を増やす努力が含まれる[2]

COVID-19

COVID-19に感染した人は、発熱、乾性咳嗽、嗅覚や味覚の低下といった症状を呈し、中等度から重度の場合は呼吸困難などの症状がある場合がある。

うっ血性心不全

X線写真前後像上の拡大した心臓のシルエットは、慢性的な高血圧が左心室に与える影響によるうっ血性心不全によるものである。心臓は肥大し、胸水が貯留し、肺うっ血を呈している。

うっ血性心不全は、労作時の呼吸困難、起坐呼吸(寝ると息苦しくなるために座っている)英語版発作性夜間呼吸困難英語版などを頻繁に呈する[2]。米国の一般人口の1~2%が発症し、65歳以上では10%が発症している[2][15]急性非代償性心不全英語版の危険因子には、食塩摂取過多、薬を処方通りに内服しない、心筋虚血、不整脈腎不全、肺塞栓、高血圧、感染症などがある[15]。治療努力は肺うっ血の減少を目指すことになる[2]

慢性閉塞性肺疾患

慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特に肺気腫慢性気管支炎の患者は、慢性的な呼吸困難や湿性咳嗽を伴うことが多い[2]急性増悪英語版時は息切れが増悪し、喀痰英語版が増える[2]。COPDは肺炎の危険因子であるため、この状態(急性増悪)を除外する必要がある[2]。急性増悪時の治療は、抗コリン薬β2アドレナリン受容体作動薬ステロイド、場合によっては人工呼吸器、これらを組み合わせることによる[2]

気管支喘息

喘息は、呼吸困難で救急外来を受診する最も一般的な理由である[2]。発展途上国・先進国共に最も多い肺疾患であり、人口の約5%が罹患している[2]。その他の症状には喘鳴、胸のつかえ、乾性咳嗽がある[2]。小児の治療には吸入コルチコステロイドが望ましい。しかしこれらの薬剤は成長速度を下げる[16]。急性症状は短作用性気管支拡張剤で治療する[17]

胸部CTスキャンで左側気胸が認められる。治療のために胸腔ドレーンが留置されている。

気胸

気胸は、典型的には急性発症の胸膜炎性胸痛と酸素吸入で改善しない呼吸困難を呈する[2]。 身体所見は、片側の胸部の呼吸音の消失、頚静脈怒張英語版、気管の偏位がある[2]

肺炎

肺炎の症状は、発熱、湿性咳嗽、呼吸困難、胸膜痛である[2]。診察時に吸気時の湿性ラ音英語版が聞こえることがある[2]。肺炎とうっ血性心不全を区別するには、胸部X線が役に立つ[2]。原因は通常細菌感染なので、通常治療に抗生剤が用いられる[2]

肺塞栓症

肺塞栓症は、典型的には急性に発症する呼吸困難を呈する[2]。その他の症状としては、胸膜炎様の胸痛、咳、喀血発熱などがある[2]。危険因子としては、深部静脈血栓症、最近の手術、がん血栓塞栓症の既往が挙げられる[2]。 死亡リスクが高いため急性呼吸困難の発症時には必ず考慮しなければならない[2]。しかし診断は困難な場合もある[2]ので、ウェルズ・スコア英語版を使った臨床確率の評価がよく行われている。治療は、症状の重症度に応じて、通常、抗凝固剤から開始する。危険な徴候(低血圧)がある場合は、血栓溶解療法が行われることがある[2]

貧血

徐々に進行する貧血は、通常、労作時呼吸困難、疲労、脱力、頻脈を呈する[18]心不全に至る場合もある[18]。貧血はしばしば呼吸困難の原因である。月経は、特に過多の場合、貧血の原因となり、女性では結果的に呼吸困難の原因となることがある。頭痛も貧血患者における呼吸困難の症状である。また、酸素と圧力の不足により目の奥が低血圧になり、視界がぼやけるという患者もいる。これらの患者はひどい頭痛を訴え、脳に障害を残すことすらある。症状としては、集中力の低下、疲労、言語能力障害、記憶力の低下などがある[19]

がん

呼吸困難は、がん患者にはよくあることで、多くの異なる要因によって引き起こされる可能性がある。進行がんの患者では、より継続的な呼吸困難の感覚とともに、激しい呼吸困難のエピソードがあることがある[20]

その他

呼吸困難の他の重要なまたは一般的な原因には、心タンポナーデアナフィラキシー間質性肺炎パニック発作[6][12][18]肺高血圧症がある。また、女性の約2/3が正常な妊娠の症状の一部として息切れを経験する[9]

心タンポナーデは、呼吸困難、頻脈、頸静脈圧上昇、奇脈(吸気時の収縮期血圧低下が10mmHg以上となる)英語版を呈する[18]。診断のゴールドスタンダードは心臓超音波検査である[18]

アナフィラキシーは通常、既往のある人に数分で発症する[6]。その他の症状としては、蕁麻疹血管性浮腫(上気道浮腫を伴う)英語版、胃腸の不調などがある[6]。主な治療法はエピネフリンである[6]

間質性肺炎は、典型的には、素因となる環境暴露の既往があり、呼吸困難は緩徐に悪化していく[12]頻脈性不整脈を有する患者では、呼吸困難が唯一の症状であることが多い[15]

パニック発作は、典型的には過呼吸、発汗、パレステジア(異常感覚)英語版を呈する[6]が、これらは除外診断英語版である[12]

脊髄損傷横隔神経損傷、ギラン・バレー症候群筋萎縮性側索硬化症多発性硬化症筋ジストロフィーなどの神経疾患は、すべて呼吸困難の原因となり得る[11]。また、声帯機能障害英語版の結果、呼吸困難が生じることもある[21]

サルコイドーシスは、一般に乾性咳嗽、疲労、呼吸困難を呈する原因不明の炎症性疾患であるが、複数の臓器系が侵され、目、皮膚、関節などの部位が侵されることがある[22]

病態生理

酸感受性イオンチャネル化学受容器機械受容器肺内受容体英語版など、異なる生理学的経路が呼吸困難に介在している可能性がある[15]

呼吸困難は、求心性信号、遠心性信号、中枢の情報処理という3つの要素で構成されていると考えられている。脳の中央処理では、求心性信号と遠心性信号を比較し、換気の必要性(求心性信号)が実際の呼吸(遠心性信号)によって満たされない場合など、両者の間に「ミスマッチ」が生じた場合に呼吸困難を生じると考えられている[23][要ページ番号]

求心性信号は、脳に到達する感覚神経信号である。呼吸困難に重要な求心性ニューロンは、頸動脈小体延髄胸壁筋を含む多数の起点として生じる。頸動脈小体および延髄の化学受容体は、O2、CO2およびH+の血液ガス中の濃度に関する情報を提供する[24]。肺では、傍毛細血管受容体(J受容体)英語版が肺の間質性浮腫に敏感で、伸張受容体は気管支収縮を知らせる。胸壁の筋紡錘は、呼吸筋の伸張と緊張を知らせるものである。したがって、高炭酸ガス血症英語版につながる換気不良、肺の間質性浮腫(ガス交換の障害)につながる左心不全気管支攣縮(気流の制限)につながる喘息、および呼吸筋の非効率な動作につながる筋肉疲労はすべて、呼吸困難の感覚の原因となる可能性がある[23][要ページ番号]

遠心性信号は、呼吸筋に下降する運動神経信号である。呼吸筋の中で最も重要なのは横隔膜である。その他の呼吸筋には、外肋間筋英語版と内肋間筋、腹筋、副呼吸筋がある[25]

脳は換気に関する豊富な求心性情報を受け取ると、遠心性信号によって決定される現在の呼吸レベルと比較することができる。呼吸のレベルが身体の状態に対して不適切な場合、呼吸困難が生じる可能性がある。また、呼吸困難には心理的な要素もあり、そのような状況で呼吸を意識しても、呼吸困難の典型的な苦痛を感じない人もいる[23][要ページ番号]


注釈

  1. ^ 一般的な蘇生のアプローチは2023年現在はC、A、Bの順に変わってきているが、呼吸を原因とした急変に対する優先度はA、B、Cで良いであろう。

出典

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