肺塞栓症とは? わかりやすく解説

肺血栓塞栓症

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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/25 06:16 UTC 版)

肺血栓塞栓症
胸部造影CTで、肺動脈内の複数の血栓(矢印)が造影欠損として見える。
概要
診療科 循環器学, 心臓血管外科学
分類および外部参照情報
ICD-10 I26
ICD-9-CM 415.1
DiseasesDB 10956
MedlinePlus 000132
eMedicine med/1958 emerg/490 radio/582
Patient UK 肺血栓塞栓症
MeSH D011655

肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう、英語: pulmonary thromboembolism、PTE)は身体の血流によって体内から運ばれてきた血栓栓子となって肺動脈が閉塞すること(塞栓)である。血栓以外の物質が栓子となった場合も含めて、肺塞栓症(はいそくせんしょう、英語: pulmonary embolism、PE)という[1]

肺塞栓症のほとんどは脚にあった血栓が肺に移動することによっておこる肺血栓塞栓症である[1]。血栓のリスクは、がん、長期安静、喫煙脳梗塞、特定の遺伝的要因、妊娠肥満、数タイプの手術によって増加する[2]。肺塞栓症の稀なケースには空気塞栓脂肪塞栓、羊水塞栓が要因の場合がある[3][4]

深部静脈血栓症英語: deep vein thrombosis、DVT)と肺血栓塞栓症をまとめて静脈血栓塞栓症という[5]

症状

呼吸困難(息切れ)、特に吸うときの呼吸による胸の痛み、吐血である[6]。脚部の血栓も同時に診られることがありその症状は脚の赤み、熱、腫れ、痛みである[6]。肺塞栓症の医学的徴候には血液中の酸素レベルの低下、頻呼吸心拍数の上昇、時には軽度の発熱がある[7]。重症の場合、失神異常な低血圧突然死をひきおこすことがある[8]

検査

  • 血液検査
    • Dダイマー : Wellsスコア[9]が0 - 4点の低検査前確率でD-dimer<1000ng/mL、Wellsスコアが4.5 - 6点の中等度検査前確率でD-dimer<500mg/mLのDダイマー値陰性の1,325例(67.3 %)には抗凝固療法を行わなかったが、追跡期間中に静脈血栓塞栓症が認められた患者はいなかった[10]
  • 造影CT(CT肺血管造影; CT pulmonary angiography)
  • 肺換気/血流スキャン
  • 心臓超音波検査(心エコー)
  • 心電図
    • 心電図では、I誘導で深いS波、III誘導でQ波と陰性T波がある「SIQIIITIIIパターン」(肺動脈血栓塞栓症に対する感度8.5 %、特異度96.7 %)を認める。また、V1 - V3の陰性T波(感度10.5 %、特異度96.0 %)も認める。この所見は前壁心筋梗塞でも見られるが、前壁心筋梗塞ではV3(V4)で陰転化が最大になる点が鑑別のポイントである。肺動脈血栓塞栓症では、不完全右脚ブロック(感度4.8 %、特異度97.2 %)、心拍数100回/分を超える頻脈(感度28.8 %、特異度84.3 %)も有名だが、いずれの所見も感度は非常に低く、特異度は高い傾向にある[11]。心電図だけで肺塞栓症を除外診断や確定診断することは難しい。
    • V1-3で陰性T波がみられるとき、II,aVFでの陰性T波が、下壁心筋梗塞と肺塞栓の鑑別に有用との報告がある[12][13]
  • 下肢静脈超音波[14]
    • 肺塞栓の原因となる血栓は、ヒラメ筋静脈由来であることが多く、下肢静脈血栓の有無は診断の一助となる。

治療

通常の治療は抗凝固薬ヘパリンワルファリンが使われ[15]、それらは6か月またはそれ以上の服用が勧められる[16]。重症の場合は血栓溶解組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)などの薬物療法、また必要であれば肺血栓手術(例えば慢性肺血栓塞栓症に対する肺動脈血栓内膜摘除術)などの手術療法がある。抗凝固薬が適切ではない場合、下大静脈フィルターが使用されることがある[15]

予防

肺血栓塞栓症の予防は手術後の早期の運動、着席中の下肢の運動、数タイプの手術後の抗凝固薬の使用である[17]

肺血栓塞栓症はヨーロッパでは年間約43万人に影響している[18]。アメリカ合衆国では年間30万から60万のケースが診られ[1][19]、うち5万[19]から20万人が死亡している[20]。男性と女性どちらも同じ割合で診られる症状である。年齢が上がると発症率も上がる[2]

脚注

  1. ^ a b c "What Is Pulmonary Embolism?"
  2. ^ a b "Who Is at Risk for Pulmonary Embolism?"
  3. ^ "What Causes Pulmonary Embolism?"
  4. ^ Pantaleo, G; Luigi, N; Federica, T; Paola, S; Margherita, N; Tahir, M (2014).
  5. ^ "Other Names for Pulmonary Embolism".
  6. ^ a b "What Are the Signs and Symptoms of Pulmonary Embolism?"
  7. ^ Tintinalli, Judith E. (2010).
  8. ^ Goldhaber SZ (2005).
  9. ^ JAMA. 2006;295(2):172-179.
  10. ^ Kearon, Clive; de Wit, Kerstin; Parpia, Sameer; Schulman, Sam; Afilalo, Marc; Hirsch,;rew; Spencer, Frederick A.; Sharma, Sangita; D’Aragon, Frédérick; Deshaies, Jean-François; Le Gal, Gregoire; Lazo-Langner, Alejandro; Wu, Cynthia; Rudd-Scott, Lisa; Bates, Shannon M.; Julian, Jim A. (2019). “Diagnosis of Pulmonary Embolism with d-Dimer Adjusted to Clinical Probability”. New England Journal of Medicine 381 (22): 2125-2134. doi:10.1056/NEJMoa1909159. PMID 31774957. https://doi.org/10.1056/NEJMoa1909159. 
  11. ^ Marchick MR, et al. Ann Emerg Med. 2010;55:331-5.
  12. ^ Masami, Kosuge; Toshiaki, Ebina; Kiyoshi, Hibi; Kengo, Tsukahara; Noriaki, Iwahashi; Masaomi, Gohbara; Yasushi, Matsuzawa; Kozo, Okada; Satoshi, Morita; Satoshi, Umemura; Kazuo, Kimura (10 2012). “Differences in negative T waves among acute coronary syndrome, acute pulmonary embolism, and Takotsubo cardiomyopathy”. European Heart Journal: Acute Cardiovascular Care (Oxford University Press (OUP)) 1 (4): 349-357. doi:10.1177/2048872612466790. ISSN 2048-8726. https://doi.org/10.1177/2048872612466790. 
  13. ^ 沢山俊民「心電図が決め手であったのに:「心筋梗塞」と誤診されてしまった2剖検例」『心臓』第43巻第7号、日本心臓財団、2011年、1045-1047頁、CRID 1390282679025814912doi:10.11281/shinzo.43.1045ISSN 0586-4488 
  14. ^ "How Is Pulmonary Embolism Diagnosed?"
  15. ^ a b "How Is Pulmonary Embolism Treated?"
  16. ^ "Living With Pulmonary Embolism".
  17. ^ "How Can Pulmonary Embolism Be Prevented?"
  18. ^ Raskob, GE; Angchaisuksiri, P; Blanco, AN; Buller, H; Gallus, A; Hunt, BJ; Hylek, EM; Kakkar, A; Konstantinides, SV; McCumber, M; Ozaki, Y; Wendelboe, A; Weitz, JI; ISTH Steering Committee for World Thrombosis, Day (November 2014).
  19. ^ a b Rahimtoola A, Bergin JD (February 2005).
  20. ^ Kumar V, Abbas AK, Fausto N, Mitchell RN (2010).

外部リンク


肺塞栓症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/16 09:58 UTC 版)

アルテプラーゼ」の記事における「肺塞栓症」の解説

2019年現在アルテプラーゼは肺塞栓症(PE)の治療に最も多く使用されているである。アルテプラーゼは、点滴時間が2時間短く半減期が4~6分である。アルテプラーゼFDAの承認受けており、治療全身血栓溶解療法またはカテーテル誘導血栓溶解療法で行う事が出来る。 全身性血栓溶解療法は、急性PE患者右室機能心拍数血圧速やかに回復させる事が出来る。しかし、全身血栓溶解療法使用される標準用量アルテプラーゼは、特に高齢患者において、頭蓋内出血等の大量出血引き起こす可能性がある。低用量アルテプラーゼは、標準量よりも安全で、標準量と同等効果があることが、システマティックレビュー明らかにされている。 カテーテルによる血栓溶解療法は、アルテプラーゼ閉塞部位局所的に投与するため、他の血管への薬剤流失少なく全身的な血栓溶解療法よりも効率的である可能性がある。この方法は、多側穴カテーテル血栓挿入するのであるアルテプラーゼは、以下の様な合併症リスクが高い患者PE治療使用される事がある収縮期血圧が90mmHg未満低血圧である場合 肺塞栓症によると思われる心停止状態 臨床検査で、症状悪化悪化兆候見られる場合

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