DTMの登場と標準規格の制定
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/20 08:13 UTC 版)
「デスクトップミュージック」の記事における「DTMの登場と標準規格の制定」の解説
初めてDTMという単語が使われた製品は、1988年に発売されたローランドのミュージくんである。これは音源モジュール(MIDI信号などを受信して音声を出力する、鍵盤の無い音源)MT-32とMIDIインターフェイスMPU-PC98、加えてシーケンスソフト(バラードからレコード機能を削除したもの)を同梱したパッケージ品で、箱にDESK TOP MUSIC SYSTEMと記されていた。価格やセットアップの困難さなどのハードルの高さを取り払うことを重視し、パソコンにそこそこ詳しいユーザーであれば誰でも趣味として始められるというコンセプトで発売された。後にDTMにおいてローランドのライバルとなったヤマハは、当初は自社のMSXパソコンに独自の規格の音源/MIDIインターフェイスを接続するパッケージ路線を展開していたため、ホストPCを選ばない汎用パッケージとしてのDTM製品ではローランドの後を追う形となった。この2社と並んで国内のシンセサイザーメーカーとして重要な存在であるコルグは、DTM初期の流れにおいては特別な役割は果たしていない。 MIDIによって電子楽器間の通信プロトコルは統一されたが、MIDIの普及や上記のようなDTMの流れに伴い、MIDI音源の製品ごとの互換性や演奏データの再現度を高める必要性が注目されていくようになる。つまり、MIDI規格の上位層に新たなプロトコルを構築する必要性を意味する。まず1991年にローランドは独自に制定した音源の規格GSに対応した音源モジュールSC-55(Sound Canvas)を発売した。DTM音源の代名詞ともいえる「SCシリーズ」の初代モデルである(後にGMに対応したSC-55mkIIも発売された)。 続いてStandard MIDI File(SMF, MIDIによる演奏データのファイルの標準規格、いわゆる「MIDIファイル」)が制定された。これはシーケンスソフトVisionの開発元であるOpcode社により提唱された。その後、音色の配列の統一やニュアンスの一致を目的としたMIDIの標準規格であるGMが制定される。GMの音色配列は前述のローランド SC-55のキャピタルバンクの音色配列をベースに設定されている。 これに伴ってニフティサーブなどのパソコン通信サービス内でJASRACの認可のもと、商用の曲の音楽データを無料で交換するプロジェクトが始まった。以降、聴き手がGM対応の音源を用意し、配布されているファイルを再生して音楽を楽しむという流れが形成された。これが日本でDTMが確立した大きな要因の一つともいえ、インターネットの普及前であることを考えるとその役割は大きかった。事実現在プロとして活躍するクリエーターにも、このようなパソコン通信での活動を経てきたと公言する者もいる。ローランドのSC-55、続くSC-55mkIIはこの時期においてかなりの認知度を誇った。 対するヤマハはGM対応の1号機として91年にTG100、およびTG100のディスプレイや操作子を省略したCBX-T3を発売しDTM市場に参入する。しかし後発の弱みと、既存のGM対応機器との著しい音色のニュアンスの違いが原因でSCシリーズほどの普及には至らなかった。 また、ヤマハは続いて1993年にTG300というGS互換モード付きの音源モジュールを出すが、割高な価格設定(75000円、ライバル機種としたローランドのSC-55mkIIは69000円)や既にGSが事実上の標準規格になっていたため、やはりローランドの牙城を崩すまでには至らなかった。1994年末にはGMに加えて独自規格であるXGに対応した音源モジュールMU80を発売。結局、GMによって規格が統一されたにもかかわらず、GS(ローランド SCシリーズ)対XG(ヤマハ MUシリーズ)の上位規格の対立構図が形成されることになる。とはいえヤマハはMUシリーズの発表によってSCシリーズのライバル機種として世間に認知されることに成功し、専門誌などでも比較特集が組まれたりするようになった。コルグも05R/WやX5DRといったGM対応のハーフラック音源モジュールをリリースするが、DTM音源というより、ユーザが音色を自在にエディットして本体に記憶できるシンセサイザーモジュールとしての色合いが濃く、この対立構図には加われなかった。 TG300で用意されたGS互換モード(TG300-Bモード)は、以後全てのXG対応音源にも引き続き搭載された。メーカーによる音色の違いはあるものの、一応はXG音源でもGS音源用に作成されたMIDIデータの再生は可能である。しかし、そのGS音源もSCシリーズがモデルチェンジされる度に新しく音色が追加されるため、その全てをXG音源で再現し切ることは不可能である。TG300-Bモードの互換性はSC-55mkIIで作成されたMIDIデータをエディットしなくても、不自然ではなく聞こえる程度に再生してくれるものと考えておいたほうがよいだろう。よってTG300-Bモードで作成したMIDIデータを本家のGS音源で再生すると、鳴り方が作成者の意図したものと異なる場合が出てくる。一方、ローランドもSCシリーズの一つであるSC-88Pro以降のモデルに、非公式ではあるがMIDIデータ内の「XGオン」のメッセージに対応してXG音源をエミュレートする機能を搭載している(もちろんすべてのXG音源をエミュレートするわけではない)。
※この「DTMの登場と標準規格の制定」の解説は、「デスクトップミュージック」の解説の一部です。
「DTMの登場と標準規格の制定」を含む「デスクトップミュージック」の記事については、「デスクトップミュージック」の概要を参照ください。
- DTMの登場と標準規格の制定のページへのリンク