APIによる基油(ベースオイル)の分類
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 14:25 UTC 版)
「エンジンオイル」の記事における「APIによる基油(ベースオイル)の分類」の解説
1992年に導入された分類方法。一般ユーザーに直接の関係はないが、業界においては添加剤との組み合わせや処方の変更時などに活用されている。 グループI 粘度指数 (VI) : 80 - 120 飽和炭化水素分 (Vol.%) : <90 硫黄分 (MASS%) : >0.03 主に溶剤精製された鉱物油(ミネラル 石油系炭化水素)が該当する。このグループに満たない鉱物油は少なくとも現代の規格オイルの基油としては採用できない。生産規模は需要や採算性から後述のグループII/IIIが拡大するのに対し縮小傾向となる。しかしグループIIやIIIでは製造されていない高粘度グレードとブライトストックはギヤ油や工業用、船舶シリンダ油などにおいて需要は変わらず高いため、今後の状況によっては供給のアンバランス化が懸念されている。 グループII 粘度指数 (VI) : 80 - 120 飽和炭化水素分 (Vol.%) : ≧90 硫黄分 (MASS%) : ≦0.03 主に水素化処理精製鉱物油(ミネラル 石油系炭化水素)が該当するが、前述の溶剤抽出をアップグレードする事で製造するケースもある。粘度指数自体はグループIと大きな差はないが水素化精製により不飽和炭化水素が減少し、硫黄分が著しく減少している。このため酸化安定性はグループIと比べ秀でている。 グループIII (ミネラル/シンセティック 石油系炭化水素) 粘度指数 (VI) : ≧120 飽和炭化水素分 (Vol.%) : ≧90 硫黄分 (MASS%) : ≦0.03 高度水素化分解・異性化精製された高粘度指数鉱物油。初期は重質留分などを水素化分解し燃料やガスを製造する工程で残留するパラフィンリッチなボトム留分を利用した副産物であったが、現在では効率的に低コストでグループIII基油を生産するプラントが稼働しており大量生産が行われている。現在では水素化分解のみではなく異性化脱ろうが寄与するところも大きく、場合によってはグループIIの脱ろう工程を異性化脱ろうにアップグレードする事で水素化分解を行わず高ワックス原油の減圧軽油を製造するケースもある。この場合は触媒被毒を考慮すると高ワックスかつ低硫黄な原油が好ましいため資源的・地域的に限られるが、高収率で潤滑油留分が得られる。分類上のグループIIとの違いは粘度指数のみだが、実際のグループIII基油においては不飽和炭化水素、硫黄分ともにグループII基油よりも大きく減少している。FTワックス(フィッシャー・トロプシュ法により作られたワックス)を水添異性化分解した基油もここに属するが、グループIVに属するとする場合もある。 以上のようにグレードIIIの製法は様々ではあるが、粘度を上昇させるとともに粘度指数に優れる直鎖のイソパラフィン形状を目指すという方向性は同じである。 グループIV (シンセティック 合成炭化水素) PAO(ポリアルファオレフィン・オレフィンオリゴマー) 粘度指数 (VI) : 120 - 140前後(低粘度グレードの場合) 製法や特徴は前述の通りで重合の度合いで幅広い粘度を製造でき、粘度指数は粘度によって大きく異なる。また粘度が高いほど粘度指数は高くなり、一部の特殊グレードでは300を超えるものも存在する。ただし高粘度なものはエンジンオイルのベースとして使用するには粘度が高すぎるため、エンジンオイルにおいては粘度調整や添加剤としてブレンドされる程度であり配合量はあまり多くはならず、エンジンオイルのベースに使用される低粘度グレードでは粘度指数は極端に高くならない。他の合成油と異なりPAOに対しグループが割り当てられている事からもわかるように潤滑基油において一定の割合を占める。 グループV グループI〜IV以外。エステル系(ジエステル、ポリオールエステル、コンプレックスエステル)の他、アルキルナフタレン、動植物油もこのグループに含まれる。グループI〜IV外の全てが該当し鉱物油であってもグループI〜IIIに適合しないものなどもこちらに分類されるするため性質は様々である。エンジンオイルでは主にエステル系が用いられる為、エンジンオイルにおいてグループVと言えばエステルを指す事が多い。エステルは設計の自由度が高く様々な仕様のものが製造出来るため粘度指数などはPAO以上に差が生じ、グループIよりも粘度指数が低いものも存在する。安定性や添加剤との相性の点で、特殊な用途を除いてベースにエステルのみを使用することはない。極性の高いエステルはその他の添加剤の働きを阻害する事があり、また極性の低いエステルは高コストであるため、エステル表記があるオイルでも全体から見た配合量少ない。エステルをはじめとするグループV基油は他のベースオイルとブレンドして使用するなど添加剤に近い使われ方をする事が多い。
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