遊女
『今古奇観』第7話「売油郎独占花魁」 油売りの秦重は花魁の王美娘を見そめ、1年余をかけて大金16両をため、王美娘の客になる。しかしその夜、王美娘は他の客の座敷で泥酔し、眠ってしまう。秦重は「一晩おそばにいただけで満足です」と述べて帰る〔*その後、秦重は商売が順調で暮らし向きも良くなり、悪漢にひどい目にあわされた王美娘を救い、晴れて2人は夫婦になる〕。
『好色一代男』(井原西鶴)巻5「後は様付けて呼ぶ」 京都七条通りの小刀鍛冶の弟子が、島原の吉野太夫を見そめ、毎夜1本ずつ53日間小刀を打って、揚げ代53匁をためる。しかし廓には「太夫は身分賤しい者とは逢わぬ」という掟があるので、男は悔しがる。これを知った吉野太夫は男を呼び入れ、思いを遂げさせる〔*世之介が吉野太夫の心意気に感じ、彼女を身請けして正妻にする〕。
『紺屋高尾』(落語) 染物職人の久蔵が、吉原の高尾太夫に思いを寄せ、初会の揚げ代10両を3年かけて貯める。初対面の挨拶で高尾から「今度はいつ来てくんなます?」と問われた久蔵は、「丸3年たたなきゃ来られない」と泣く。わけを知った高尾は心うたれ、翌春の年季明けを待って久蔵と結婚し、2人は紺屋夫婦となって仲良く働く。
『猿源氏草紙』(御伽草子) 鰯を売り歩く猿源氏が、京の五条の橋で遊女蛍火を見そめ、恋わずらいになる。鰯売りの身分では蛍火と逢う見込みがないので、猿源氏は、「関東から上洛した大名宇都宮弾正だ」と、身分をいつわって、蛍火と契りをかわす→〔寝言〕1。
★2.遊女殺し。
『五大力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)』(並木五瓶)第2~3幕 主家の重宝「猛虎の剣」の行方を捜す薩摩源五兵衛は、笹野三五兵衛のもとにその剣があるとにらみ、愛人の芸子・菊野(「小万」の名で演ぜられることもある)を三五兵衛に近づけて探らせる。しかし源五兵衛は、菊野の三味線に書かれた「三五大切」の文字(*→〔書き換え〕2)を見て、菊野が三五兵衛に寝返ったと誤解し、彼女を殺す〔*後、源五兵衛は三五兵衛を斬って『猛虎の剣』を取り戻し、その功で、菊野殺しの罪を赦される〕。
『仙台高尾』(落語) 仙台侯が、花魁高尾を7千8百両で身請けする。しかし高尾には、二世を誓った夫・浪人島田重三郎がいるので、仙台侯の意のままにならない。舟遊びの折、聞こえてくる謡曲の鼓の掛け声に合わせるごとく、高尾が「いやぁ」と拒絶するので、仙台侯は「ぽんぽん」と高尾を斬ってしまった。
『李娃伝』(白行簡) 名家の青年が科挙受験のため長安に行き、美女・李娃に一目ぼれして同棲する。ところが李娃は娼妓であり、1年余にわたって青年に散財させたあげく、姿をくらます。だまされたと知った青年は病臥し、葬式人夫になり(*→〔歌〕8b)、さらに乞食にまで身を落とす。ある雪の日、青年が物乞いに訪れた家に李娃がおり、彼女は乞食姿の青年を見て、過去の自分の仕打ちを反省する。その後は、李娃は青年の妻として献身的に世話をし、彼を励まして科挙にも合格させる。
*客を嫌って死んだふりをする遊女と、客を恋して死んでしまう遊女→〔墓〕9の『お見立て』(落語)・傾城岩の伝説。
『撰集抄』巻6-10 「室(=兵庫県室津)の遊女の長者(=娼家の女主人)は普賢菩薩である」との夢告を得て、性空上人が長者のもとを訪れる。長者と遊女たちの歌舞を前にして、性空上人は目を閉じる。すると、普賢菩薩が白象に乗って、尊い法文を説くありさまが現出する。目を開けて見れば長者、目を閉じれば普賢菩薩である。この長者は遊女として年月を送ったのだが、誰も、彼女が生身(しょうじん)の普賢菩薩とは知らなかった。性空上人が暇(いとま)を告げて娼家を出るとまもなく、長者は死んだ〔*『古事談』巻3-95の類話では、神崎(=尼崎市)の長者〕。
*僧と遊女→〔僧〕2。
★4b.菩薩のごとき心の遊女。
『手紙 二』(宮沢賢治) 卑しい職業の女ビンヅマティーが祈りによって、ガンジス河を逆流させる。驚いたアショウカ大王が、「そちのような、みだらで罪深い者に、どうしてそんな力があるのか」と問う。ビンヅマティーは答える。「武士族の尊いお方でも、いやしい穢多でも、私を買って下さる方であれば、私は等しく敬ってお仕えします。このまことの心が、ガンジス河を逆さまに流れさせたわけでございます」。
『老人』(志賀直哉) ある遊女に、2人の金持ちの客があった。1人は金鉱を持つ45~46歳の男、1人は老舗の隠居で72歳の老人だった。2人がその遊女を身請けしようと言い出した時、遊女は72歳の老人を選んだ。老い先の短い人の方が良かったのである。
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