路面標示用塗料
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/03 22:20 UTC 版)
路面標示に用いられる塗料は別名「トラフィックペイント」(traffic paint)とも言い、品質と種類は「JIS K 5665(路面標示用塗料)」で規定されている。ただし、NEXCO東日本・NEXCO中日本・NEXCO西日本で使用されるものは「レーンマーク管理施工要領」によって仕様が規定されており、この性能規定に満足な材料を用いればJIS規格に満足しなくても三社が管理する道路では使用可能である。2013年度の時点でアトミクスがこの塗料の国内シェア首位で、シェアの3割を占めている。この塗料は液状の1種・2種、粉状の3種に分けられている。いずれも物理的粘着によって路面と固着する。この3種類のうち、最も多く使用されているのは3種で、全体の約90%を占める。また、二液反応硬化型アクリル系樹脂を主な原料とする二液反応塗料も存在し、この塗料は主剤と硬化剤を混合して用いる液体塗料である。路面標示用塗料には光を反射するための小さなガラスビーズが混ぜられ、乾燥して固着するまでにもビーズをふりかける。 路面標示の表面は雨水や摩耗による平滑化によって滑りやすいと考えられているが、一方で表面を粗くして滑りにくくすると摩耗が進みやすくなり性能もJIS規程より低下することが考えられるため簡単に改善できる問題ではない。 新規の材料の開発に関しては、ホタテガイの貝殻の有効利用として路面標示用塗料の1種・2種に利用する方法が北海道立総合研究機構と信号器材によって共同開発されている。また、豊橋技術科学大学とキクテックとの共同研究で、路面標示用塗料に紫外線で発光する塗料を混ぜたものが2018年12月から2019年3月まで藤枝市で試験的に導入された。この材料を用いた路面標示に紫外線を照射することで赤や青などほかの色に発光するという。 1種 1種は常温で路面に塗装する。1種をさらに分類すると水を溶媒とする水系材料と、有機化合物を溶媒とする溶剤系材料に分けられる。前者は溶媒の水が揮発すると、造膜助剤の作用によって塗膜が硬化する。後者は有機溶媒の揮発のみに頼るものと、有機溶媒の揮発と合成樹脂の酸化・重合によって塗膜が硬化するものがある。乾燥時間は15分以内。交通量の少ない道路や積雪寒冷地での施工に適する。また路面が石畳やレンガの場合、仮舗装や損傷が激しいといった舗装状態が良くない場合も適している。 2種 2種は50 - 80 ℃に加熱して路面に吹き付けるものである。2種も1種と同様に水系材料と溶剤系材料に分けられ、塗膜が硬化するメカニズムも1種と共通する。乾燥時間は10分以内。道路縦断方向の施工や積雪寒冷地に適している。 3種 3種は一般に180 - 200 ℃に加熱溶融して使用される。こちらは溶媒を含まないため、速乾性を持つ。路面との粘着機構は、アスファルト舗装の場合は舗装と塗料の溶融結合であり、セメントコンクリート舗装の場合は物理的粘着である。なお、セメントコンクリート舗装の場合、作業不良や舗装の亀裂などで接着不良を起こすことがある。乾燥時間は3分以内。車両や歩行者による摩耗が激しいと判断される場所に適している。しかし、路面が石畳やレンガの場合、仮舗装や損傷が激しいといった舗装状態が良くない場合は適さない。 「溶袋式」として、路面標示用塗料を入れる袋そのものが原料の一部となり、袋ごと溶解釜に入れるものも開発されている。 ガラスビーズ ガラスビーズは再帰反射によって夜間における視認性を高める反射材であり、小さな無色透明のガラス玉となっている。路面標示用塗料の3種ではさらにガラスビーズの含有率によって1号(15 - 18%)、2号(20 - 23%)、3号(25%以上)に分けられる。ガラスビーズの含有量が多くなるにつれて、経年での夜間の視認性が良好となる。このガラスビーズも粒度によって1号、2号、3号に分類される。製造方法は、溶融したガラス原料を流出してスプレーさせることでビーズ化させる「直接法」と、ガラスカレット(ガラス屑)を粉砕したガラス粒を加熱してビーズ化する「間接法」の2種類ある。後者の間接法が最も一般的な製造法である。雨天時には路面標示の部分が冠水・湿潤し光の屈折経路が変化することで視認性が低下する。そのため、1991年(平成3年)頃からこの問題点を克服した「高視認性標示」が採用され始めた。 日本ライナーはビーズを無数に固めた特殊ビーズを採用した新製品を販売し、価格は一般のものに比べ2倍するが輝きは3倍に向上させている。路面が雨天で濡れていたとしても従来品の晴天時使用よりも反射性や視認性に優れている。 高視認性標示 1989年(平成元年)に実施された建設省の公募による評価試験で実用性が確認され、1991年(平成3年頃)から普及し始めた。この標示には「リブ式」と「非リブ式」が存在する。前者(リブ式)は塗膜上に方形、または円型の突起(リブ)を形成し、突起を水膜から露出させることによって雨天時でもガラスビーズによる再帰反射を維持するものである。リブ上を車両が通行すると振動が発生し、運転者への注意喚起の効果がある。しかし、住宅地における騒音の問題や、横断歩道を通行する歩行者が通行しづらい問題点があった。そこで、後者(非リブ式)はリブではなく溝や粗表面の形成や特殊なガラスビーズを採用することで騒音や歩行のしやすさといった従来抱えていた問題も克服した上で夜間でも視認性を確保するようにしている。溝・粗表面・特殊なガラスビーズは単独で用いるより、これらを複合して施工することが多い。「非リブ式」より「リブ式」の方が設置数は多い。 全天候型路面標示 2007年頃より、屈折率の異なるガラスビーズの混合物を路面標示塗膜表面に散布・固着させることで晴天・雨天を問わず再帰反射を行える路面標示が普及しはじめている。これはガラスビーズの屈折率が2.0を境に、小さいときは乾燥時に、大きいときは湿潤時に良好な再帰反射性能を発揮する特性を生かしたものである。
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