虹
★1a.虹が、水・酒などを飲む。
『太平広記』巻396所引『独異志』 劉義慶が病気に臥し、粥を食べていた時、白い虹が部屋の中に入って来て、その粥を飲み始めた。劉は驚いて、粥の器を投げ捨てた。
『太平広記』巻396所引『文樞竟要』 薛願の家に虹が入って来て、釜の中の水を飲み始めた。水が尽きたので、薛願は酒を灌いだ。虹は酒を飲み終え、釜いっぱいに黄金を吐き出した。
★1b.虹が、口中へ入る。
『太平広記』巻138所引『鑑戒録』 侯弘実が13~14歳の頃、簷(のき)の下に眠っていると、雨が降り、虹が出た。虹は頭を河にさし入れて水を飲み、やがて弘実の口の中に入っていった。母がそのありさまを見ていて、目覚めた弘実に、「何か夢を見なかったか?」と尋ねる。弘実は「河に入って飽きるほど水を飲んだ夢を見ました」と答えた。母は「この子は偉くなるだろう」と喜び、期待どおり弘実は立身した。
★2a.虹が女に子を産ませる。
『太平広記』巻396所引『神異録』 陣濟が単身赴任中、その妻のもとを美丈夫が訪れ、2人は山中の渓間でしばしば逢い引きする。村人は、渓間に虹が出るのを見る。妻は子を産み、夫に隠して養育する。ある時、虹が庭に降り、美丈夫が子を抱いて去って行く。2つの虹が家から空へ昇るのを、村人は見る。
★2b.虹のごとき日の光が、女に子を産ませる。
『古事記』中巻 新羅の国の阿具沼の辺で、女が昼寝をしていた。太陽の光が虹のごとく女の陰部を指し、女はやがて赤玉を産んだ。後、赤玉は美しい娘に化身し、小舟で日本の難波に渡って、神として祀られた。
『女神のお守り』(アイヌの昔話) 下の天を司る神の娘が、上の天を守る神の息子に嫁入る時、貞操を守る紐ラウンクッを、禁制を破って7色の糸で編んだ(*→〔守り札〕4)。神々はその守り紐を、人間の住む大地へ投げ捨てた。すると守り紐は、バラバラにほぐれて虹になった。だから虹は、美しい七色に見えるが、その精神は良くない。もし人間が虹に追いかけられたら、「お前はラウンクッだぞ。恥ずかしくないのか」と言えば、虹は恥じて消える。
『黒い雨』(井伏鱒二)20 閑間(しずま)重松の姪・矢須子は、広島の原爆投下時には郊外におり、直接被爆はしなかった。その後数年、矢須子は健康に過ごしたが、昭和25年(1950)7月、ついに原爆病を発症し、やがて重態に陥る。重松は、叶わぬこととわかっていても、「今、もし山の向こうに五彩の虹が出たら、奇蹟が起こって、矢須子の病気が治るんだ」と1人占う。
『創世記』第9章 大洪水後、箱船から出たノアたちとすべての動物、及び子々孫々に対して、神は「地を滅ぼす洪水は再び起こらない」と約束する。契約のしるしに、神は雲の中に虹を置き、「虹が現れる時、神はこの永遠の契約を思い起こすであろう」と告げる。
『源氏物語』「賢木」 弘徽殿大后の甥頭の弁は、光源氏が兄朱雀帝のもとを退出するのを見て、「白虹(=武器の象徴)、日(=君主の象徴)を貫けり。太子畏ぢたり」と聞こえよがしに口ずさむ。それは、秦の始皇帝暗殺失敗の故事を踏まえ、「光源氏が朱雀帝に逆心を抱いても成功せぬ」と、諷したのだった。
『史記』「鄒陽列伝」第23 荊軻は燕の太子丹の義に感じ、秦の始皇帝を刺殺しようと決意した。その忠誠は天を動かし、白い虹(=武器の象徴)が太陽(=君主の象徴)を貫いた。しかし太子丹は、なお事の成らざるを恐れた〔*結局、暗殺は失敗に終わった〕。
『荻窪風土記』(井伏鱒二)「二・二六事件の頃」 昭和11年(1936)の2・26事件の前日、2月25日に、「私(井伏鱒二)」は都新聞学芸部を訪ねた。三宅坂から見ると、皇居の上に出ている太陽を、白い虹が横に突き貫いていた。細い虹で、太陽の直径の3分の2くらいの幅である。「私」は不思議に思い、学芸部長に白い虹のことを話した。学芸部長は辞書を開いて見せた。「白虹、日を貫く」と言って、兵乱の前兆だと書いてあった。
★5.虹の橋。
『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)』(スノリ)第13章 アース神たちは地上から天上へ、ビフレスト(ビヴロスト)という橋をかけた。それは虹と呼ばれることもある。ビフレストは3色で強い橋だが、やがて炎熱のムスペルハイムからの軍勢が馬に乗って攻め上る時、橋は壊れる。
『ニーベルングの指環』(ワーグナー)「ラインの黄金」 神々の王ヴォータンが、巨人のファゾルト・ファフナー兄弟と取引して、巨大な城を山上に築かせる。空が霧に閉ざされているので、雷神ドンナーが電光と雷雨で清める。空は晴れ上がり、谷を越えて城まで虹の橋がかかる。神々は、虹の橋を渡って城へ入る。
★6a.虹の立つ所を掘ると鏡。
『日本書紀』巻14〔第21代〕雄略天皇3年(A.D.459) 夏4月、伊勢の斎宮だった栲幡皇女(たくはたのひめみこ)が男に犯され妊娠した、との流言があった。皇女はこれを否認し、神鏡を持ち出して五十鈴河の辺に埋め、縊死した。闇夜に河上に4~5丈の虹が見え、虹の立った所を掘ると神鏡が出てきた。皇女の腹中は水であり、水の中に石があった。
『和漢三才図会』巻第3・天象類「虹」 明(みん)代の『霏雪録』に、こういう話がある。越(えつ)の国の道士・陸国賓が舟に乗っていて、水を跨(また)いでかかる白虹を見た。近くまで行ってみると、筍の笠ぐらいの大きな蝦蟇がおり、口中から白気を吐き出していた。蝦蟇が水に躍り入ると、虹も見えなくなった。これは虹ではなく、老蝦蟇の気息だろうと思われる。
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