薬剤による治療
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緑内障点眼治療薬として現在よく使われているのはプロスタグランジン関連薬、交感神経遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬、α2受容体作動薬の4種類であり、眼圧下降が良好なプロスタグランジン関連薬が第一選択薬となる場合が多い。第二選択薬は交感神経遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬のいずれかが選ばれる場合が多い。実際には個人個人によって眼圧下降の必要度の多寡、性別、年齢、既存の全身疾患の有無などを総合的に考慮して第一選択薬、第二選択薬は選ばれる。病型によっては副交感神経刺激薬が選択される場合もある。また2種類の薬剤を配合した合剤も使用されている。 プロスタグランジン関連薬 日本ではプロスト系のラタノプロスト、トラボプロスト、タフルプロスト、プロスタマイド系のビマトプロスト、プロストン系のイソプロピルウノプロストンが上市されている。眼圧下降効果に関してはプロスト系がほぼ同等、ビマトプロストはプロスト系と同等あるいはやや眼圧下降効果に優れ、ウノプロストンは一段落ちるとする報告が多い。眼圧下降機序はぶどう膜強膜流出路からの房水流出の上昇とされている。プロスタグランジン関連薬は、全身の副作用が少ない反面、眼局所の副作用を有して眼瞼(まぶた)、虹彩の色素沈着やまつげが濃くなるのはほぼ必発であり、炎症や黄斑浮腫を引き起こす可能性も指摘されている。また眼圧下降効果の小さいノンレスポンダーの存在も知られている。プロスタグランジン関連薬に関しては、ノンレスポンダーを除外するために片眼トライアルと言われる片目だけに治療して無治療眼との治療効果を比較する方法が知られているが、片眼トライアルは長期的な眼圧下降を反映しないという前向き研究が近年報告されている。 交感神経遮断薬 β遮断薬としてマレイン酸チモロール、ゲル化チモロール、塩酸カルテオロール、ゲル化カルテオロール、β1選択的遮断薬として塩酸ベタキソロール、αβ遮断薬として塩酸レボブノロール、ニプラジロール、α1遮断薬として塩酸ブナゾシンが上市されている。眼圧下降機序は毛様体における房水産生の抑制である。β遮断薬はかつては治療の第一選択薬であったが、就眠時眼圧を下げる効果が弱いこと、長期使用で効果が減弱すること、全身的な副作用が多く重篤であることからその座をプロスタグランジン関連薬に譲ることとなった。眼圧下降効果に関してはマレイン酸チモロール、ゲル化チモロール、塩酸カルテオロール、塩酸レボブノロール、ニプラジロール間では眼圧下降効果に大きな差はないとされている。塩酸ベタキソロールに関しては、チモロールと比較しやや眼圧下降効果が低いとされているが、ベタキソロールにおいても点眼開始12ヵ月後にはチモロールやカルテオロールと遜色のない眼圧下降効果を示すという報告もある。β遮断薬・αβ遮断薬・β1遮断薬では多くの全身副作用が報告されており洞徐脈、2度以上の房室ブロック、コントロール不十分な心不全などがある患者では禁忌である。呼吸器系への影響としては、β2遮断作用により気管支平滑筋が収縮するので、喘息患者や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などでは気道閉塞が誘発される危険性がありβ遮断薬・αβ遮断薬は禁忌である。カルテオロールには内因性交感神経刺激作用があり血圧低下が少ないとされている。ブナゾシンはα1遮断薬であり局所・全身副作用が少ない反面、眼圧下降効果もやや劣るとされている。 炭酸脱水酵素阻害薬 炭酸脱水酵素阻害薬としてはドルゾラミド塩酸塩、ブリンゾラミドが上市されている。眼圧下降機序は房水産生の抑制である。炭酸脱水酵素阻害薬はしみる、かすむ等の眼局所副作用を有するものの全身副作用が少ない。単剤での眼圧下降効果は交感神経遮断薬に劣るもののラタノプロストとの併用では交感神経遮断薬と同等の眼圧下降効果を示すという報告もある。両者とも単剤投与では2回点眼よりも3回点眼が眼圧下降の点で優れるという報告が多いが、プロスタグランジン関連薬との併用では2回点眼と3回点眼とで差がないとも報告されている。プロスタグランジン関連薬との併用時にはβ遮断薬と眼圧下降効果に差はなく、就眠時の眼圧を下げる効果はβ遮断薬より強いため第2選択薬として選ばれることも少なくない。2010年にチモロールとラタノプロストの合剤、チモロールとトラボプロストの合剤、チモロールとドルゾラミドの合剤 (コソプト®/MSD) の3剤が相次いで上市された。 α2受容体作動薬 α2受容体作動薬としてはブリモニジン酒石酸塩が上市されている。眼圧下降機序は房水産生抑制ならびにぶどう膜強膜流出路を介した房水流出の促進である。眼圧下降効果は単剤ではβ遮断薬とほぼ同等だが、トラフの眼圧下降効果が弱い可能性が指摘されている。プロスタグランジン関連薬にβ遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬、α2受容体作動薬を追加投与した際の眼圧下降効果に関してはほぼ同等という報告と、α2受容体作動薬がトラフでやや劣るとする報告がある。ブリモニジン酒石酸塩は、様々な基礎研究において神経を保護する効果が報告されていたが、The Low-pressure Glaucoma treatment studyという正常眼圧緑内障に対する無作為化比較試験において眼圧非依存的な神経保護効果がある可能性が2011年に報告された。 Rhoキナーゼ阻害剤 2014年に発売された比較的新しい薬剤。結膜充血を高率に来すために第一選択とはならないが、プロスタグランジンやβブロッカーなどの追加しても上乗せ効果が得られる。詳細は「リパスジル」を参照 カルパイン阻害剤 中澤徹(東北大学大学院医学研究科眼科学分野)らのグループは、視神経の細胞死を引き起こすタンパク分解酵素である「カルパイン」の働きを抑える薬剤を、緑内障を発症させたマウスに投与し、視神経の生存率の上昇と神経を保護する作用を確認した。将来的には臨床への応用が計画されている。 薬物治療の方針 プロスタグランジン関連薬を点眼しても緑内障性視野障害が進行する場合には点眼薬の追加を考慮する。ただしノンレスポンダーであることで充分な眼圧下降が得られていない可能性がある場合には、プロスタグランジン系薬の他剤への切り替えを行うこともある。ただし、眼圧には日内変動、季節変動がありノンレスポンダーの評価は困難である場合がある。追加点眼薬としては具体的にはβ遮断薬の追加、もしくは炭酸脱水酵素阻害薬の追加を考慮する場合が多い。両者はプロスタグランジン点眼薬との併用において眼圧下降効果は同等であるという報告が多い。炭酸脱水酵素阻害薬には少ない全身的副作用や就眠時眼圧の下降という長所と一日二回もしくは三回点眼が必要、しみる、霞むといった眼局所副作用が多いという短所があり、一方、β遮断薬には一日一回点眼で充分な眼圧下降効果を持つ薬剤があるためアドヒアランスが良好、局所の副作用が少ないといった長所と重篤な全身的副作用と就眠時眼圧下降が不十分といった短所がある。加えて治療を受ける個人の眼圧下降の必要度の多寡、性別、年齢、既存の全身疾患の有無などを総合的に考慮して第一選択薬、第二選択薬が選ばれる。 2剤点眼下で緑内障性視神経症が進行する場合には3剤目の追加点眼を考慮する。3剤目の追加投与ではいずれの追加においても眼圧下降に大きな違いはないとされている。 4剤目の追加点眼の効果は限定的である。角膜上皮障害の増加などの副作用の増加や、アドヒアランスの低下が考えられるため4剤目の追加点眼は慎重に考慮する必要がある。4剤目の追加を行わずに次の治療に移行することも多い。 その他の点眼治療 プラトー虹彩など一部の病型ではピロカルピンなどの副交感刺激薬による縮瞳が有効であることもある。 内服治療と点滴治療 点眼薬を多剤使用しても眼圧降下が十分ではない場合にはアセタゾラミドなどの炭酸脱水酵素阻害薬の内服薬を併用する場合がある。副作用として四肢末端のしびれ感、食思不振、異味感などがあげられるが尿路結石、骨髄抑制などの重篤な副作用もあるため通常は長期に使用しない。手術までの短期間の眼圧を抑えるため、手術を希望しない場合、既に複数回の手術がなされており手術による効果が望みにくい場合などに使用される。 マンニトールやグリセリンなどの高張浸透圧薬による点滴治療は一過性に眼圧を下げる必要がある場合に選択される。 充分に眼圧が下がっているにもかかわらず緑内障性視野障害の進行が止まらない場合がある。その際にはカルシウム拮抗薬を内服して視神経保護効果を期待することもある。同じく神経保護効果のある点眼や血流改善効果のある点眼を併用することもある。 大麻 2003年、アメリカ眼科学会は緑内障の治療目的に大麻を使用しても緑内障治療薬以上の有用性はないと結論している。 妊娠・授乳と緑内障 妊娠・授乳期における緑内障治療薬使用の安全性は明らかではない。プロスタグランジン系薬は胎盤を通過することが知られており、妊娠中の使用は避けられる場合が多い。交感神経刺激薬は比較的安全とされている。交感神経遮断薬の使用により胎児に低心拍数、不整脈が見られたとの症例報告がある。しかし交感神経遮断薬使用群と比較し、非交感神経遮断薬使用群に有意に低出生体重児が多いという報告もある。副交感神経刺激薬により流産や早産が誘発されるとの報告がある。動物実験では炭酸脱水酵素阻害薬の大量投与による催奇形性が報告されている。妊娠により眼圧は下降するとされている。交感神経遮断薬は母乳への移行が多いため授乳期の使用は避けられることが多い。
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薬剤による治療
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/28 07:47 UTC 版)
甲状腺ホルモンの合成を抑える薬(抗甲状腺薬:メチマゾール(チアマゾール、メルカゾール)、プロピルチオウラシル(チウラジール、プロバジール)を、規則的に服用する方法。定期的に甲状腺ホルモンの量を測定しながら、適切な量の薬を服用することで、血液中の甲状腺ホルモンの濃度を正常にする。薬で甲状腺刺激ホルモンの量を調整することで普通の人と変わらない生活を営むことができるが、甲状腺刺激抗体が消えるまで薬を飲みつづける必要がある為、完治には長い期間を要する。副作用としては、5%に皮膚の炎症、0.05%に白血球の減少や無顆粒球症が生じることがある。これらの副作用は服用開始から3か月以内に現れることが多い。無顆粒球症が生じたら直ちに服薬を中止し、他の治療法に切り替える必要がある。(好中球数 1000個/μLを下回れば中止とする。) メルカゾールではMPO-ANCA関連血管炎がまれに引き起こされる。 メルカゾールは15mg/dayで開始が安全といわれている。 プロピルチオウラシルは重症肝障害が出現することがあるため、ガイドラインでもメルカゾールを第一選択薬としている。
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