死の知らせ
『御曹子島渡』(御伽草子) 御曹子義経は、蝦夷が島のかねひら大王の娘あさひ天女と夫婦になった(*→〔父と娘〕6)。義経は島を脱出して日本に戻った後、天女に教えられたように建盞に水を入れ「阿吽」の2字を書くと、血が1滴浮かんだ。これは天女の死の知らせだった〔*『貴船の本地』(御伽草子)にも類似の場面があり、半插の水が紅になって、鬼国の姫の死を定平中将に知らせる〕。
『昭君』(能) 王昭君が胡国の王のもとへ贈られる時、柳を植えて、「私が胡国で空しくなるならば、この柳も枯れるであろう」と言い遺す。王昭君の老父母は娘を偲んで、柳の下を毎日掃き清めるが、ある時、柳の枯れたのを見て、娘の死を悟る。
『二人兄弟の物語』(古代エジプト) 弟バタが兄アヌプと別れて杉(あるいは松)の谷へ行く時、「誰かが兄さんにビールの壺を渡し、それがあふれ出たら、私の身に変事があったしるしだ」と告げる。多くの日数が経過した後、兄アヌプの持つ壺からビールがあふれる。アヌプは弟バタの住む杉の谷へ行き、死体となった弟を見る→〔魂〕1b。
★2.差し迫った死の知らせ。
『クリスマス前夜の張り番』(イギリス昔話) クリスマス前夜に教会の入り口で待っていると、翌年死ぬ人の顔が見られる、というので、牧師と老人がオトギリ草やヒイラギなどで身を守り、夜11時過ぎに教会へ行く。死すべき人たちの行列が近づき、何人かの村人の顔が見える。牧師は行列の中に自分の姿を見つけ、卒倒する。翌年牧師は病死する。
『菅原伝授手習鑑』3段目「佐太村」 藤原時平の陰謀によって、菅原道真が流罪になる。そのため、菅原道真の舎人梅王丸と、藤原時平の舎人松王丸は、兄弟ながらも、いがみ合い喧嘩をする。2人が取っ組み合い、倒れかかったので、庭の桜の木が折れてしまう。梅王丸・松王丸の父白太夫は、折れた桜を見て、もう1人の息子桜丸の死を予期する。桜丸は、道真流罪の責任(*→〔濡れ衣〕1d)を身に負って、切腹する。
『哀愁』(ルロイ) バレリーナのマイラは、恋人クローニン大尉の戦死の報を新聞で見て絶望し、夜の女に身を落とす。しかしそれは誤報であった。やがてクローニン大尉は帰還し、マイラと結婚しようとするが、マイラは自らを汚れた身と考え、彼の前から姿を消す→〔橋〕3a。
*夫戦死の誤報がもたらされても、悲劇になるとは限らない→〔帰還〕3の『夫が多すぎて』(モーム)。
『三国志演義』第84回 劉備の蜀軍は、陸遜ひきいる呉軍と闘って大敗する。「劉備も戦死した」との誤報が流れ、これを信じた劉備の妻孫夫人は、長江に投身して死ぬ。
『ロミオとジュリエット』(シェイクスピア)第4~5幕 ジュリエットは42時間仮死状態になる薬を飲んで眠り、目覚めた後にロミオとともにマンチュアへ駆け落ちしようとする。ところがこの計画をロミオに知らせる使者が伝染病騒ぎで足止めされ、ロミオのもとには、「ジュリエットが死んだ」という知らせだけが届く。ロミオはジュリエットの眠る霊廟へ駆けつけ、絶望して毒薬を飲む。
*→〔合図〕1の『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第1章。
『カサブランカ』(カーチス) イルザは、反ナチ抵抗運動の指導者ラズロの妻となるが、ラズロはゲシュタポに捕らえられ、「射殺された」との誤報がもたらされる。絶望したイルザは、パリで出会った男リックと恋仲になる。ドイツ軍が侵攻して来たので、2人はパリを脱出しようとする。その時ラズロ生存の知らせが届き、イルザはパリにとどまり、リックは1人で去る。それから2年ほど後、イルザとリックは、北アフリカのカサブランカで思いがけず再会する→〔二人夫〕6。
★5.死の誤報を利用し、過去と縁を切って新たな生活を始める2人。
『旅愁』(ディターレ) 妻との離婚を考える技師デビッドは、旅客機内で独身ピアニストのマニーナと知り合う。機器の故障による代替機への乗り換えに2人は遅れ、しかもその飛行機が墜落して、死亡者リストにデビッドとマニーナの名前が載る。すでに恋仲になっていた2人は、自分たちの生存を社会に知らせず、同棲生活を始める。そこへデビッドの消息を求めて、妻子が訪ねて来る。妻子と会ったマニーナは、デビッドとの別れを決意する。
*飛行機事故で死んだと見なされる男→〔飛行機〕2bの『黒の斜面』(貞永方久)。
*生きているのに、事故で死んだと見なされる男→〔財布〕1の『永代橋』(落語)。
★6.死の虚報。
『古事記』中巻 新羅征討を終えた息長帯日売命(おきながたらしひめのみこと。=神功皇后)は、筑紫に帰還して御子(後の応神天皇)を産んだ。そこから大和へ上る時、息長帯日売命は御子とともに喪船(もふね)に乗り、「御子は亡くなった」との虚報を流して、人々の動静をうかがう。忍熊王(おしくまのみこ。=御子の異母兄)が喪船を攻撃しようとしたので、喪船からも軍勢が出て戦い、追い払った。
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