歩行者向けの利用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/02/20 04:12 UTC 版)
テムズトンネルは、土木工学上の偉業ではあったが、財務的には成功しなかった。トンネルは、当初の費用見積もりを大幅に上回り、掘削のために454,000ポンド、その他の設備を設置するために180,000ポンドを要した。車両がトンネルに入れるように入口を拡張する提案もあったが、費用問題のために見送られ、歩行者のみこのトンネルを使用した。トンネルは観光客を集めるようになり、通り抜けるのに1人1ペニーを徴収したが、年に約200万人の人々が訪れるようになった。そして人気のある歌のテーマにもなった。アメリカの旅行者のウィリアム・アレン・ドルーは、「ロンドンに行ったものは誰もがトンネルへ行く」とコメントし、また「世界8番目の不思議」であると表現した。彼自身が1851年にこのトンネルを見たとき、「いくらかがっかりした」と表明しているものの、しかしその内部を交通の動脈としてより地下の商店街であるかのように生き生きとした描写を行っている。 通りと川を隔てるワッピングの何ブロックもの建物の中に、大理石で造られた八角形の建物がある。いくつもある大きなドアの1つから中へ入り、直径50フィートの円形の広間に出る。床は青と白の大理石のモザイクで敷き詰められている。壁は飾り漆喰が塗られており、その周りには新聞、パンフレット、書籍、菓子、ビールなどを販売するスタンドが置かれている。見張り塔の類が川の隣、円形広間に隣接しておかれており、そこに太った料金徴収人がいる。彼の前に真鍮製のターンスタイルがあり、徴収人に1ペニーを払うことでそこを通り抜けることができる。ドアを入ると、大理石で造られた長い階段を使って立坑を下り始め、広い踊り場に出て、さらに反対側の向きに下る次の階段へと降りていく。立坑の壁は円形になっており、飾り漆喰で仕上げられ、絵画や珍しい品が吊り下げられている。最初の踊り場には巨大なオルガンが置かれており、素晴らしい音楽を演奏していて、しばらく立ち止まってその響きに耳を傾ける。さらに下へ下り始めて次の大理石で造られた踊り場に達し、そこで休む間気を引くような珍しい品物がそこにも置かれている。そしてさらに下へ、80フィートの立坑の底へ降りていく。その間の壁は、絵画や像などがちりばめられている。底に到達すると、通りから入った時の円形広間に対応する丸い大理石の床を備えた直径50フィートの部屋となっている。壁沿いには窪みがいくつも設けられており、エジプトの降霊術師や占い師、踊る芸を仕込まれた猿など、さまざまな種類の芸が行われており小銭を稼ごうとしている。部屋はガス灯で照らされており、光り輝いている。 ここで自分の前にあるテムズトンネルに見入る。トンネルは2個の美しいアーチからなっており、川の対岸まで続いている。アーチはそれぞれ14フィート幅で24フィートの高さの道路となっており、3フィート幅の歩行者用の通路も用意されている。トンネルはよく換気されているようで、湿ってもこもった感じでもない。アーチを区切る壁はトンネル全長に渡って通じており、一方から他方に通じるアーチが設けられている。全部で50ほど横穴アーチがあり、豪華な雰囲気の雑貨売り場が設けられている。磨き上げられた大理石のカウンターにタペストリーで覆われた棚、そしてすべてを2倍に見せかける鏡である。ドレスを着飾った売り子の女性が微笑みかけながら、テムズトンネルの思い出となる品を何か買って帰るまでは通さないといった風情で待ち構えている。アーチはガス灯で太陽ほどの明るさに照らし出され、トンネルの構造を眺め、雑貨やおもちゃなどを眺める男性・女性・子供たちで常に通路は混雑している。何か買わずには通り抜けられない感じであり、ほとんどの商品には「テムズトンネルにて購入」「テムズトンネルからの贈り物」といったラベルが貼られている。 ドルーはおそらく、トンネルについて寛大な見方をしているが、やがてトンネルは娼婦や、アーチに潜んで通過する人を襲うトンネル盗賊といった人たちのたまり場とみなされるようになっていった。アメリカの作家、ナサニエル・ホーソーンはドルーの数年後に訪れた際のトンネルについてかなり否定的な見方を1855年の本で書いている。 トンネルは、見て直ちには分からないほどの長さで続くアーチで構成されており、ある間隔を置いてガス灯で薄暗く照らし出されている。ここで人生を過ごす人々がおり、朝にわずかに日光を見るほかはほとんど日光を見ることもないのだろうと想像する。この通路全体に渡って、小さなくぼみの中に売店がしつらえられており、主に女性が営業していて、人が近づくと多種多様の見かけ倒しの品を売ろうとしている。ともあれ、現在のトンネルの使われ方から見るに、トンネルは完全な失敗である。
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