楽園の落穂
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/27 06:53 UTC 版)
「岸辺露伴は叫ばない 短編小説集」の記事における「楽園の落穂」の解説
吉上亮による書きおろしの短編作品。 あらすじ 露伴は料理専門雑誌の出版社から仕事の依頼をされ、プレゼンのために杜王町に最近オープンしたカジュアルフレンチのレストランを訪れる。そこで編集者の移季年野から自分の手掛ける雑誌に人気作家によるコラボ漫画を毎月掲載するという企画を聞かされ、その記念すべき第一弾として露伴にグルメ漫画を描いてもらいたいと依頼されるのだが、露伴は作風の違いを理由に難色を示す。 移季はさらに話を続け、露伴の為に伝説の希少品種と称される小麦「楽園の落穂」の栽培地への取材を取り付けている事や、その小麦には食べた者の体質を劇的に変異させる力があり、彼の娘の羊の小麦アレルギーがその小麦によって治る可能性もあるという事を話すと、小麦アレルギーを治す小麦という矛盾した話に露伴は関心を持ち、移季親子と共に彼の友人がいる「楽園の落穂」の栽培地を訪れる。 登場人物 岸辺 露伴(きしべ ろはん) 杜王町に住む人気漫画家。グルメ漫画の執筆を依頼され、そのための題材として移季が用意した「楽園の落穂」の情報に関心を持った事から、移季親子と共にその栽培地へと取材に向かう。 移季 年野(うつろぎ としや) 料理専門雑誌の出版社に勤める雑誌編集者。31歳でバツイチ。丸々と太った巨漢で、体毛の濃さや頭のくせ毛から、露伴は牛が人間の扮装をしているみたいだとその外見を評している。 露伴にグルメ漫画の執筆を依頼し、その一環として伝説の小麦「楽園の落穂」の栽培地への取材を取り付け、娘や露伴とともに親友の屋宜沼のもとを訪れるが、そこで振舞われた「楽園の落穂」のパンや粥を食べた結果、労働力として牛そっくりの姿に変えられてしまう。 楽園の落穂の意思により村人らとともに羊にも「楽園の落穂」を食べさせようとするが、羊の言葉によって「楽園の落穂」の支配から脱し、体内の「楽園の落穂」を吐き出した後二人を露伴と羊を背負って集落を脱出した。 事件後は露伴にかくまわれ、楽園の落穂が身体から排出されると元の姿に戻ってその間の記憶も失ったが、打ち合わせで訪れたレストランで「楽園の落穂」で作ったとされるパンを出されると「なんか、食べてはいけない気がする」と無意識に拒否していた。 移季 羊(うつろぎ よう) 移季年野の娘。小麦アレルギーがあり、父親が毒見して安全だと判断したものしか口にしない。 アレルギーが治る可能性があるという事で父親に連れられ「楽園の落穂」の栽培地を訪れるが、不安から食べることを拒否し、その後牛の姿に変えられた父の言葉に従い意を決して口にしようとするが、自分の意思を取り戻した年野が食べるのをやめるように言ったため結局口にすることはなかった。 事件後はアレルゲン免疫療法を始め、アレルギーを克服しようとしている。 屋宜沼 猩造(やぎぬま しょうぞう) 移季の大学からの親友で、「楽園の落穂」の栽培を行っている人物。かつては農業系の先端企業で遺伝子組み換え作物の研究をしていたが、ある日急にすべてのキャリアを捨てて山奥の土地を開墾し、有志とともに「楽園の落穂」が自生していた時代と同じ生活を送りながら小麦を栽培している。 もともとは移季の娘がアレルギーを発症し、その世話に疲れた妻が彼と離婚したという話を聞いて、親友とその娘を助けようと遺伝子改良でアレルギーの出ない小麦を作成しようとしていた。その過程で現代に蘇らせた超古代種に「楽園の落穂」と命名し、アレルギー改善の可能性を見出すが、その小麦が「自らを食べた者を支配し、繁殖のための奴隷とする」という恐ろしい特性を持つ事に気付いた時にはすでに自分もその支配から逃れられなくなっていた。 村では「楽園の落穂」の家畜と化した人間達を統率する役割となっており、村に誘い出した移季親子を家畜化し、露伴には漫画によって広報活動をさせ、より多くの人間を家畜化しようとしていたが、牛となった移季が自分の意思を取り戻し、露伴がヘブンズ・ドアーで村人を操って畑に火をつけさせた事で「三人を捕らえる」「畑の火を消して小麦を守る」という二つの命令の板挟みとなり、身動きが取れなくなっているうちに三人を取り逃がしてしまう。 その後は村の畑や種子が焼き払われて「楽園の落穂」を口にできなくなった事で正気を取り戻し、同じく支配されていた他の村人たちと共に救助された。 用語 楽園の落穂(らくえんのおちぼ) 味の良さと希少性から現在食品業界で伝説と評されている小麦の品種。一万年以上前に人類が初めて遭遇した小麦の起源種のひとつとされ、一度は絶滅した種だが、屋宜沼猩造が遺伝子改良でこの世に蘇らせ栽培を行っている。 既存のパン小麦とは遺伝系統が異なり、小麦アレルギーを起こさない事に加え、身体に取り込んだ生物はその栄養を余すことなく取り込めるよう体組織が組み替わる効果があり、アレルギー体質自体を改善できるのではないかと屋宜沼は期待を寄せていたが、さらに研究を重ねた結果、この小麦には「自らの支配下に置くために食べた者の肉体や精神を変容させ、自らを繁殖させる奴隷に変えてしまう」という恐ろしい特性がある事が判明する。 この小麦による肉体を変容させる効果は非常に強力で「楽園の落穂」が自らの繁殖のために与えた仕事をこなすのに適した姿に肉体を変化させたり、人間を牛や豚、鶏などの文字通り家畜に変える事も可能。さらに、精神支配も相手の記憶を完全に書き換えるほど強力で、ヘブンズ・ドアーによる命令すらすぐに無効化してしまう。しかし、支配が強力すぎるがゆえに思考が単純化されてしまい、優先事項が複数あると命令がコンフリクトを起こして行動不能になるという欠点も存在する。また、時間経過で体内から「楽園の落穂」が排出されると、肉体や精神に生じていた変化は元に戻る。 屋宜沼が栽培していたものは露伴の活躍で種子も含めて全て焼き払われたが、その一か月後に打ち合わせを行ったレストランで「楽園の落穂」を使ったとされるパンが出されており、これが屋宜沼が栽培していた小麦と同一なのかは不明。
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