日本産ヒラタクワガタについて
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/17 09:19 UTC 版)
「ヒラタクワガタ」の記事における「日本産ヒラタクワガタについて」の解説
「ヒラタクワガタ」という名称は、日本に広く分布する亜種Dorcus titanus piliferの和名としての印象が強いが分類学上では日本産亜種、外国産亜種を含めた「種」の和名とされている。現在でも、分類等については研究者によって意見が分かれるところである。 体長はオスの場合、大アゴを含めて24から75ミリメートルに達する。対馬、壱岐、先島諸島などの亜種ではさらに大きくなる。黒から黒褐色の頑強で平たい身体を持ち、大顎も他のクワガタに比べると薄く平たい。この体型がヒラタクワガタの語源と思われる。オオクワガタに次いで[要出典]飼育が容易であり、日本だけも数多くの亜種が存在するため飼育でも標本でも愛好者が多い。 和名でヒラタクワガタと呼ばれる種群は、近年国立環境研究所の五箇浩一と現代のクワガタ飼育技術の草分けである昆虫研究家の小島啓史が共同で行ったミトコンドリアDNAに基づく分子系統樹により現在ホンドヒラタなどと仮称[要出典]されている原名亜種群と、九州地方北部と山口県西部の一部に産する本土型のツシマヒラタ(ツシマ系ホンドヒラタと仮称)の混生群を指している事がわかってきた。ホンドヒラタのオスの大アゴは湾曲が弱く基部から2/3は直線的で下方への湾曲も少ない。第一内歯は根元から1/3にあり、先端部分の小歯は弱く小さい。内歯から小歯の間に一連の鋸歯を備えるが小型個体では消失する。頭楯は幅が広く中央部が緩やかにくぼむ。ツシマ系ホンドヒラタのオスの大アゴは細長く、ほぼまっすぐで先端のみ湾入する。第一内歯は大アゴの基部1/4にあり、大アゴ先端の小歯は大型個体では良く発達する。第一内歯と小歯の間には一連の鋸歯があるが小型個体では消失する。頭楯はホンドヒラタより狭く両端がやや突出し、中央部はやや強くくぼむ。 褐色ホンドヒラタとツシマ系ホンドヒラタでは、内歯の位置は体長によって変化しない。近年70ミリメートルを大きく超え第一内歯が中央部付近にあるオスが本州各地で発見されているが、五箇と小島がミトコンドリアDNAをもとに調べた範囲では沖縄島嶼部に産するサキシマヒラタや外国産ヒラタクワガタの遺棄個体であることが確認された。従って従来の知見通り九州・本州・四国と周辺島嶼に元々産するホンドヒラタは第一内歯の位置が体長によって上下しない点が特徴と思われる。 ホンドヒラタは本州・四国。九州・種子島・屋久島・伊豆諸島に産するが、伊豆諸島の内八丈島産はハチジョウヒラタとして別亜種とされる。この亜種には第一内歯が大アゴ先端に近づくオスが存在するため、ホンドヒラタとは別亜種とされるようになった。 また、遺伝的に識別できるツシマ系本土ヒラタの分布は九州の北部と山口県の北西部のみから知られる。ただし、形態的には山口県南部から福岡県北部にかけて生息しているヒラタクワガタの一部がツシマヒラタの様に第一内歯が大アゴの根本付近に位置し、体全体が細め。甑島列島の個体にもこの特徴が現れている。 通常、同所的に二群の昆虫が存在するとき、その二群は別種とすることが多い。ホペイオオクワガタはかつてクルビデンスオオクワガタの亜種とされたが、同所的に産することが確認され現在は別種扱いになっている。ホンドヒラタとツシマ系ホンドヒラタを東南アジア全域のヒラタクワガタ・オオヒラタクワガタ群の中に置いてミトコンドリアDNAを元に分子系統樹を描くと、どちらも中国本土のチュウゴクヒラタの子孫に当たることがわかっている。しかし分布経路は大きく異なり、ホンドヒラタがタイワンヒラタ・サキシマヒラタ・ハチジョウヒラタの子孫系でツシマ系ホンドヒラタはチュウゴクヒラタと朝鮮半島産ヒラタクワガタ・ツシマヒラタの子孫にあたる。 チュウゴクヒラタからわかれた点ではどちらもオオヒラタ群ではなく中型のヒラタクワガタ群と見なせるが、五箇と小島が行った東南アジア各地のオオヒラタ群との交雑試験ではツシマヒラタおよびツシマ系ホンドヒラタのみにオオヒラタ群との継続妊性が確認された。つまり妊性だけから見るとツシマヒラタとツシマ系ホンドヒラタはオオヒラタ群と近縁と見なせる。 この様にホンドヒラタとツシマ系ホンドヒラタは別種としてよいだけの分布経路・ミトコンドリアDNAの相違・妊性の違いなどがあるが、日本のヒラタクワガタのタイプ標本が紛失していることから敢えてこの二群を別種として再記載する試みは分類学者によってまだ行われていない。 こうしたヒラタクワガタ類の地域変異やその分布の成立要因に関して、小島啓史は野外での生態観察や累代飼育によって得られた情報によって次のような仮説を展開している。 日本周辺に存在するオオクワガタは一亜種だけだが、これはこの亜種が流木経由で分布を広げにくい「内陸型」のクワガタだからと考えられる。日本と朝鮮半島産オオクワガタは同じ亜種だが日本産のヒラタクワガタは沖縄では島嶼ごとに分化が進み、島ごとに数万年から10数万年の開きがある。これに関してヒラタクワガタ群の幼虫が過湿状態に強い地下生活者であったため流木経由で分布を拡大できる「低湿地型」のクワガタだったからと仮定している。 日本周辺のヒラタクワガタ群は氷河期の終わりごとに赤道周辺から北上してその時々に達した地域を足がかりに分布域を広げたが、熱帯地方出身のため幼虫が冬期零度以下の温度に耐える耐寒越冬状態になれないため分水嶺を超えて分布を広げた形跡はない。そのため氷河期がくると分布域を南下させる必要が生じ、日本周辺には波状に侵入を繰り返した結果と思われる細分化した群が見られる。日本周辺のヒラタクワガタ群は亜種間によっては10 - 100万年という分化が進んでおり、氷河期と間氷期を調べるのに最適な標本であると考えられている。 2008年には雌雄同体の個体が山口県萩市で見つかっている
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