放射性物質の放出、拡散と汚染の状況
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/03 06:02 UTC 版)
「福島第一原子力発電所事故」の記事における「放射性物質の放出、拡散と汚染の状況」の解説
詳細は「福島第一原発事故による放射性物質の拡散」および「福島第一原子力発電所事故の影響#放射性物質による汚染の状況と影響」を参照 ベント、水素爆発、格納容器の破損、冷却水漏れなどにより、大気中、土壌、溜まり水、立坑、海水、および地下水へ放射性物質が放出された。放射性降下物は日本国内外に広がった。 福島第一原発からの放射性物質の放出は、3月14日深夜から16日までに最大のピークがあり、3月20日から23日にもこれに次ぐ放出量があったとみられる。3月15日前後の放出は、主に2号機からのものと考えられているが、3月20日からの放出の原因は不明である。 放射性物質の拡散および土壌への沈着状況は、風向きおよび降水に大きく左右されたため、原発からの距離が同じでも放射線量は大きく違い、汚染状況は同心円状ではない。放出された放射性物質は、14日深夜から15日未明には南-南西への風で茨城県方面へ流されたが、風向きは次第に西向きに変わった。やがて降り出した雨によって放射性物質が地上に降下したことで群馬県と栃木県の北部に汚染をもたらした。さらに15日午後には福島県中通りで、15日夜には原発から北西方向の地域で、雨によって放射性物質が地上に降下し高濃度の汚染地域が作られた。また3月20日午後に北向きの風で運ばれた放射性物質が、雨によって宮城県と岩手県の県境付近に降下。3月21日夜から22日未明には南向きの風に運ばれて茨城県南部や千葉県北部(柏市付近)へ汚染をもたらした。 3月14日から15日にかけて放射性ヨウ素131が大量に放出されたことがのちに判明した。飛散した地域と時刻の解析(シミュレーション)結果をNHKが番組『埋もれた初期被ばくを追え』(2012年3月11日)内で放送した[信頼性要検証]。14日に2号機で事故が発生し、通常の2500倍(1立方メートル当たり1万ベクレル)を超える放出した放射性ヨウ素が初期は風向きで海側へ流れていたが、3月15日0:00より南側の風向きに変化し、茨城県、そして栃木県を通過した、という内容であり、放射性のヨウ素131は、SPEEDIによる放射性セシウムの飛散予測とは全く異なる地域となっていたことが判明した。 第一原発正門付近の放射線量は、3月12日4時00分まで毎時0.07 マイクロシーベルト (μSv/h) と正常範囲だったが、4時30分に0.59 μSv/h、7時40分に5.1 μSv/hと上り、15時29分には1号機北西敷地境界付近で1,015 μSv/hになった。3月14日深夜からは一段と高い値を示し、15日9時00分に11,930 μSv/hの最大値を観測。3号機付近では15日10時22分に毎時400 ミリシーベルト(40万 μSv/h)という非常に高い値を観測した。その後敷地の線量は減少し、5月2日21時に正門付近では45 μSv/hとなった。 各地の空間放射線量の事故直後における最大値は、福島県浪江町赤宇木で170 μSv/h、福島市で24.24 μSv/h、栃木県宇都宮市で1.318 μSv/h、東京都新宿区で0.809 μSv/hなどであった。なお、日本での事故前の平常時の放射線量は、0.025 - 0.15 μSv/hほどである。 大気中に放出された各放射性物質の量は、東京電力および東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)の報告によると、希ガスが約50京ベクレル (500 PBq)、ヨウ素131が約50京ベクレル、セシウム134が約1京ベクレル、セシウム137が約1京ベクレルだった。ヨウ素131とセシウム137の合計は放射性ヨウ素換算値で約90京ベクレル(900 PBq)であり、チェルノブイリ原子力発電所事故の国際原子力事象評価尺度評価である5200 PBqと比較して、約6分の1の放出量となる。なお、原子力安全・保安院(2012年2月16日発表)によれば48京 Bq、原子力安全委員会(2011年8月22日発表)によれば57京ベクレルである。「チェルノブイリ事故との比較#福島第一原発事故との比較」も参照。 また、2号機から放出された高濃度汚染水が含む放射性物質の量は、東京電力発表の水量と濃度に基づけば330京 Bqである。高濃度汚染水の一部は海洋や地下水に漏れた。 2011年10月13日時点における土壌中に蓄積されたセシウム137・セシウム134の合計値が1 m2あたり1万ベクレル以上となる地域は、東北地方や関東・甲信越の13都県、3万km2以上に及んだ(1999年以降の調査での、事故前におけるセシウム137の最大値は、長野市の4700ベクレル/m2である)。また年間の空間放射線量が5ミリシーベルト(1.0μSv/h)以上の地域は福島県内の約1800km2、20ミリシーベルト(3.8μSv/h)以上の地域は約500km2の範囲に及んだ。事故後は年間20ミリシーベルトが住民の許容被曝限度とされ、避難の基準となった。政府は、長期的には追加被曝量を年間1ミリシーベルト以下へ下げることを目指すとして、年間1ミリシーベルト(0.23μSv/h)以上の放射線量が観測されていた8県の102市町村を2011年12月に「汚染状況重点調査地域」に指定して除染を進めている。 放射性物質が付着している指定廃棄物(下水汚泥、稲藁など)は2020年末時点で10都県33万6000トンある。 元々は原子炉内にあった核燃料は東京電力の所有物であるが、東京地方裁判所で行われた裁判における同社の主張では、放出された放射性物質の所有権は同社になく、付着した土地の持ち主にあるとしている。
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