心理社会的介入
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/03 01:09 UTC 版)
認知行動療法 (CBT) 薬物療法と並行して、疾患の心理的な受容、疾患や治療に伴い経験した喪失体験の受容などを援助するために個人精神療法を行うこともある。NICEは、統合失調症を持つすべての人に認知行動療法を提供すべきであり、その場合は個人別セッションを最低16回行うとしている。英国などで有効性が証明されており、日本での認知行動療法のさらなる導入が求められている。 認知行動療法では、以下のような技法を活用して、患者が妄想・幻聴の妥当性を検証・検討することができるよう支援する。 1. 行動実験:ここでは、妄想の内容や幻聴の要求に逆らって行動するという行動実験が設定され、患者をサポートする。そして、妄想の内容は事実ではなく、幻聴の要求も正しくないという気づきを得て、妄想や幻聴の妥当性を否定する。 2. 認知再構成法・論理的分析法:協同的な治療関係が確立した後、妄想や幻聴の内容を論理的・科学的に検討したり、妄想的信念の根拠を検証したり、別の解釈の探求を行ったり、妄想や幻聴の内容に反する出来事・体験に注意を払ったりすることを通じて、患者が妄想・幻想の妥当性を検討することをサポートする。 3. 現実検討:認知的変容には実体験を通じた現実検討が有効である。幻聴や妄想の内容を、患者が実体験・行動を通じて再検証することをサポートし、それにより得られた気づきを共有する。 4. 証拠・根拠の検討:妄想や幻聴の内容が事実であるかどうか・実在するかどうかについての証拠や根拠について、治療者と患者が協働で様々な角度から客観的に検討し、そこで得られた気づきを共有することで、妄想や幻聴は事実ではなく実在もしないと認識できるようサポートする。 5. 代替療法:妄想や幻聴に対する合理的な他の考え方・見方を患者が見つけられるようにサポートしたり、それらを治療者が提示したりする。どちらにおいても、患者と治療者が協同して、苦痛を伴わない合理的な別の考え方を見つけていく。 6. フォーカシング治療:セルフモニタリングの技法などを活用して、妄想や幻聴は自分の思考(自己派生の出来事)であり、実際に外部にあるもの・外部からの声(外部からの刺激)ではないということを再認識できるようサポートし、症状による苦痛の頻度を軽減することを目的とする。 7. 競合刺激の活用:たとえば、幻聴が聞こえる状態で外部聴覚刺激(音楽など)を聞くと、幻聴が少なくなることを体験することなどを通じて、幻聴は実在する外部音声ではないという認知を形成できるようサポートする。また、対処方略としては、妄想の考えをストップしたり幻聴を無視し聞き流したりしたあと他へ注意を向ける二段階法や、ちょっとした気晴らし行動などを用いた注意転換法を活用して、妄想・幻聴への注意を他の事柄(たとえば音楽など)に向け、そのような現実の事柄に集中していくことができるようサポートを行う。 心理教育 (Psycoeducation) 薬物療法によって陽性症状が軽減しても、自らが精神疾患に罹患しているという自覚(病識)を持つことは容易ではない。病識の不足は、服薬の自己中断から再発率を上昇させることが知られており、病識をもつことを援助し、疾患との折り合いの付け方を学び、治療意欲を向上させるために心理教育を行うことが望ましい。精神保健福祉士が主に担当する。統合失調症の患者は正直すぎると言われるが、なにもかも正直でなくていい、秘密があっていいということを教育する。秘密にすることで自分を守ることはマナーでもあり、社会復帰のために必要である。また、異性関係のことが自分の中であまりにも整理されていない人が多いとされ、異性の気持ちになって物事を見ることも大切な心理療法の一つである。 患者本人のみならず、家族の援助(家族教育)も行うこともある。家族への心理教育の再入院予防効果によって、医療コストは軽減されるといわれる。 ソーシャル・スキル・トレーニング (SST) 統合失調症を有する患者は、陰性症状に起因する社会的経験の不足が散見され、自信を失いがちなことにより、社交、会話などの社会技能が不足していることが多い。それらの訓練として、ソーシャル・スキル・トレーニングを行うことがある。デイケアプログラムの一環として行われることが多い。SSTトレーナー、SST認定講師、心理の専門家が担当する。NICEは、SSTを統合失調症患者にルーチンとして実施してはならないとしている。 作業療法、芸術療法、風景構成法 絵画、ぬりえ、折り紙、手芸、園芸、陶芸、スポーツなどの作業活動を主体として行う治療である。非言語的な交流がストレス解消につながったり自己価値観を高めたりする効果がある。病棟活動やデイケアプログラムの一環として行われることが多い。作業療法士が担当する。急性期では、作業活動を通して幻覚・妄想などを抑え、現実世界で過ごす時間を増やしたり、生活リズムを整えることを目標とし、そのためには患者が集中できるような作業活動を見つけて適用することが必要となる。慢性期では、退院を目標とし、そのためには服薬管理や生活リズム管理など、自分のことは自分でおこない自己管理ができるようになり、作業能力と体力も向上することが必要となる。慢性期での作業療法では患者のペースで行なえる作業活動を徐々に増やしていくよう心がける。 NICEは、陰性症状の緩和のため、統合失調症を持つすべての人に芸術療法が提供されるべきであるとしている。 その他 アドヒアランス療法は行ってはならない。カウンセリングや支持的精神療法はルーチン実施してはならないが、他の心理療法が提供できない場合などは、患者の好みに合わせて提供できる。
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