心理的負担
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/02 08:00 UTC 版)
100km/h前後の高速で空中に飛び出し、8秒から10秒間飛行するスキーフライングは選手に多大な心理的圧力を課す。インスブルック大学の研究では、飛行中のジャンパーは神経系を酷使して"視覚刺激の洪水"を処理していることが分かった。これは、スキージャンプ選手の脳内ではアドレナリンが多量に分泌されて異化状態に達し、最終的に重圧をそれ以上増やさない状態を作り出すことを意味する。慢性的なストレスに誘導される不安からの保護メカニズムは肉体的に排尿の増加(利尿不安)や協調制約などをもたらす。協調制約を回避するには、精神的・肉体的に極限状態となるスキーフライングを、集中してトレーニングすることである。これにより最終的に自動的に極限状態を処理するシナプスが形成される。しかし問題は、スキーフライングのシャンツェを整備するにはコストがかかるため、十分にトレーニングする機会が得られないことである。したがって、選手はわずかのトレーニング機会で風の状況やジャンプ台の癖を見抜かなければならない。小さなミスが重大な事故を起こす危険性があり、長期的にトラウマを引き起こすこともある。例として1983年、当時19歳の東ドイツのイェンス・バイスフロクがハラコフで突風に煽られて大転倒し怪我を負い、翌シーズン大きなジャンプ台ではパニック症状に苦しんだ。トラウマの克服には登山が役立った。2000年代初めにドイツナショナルチームのヘッドコーチに就任したラインハルト・ヘスは選手に極限状態を体感させるため激しいサッカーの練習に続けてカートレースを体験させた。 また、日本人でも飛行曲線の高い原田雅彦は成功ジャンプでも途中でジャンプを止めて手前で降りることもあったほか、強風の中で行われた1998年のヴィケルスンでの大会では1本目3位ながら2本目を棄権している(この時他にディーター・トーマやアンドレアス・ゴルトベルガーなど、飛行曲線の高いジャンパーがこぞって2本目を棄権した)。一方で着地斜面をなめるジャンプが持ち味の岡部孝信や船木和喜はフライングヒルを苦にしていなかった。 2010年に改修されたヴィケルスンの新フライング台こけら落としを前に世界記録保持者のビヨーン・アイナール・ローモーレンがスキージャンプとスキーフライングの違いについて語った。"スキーフライングはリスク自体大きいが、コンディションをベストに調整すればベストのジャンプが出来る。ヴィケルスンではプラニツァより良いジャンプが期待できる。"また、かつてのスキーフライングチャンピオンディーター・トーマは、"スキーフライングの感覚は愛情と自動車事故を免れた時の感覚を混ぜ合わせたようなものだ"と語った。
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「心理的負担」の例文・使い方・用例・文例
- 心理的負担が大きい。
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