心理的要因と社会的要因
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 06:52 UTC 版)
自殺のリスクを増大させる心理的要因には、絶望感、人生における喜びの喪失、抑うつ、不安、興奮、硬直した思考、反芻、思考抑制、対処技術の低下などがある。問題を解決する能力の低さ、以前持っていた能力の喪失、衝動のコントロールができないことも自殺に影響する。高齢者では、自分が他人に負担をかけていると思うことが自殺に強く影響する。結婚歴のない人も自殺のリスクが高くなる。家族や友人の喪失や仕事の喪失など、最近の生活上のストレスが一因となっている可能性がある。 ある種の人格因子、特に神経症的傾向と内向性の高さが自殺と関連している。このことは、孤立していて苦悩に敏感な人が自殺を試みる可能性を高めることにつながる。一方、楽観主義には自殺の予防効果があることが示されている。その他の心理的危険因子には、ストレスの多い状況に閉じ込められた生活や、感覚をほとんど持たないこと挙げられる。脳のストレス反応系の変化は、自殺状態の間に変化する可能性がある。具体的には、ポリアミン系と視床下部-下垂体-副腎系の変化である。 社会的要因 膨大な数の統計学的・疫学的研究が、文化(宗教・教育)と生活様式(都会暮らしか田舎暮らしか)と家族の状態(独身か既婚か)、社会的状況(失業状態や収監状態など)が自殺に強く影響することを明らかにしている(「脳と性と能力」カトリーヌ・ヴィダル、ドロテ・ブノワ=ブロウエズ(集英社新書)[要ページ番号])。 社会的孤立と社会的な支援の欠如は、自殺のリスク増加と関連している。貧困もまた自殺の要因であり、周囲の人々と比較して相対的貧困が高まると自殺のリスクが高まる。インドでは1997年以降、20万人以上の農民が、負債の問題もあって自殺している。中国では、農村部の自殺率が都市部の3倍に達しているが、この地域の財政難も高自殺率の原因の一部と考えられている。 失業した人々や事業破綻した人々の人生をしっかりと救済する制度がつくられていてその制度がきちんと機能している国では、失業が自殺に直結するようなことはない。だが、失業した人々や事業破綻した人々を行政がきちんと救済していない国では、失業や事業破綻が自殺に直結してしまうことになる。失業それ自体より、行政が人々を救うような制度を整えているか、行政がその制度を実際にきちんと機能させて実際に人々を救っているかどうか、ということのほうが強く影響するのである。 たとえば失業率が高い国は世界には多くあるが、例えばスペインの失業率は20%を超えているが自殺が社会問題とはなっていない。各国ごとのジニ係数と自殺率には相関がみられず、これは所得格差が自殺率と相関が少ないことを意味する。ただし、ジニ係数は自殺未遂率とは有意な相関がある。 日本の自殺者305名の遺族を対象にした調査を元にした危険複合度の分析によれば、主な根本要因として「事業不振」、「職場環境の変化」、「過労」があり、それが「身体疾患」、「職場の人間関係」、「失業」、「負債」といった問題を引き起こし、そこから「家族の不和」、「生活苦」、「うつ病」を引き起こして自殺に至る。つまり統計的に見ると、自殺の根本要因には社会的な要因があることが多い 信仰心があると自殺のリスクが低くなる。ただし自殺が崇高なものであると信じた場合はかえってリスクが高くなる。これは、多くの宗教が自殺に対して否定的な態度をとっていることと、宗教がより強いつながりを持っていることに起因している。宗教的な人々の間では、イスラム教徒の自殺率は低いようである。しかし、これを裏付けるデータは強力なものではない。自殺未遂率に差はみられず、中東の若い女性の自殺未遂率は高い可能性がある。 いじめ、偏見 人々からのいじめや偏見から逃れるために自ら命を絶つ人もいる。いじめや偏見は社会がつくりだしているものであり、それが自殺のリスク要因となっている。 子供に対する虐待、子供の逆境 小児期に性的虐待を受けたことがあることや、里親制度にかかった時間も危険因子である。性的虐待は全体のリスクの約20%に関与していると考えられている。 トラウマは小児のリスク因子である、また成人の自殺傾向のリスク因子である。人生の早い段階での重大な逆境は、問題解決能力と記憶に負の影響を及ぼし、どちらも自殺傾向に関連している。 賭博場の存在とギャンブル依存症 ギャンブル依存症は、一般人口と比較して自殺念慮と実行リスクを増加させるとされている。病的ギャンブラーの12-24%が自殺を試みており、その配偶者では自殺率が一般人口の3倍となっている。また病的ギャンブラーは、精神疾患、アルコール乱用、薬物乱用リスクも増加する。 ちなみにイスラームでは賭博が(飲酒とならんで)コーランで明確に禁止されており、そのおかげでイスラーム圏では賭博やギャンブル依存症によって自殺に追い込まれることがない。この意味で、イスラーム教は大局的に人々を護り、自殺から遠ざけている。 (イスラーム圏以外の地域では、目先の税収などに目がくらんで、カジノなどの)賭博場を建設するか?、賭博場建設は止めるべきか?、ということが行政的にも住民的にも議論されることがあるわけだが、そうした文脈で、賭博場建設が必然的にもたらすギャンブル依存症者と自殺者の増加の問題も浮上する。
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