エビデンスのレベルと研究の評価
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/01/22 14:20 UTC 版)
「根拠に基づく実践」の記事における「エビデンスのレベルと研究の評価」の解説
研究結果に関する結論は確率的手法で作られているので、アウトカム研究レポートをふたつの単純なカテゴリーに分けることは無理である。研究エビデンスは「根拠に基づく」と「根拠に基づかない」に単純に分けられず、研究が設計され実行された方法の要素に基づいて、連続体の一方から一方のどこかに位置するものとなる。連続体の存在は「エビデンスのレベル」、または治療が効果的だという強い・弱いエビデンスのカテゴリーの観点から考えることを必須とする。研究レポートを治療のための強い・弱いエビデンスとして分類するには、研究の質と報告されたアウトカムを評価することが必要である。 研究の質の評価は難しい作業で、研究レポートと背後の情報を細部まで読むことを要求する。研究者によって報告された結論をそのまま受け入れるのは適切ではないかもしれない。たとえば、アウトカム研究のある調査で、70%の研究が研究デザインから正当化できない結論を述べていた。 心理学者による初期の根拠に基づく実践の課題の検討は、ある治療の効果性を支持する2つの独立したランダム化比較試験を要求するという、厳しいが単純な根拠に基づく実践の定義を提供した。しかし、さらなる要因の検討が必要であることが明らかになった。その要因とは、エビデンスのより低次だが有用なレベルの必要性と、さらなる基準を満たす「金字塔的」なランダム化試験の必要性である。 研究レポートを評価するための多数のプロトコルが提案されてきており、以下の段落で要約する。研究エビデンスを根拠に基づく実践(EBP)と根拠に基づかない実践のカテゴリーに二分するプロトコルもあるが、複数のエビデンスのレベルを採用するプロトコルもある。読者が気づかれる通り、さまざまなプロトコルで使われる基準はある程度オーバーラップしているが、完全にはオーバーラップしていない。 Kaufman Best Practices Projectアプローチは根拠に基づく実践(EBP)を正確な意味においては使わなかった。しかし、同じ問題を扱うように意図された介入グループのなかから、もっとも容認できる治療法を選択するためのプロトコルを提供した。「最良の実践」と指定されるために、治療法は堅固な理論の基礎と、臨床的実践における一般的な受容と、多くの逸話的・臨床的文献を持つ必要がある。このプロトコルはまた有害ではないという証拠と、少なくとも1つのランダム化比較研究と、記述的な刊行物と、妥当な量の必要なトレーニングと、ふつうの状況で使用しうるということを要求する。このプロトコルに欠けているのは、ランダム化されていないデザイン(クライアントと実践者のどちらかが、個人がある治療を受けるかどうかを決める)の可能性、使用される比較グループのタイプを特定する必要性、交絡変数の存在、アウトカム測定の信頼性と妥当性、要求される研究分析のタイプ、または評価プロトコルによって要求されるたくさんの要因などである。 Saunders他により提案されたプロトコルは研究レポートを、研究デザインと理論的背景とおこりうる害のエビデンスと一般的な受容に基づいて、6つのカテゴリーに分類した。このプロトコルに分類されるためには、マニュアルまたは似た介入の記述を含む、記述的な刊行物がなければならなかった。このプロトコルは比較グループの性質、交絡変数の影響、統計分析の性質、または多数の他の基準を考慮していない。介入は、対象の治療法を適切な他の治療法と比較して、対象の治療法に有意な利点を示す2つ以上のランダム化比較アウトカム研究がある場合に、カテゴリー1、よく支持された効果のある治療法、に割り当てられた。介入は非治療グループに対してなんらかの形のコントロールをした非ランダム化デザインによるプラスのアウトカムに基づいてカテゴリー2、支持されたおそらく効果的な治療法、に割り当てられた。カテゴリー3、支持された受容可能な治療法、は単一のコントロールまたは非コントロール研究に支持されているか、または一連の単一被験者研究に支持されているか、または関心対象の母集団ではなく違う母集団に対する研究により支持されたものである。カテゴリー4、見込みがあり受容可能な治療法、は一般的な受容と臨床の逸話の文献を除き、支持のない介入である。しかし、害の可能性のエビデンスがあれば、治療法はこのカテゴリーから排除される。カテゴリー5、革新的な新しい治療法、は有害であるとは考えられていないが文献の中では広く使われてないか議論されていない介入である。カテゴリー6、懸念のある治療法、は害をなす可能性のある治療、そして未知のまたは不適切な理論的基礎を有する治療に対する分類である。 研究の質の評価のためのプロトコルは、Centre for Reviews and Disseminationにより提案された。Khan他により用意され、医療的・心理社会的介入の両方を評価するための一般的な方法として意図された。ランダム化されたデザインの使用を強く推奨しているものの、このプロトコルはそのようなデザインは真のランダム化と、クライアントとアウトカムを評価する人々から、割り当てられた治療グループを隠すなどの、要求される基準を満たす場合にのみ有益であると言う。Khan他のプロトコルはグループにおけるより大規模な削減に関連する問題を避けるために、「治療する意思」に基づいて比較することの必要性を強調した。またKhan他のプロトコルは非ランダム化研究に要求される基準を提示しており、潜在的な交絡変数についてのグループと、グループの適切な記述と各段階での治療法のマッチングと、評価する人々から治療法の選択を隠すことを示した。このプロトコルはエビデンスレベルの分類を提供しなかったが、研究が決まった基準を満たしているかなどの、根拠に基づく分類から治療法を含んだり排除したりした。 U.S. National Registry of Evidence-Based Practices and Programs (NREPP)により評価プロトコルが開発されてきた。このプロトコルの下での評価は、少なくとも介入に関してすでにひとつ以上のプラスのアウトカムが、5%以下の確率でレポートされている場合と、ピアレビュージャーナルまたは研究レポートで出版された場合と、トレーニング素材などの文書が入手可能になっている場合のみにされる。NREPPの評価は、ある基準に対して0から4までの質の評価を割り当てており、研究で使われたアウトカム測定の信頼性と妥当性と、介入の厳守のエビデンス(毎回同じ方法での、治療法の予測可能な使用)と、欠測データと消耗のレベルと、潜在的な交絡変数と、サンプルサイズを含む統計的操作の適切性を検査する。 Mercer and Pignottiにより提案されたプロトコルは研究の質と他の基準の両方を分類することを意図された分類法を使う。このプロトコルでは、根拠に基づく介入は、確立された治療法の比較をしているランダム化デザインでの研究と、結果の独立した再現と、アウトカムのブラインド評価と、マニュアルの存在に支持されている介入である。根拠に支持された介入は、対象者内のデザインを含む、非ランダム化デザインと、前述のカテゴリーの基準を満たす介入である。根拠から情報を得た治療法とは、対象グループではない母集団でテストされたケーススタディと介入を伴い、独立した再現をもたないものである。マニュアルは存在し、害または潜在的な害をもたらすというエビデンスがないものである。信念(考え)に基づく介入は、出版された研究レポートや合成したケースに基づいたレポートがないものである。信念(考え)に基づく介入は宗教的原理またはイデオロギーに基づく原理かもしれず、受け入れられた根拠はないのに従来の考えの中に基づくことを主張するかもしれない。マニュアルはあるかもしれないし、ないかもしれない。そして、害または潜在的な害をもたらすというエビデンスはない。最後に、潜在的に有害な治療法のカテゴリーは、有害な精神的効果または身体的効果が文書化されており、マニュアルやほかのソースが害の可能性を示している介入のことである。 研究の質の評価のプロトコルはまだ発展中である。今までのところ、利用できるプロトコルはアウトカム研究が効き目(理想条件で行われた治療のアウトカム)、または有効性(普通の、予想できる条件で行われた治療のアウトカム)のどちらに関連しているかに比較的注意を払っていない。
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