エビデンスに基づいたその他のアプローチ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/13 03:46 UTC 版)
「アンガーマネジメント」の記事における「エビデンスに基づいたその他のアプローチ」の解説
アンガーマネジメントによる介入は、認知行動療法のテクニックに基づき、3段階のプロセスによって実施される 。最初に患者が学ぶのは、怒りの感情が潜在的に生じる可能性のある状況を特定することである。怒りが生じる状況は、よく「アンガー・キュー(怒りのきっかけ)」と呼ばれる。潜在的なきっかけを避けることができれば、望まない感情爆発を避けることができるだけでなく、内なる葛藤も避けることができる。怒りはよく自動思考や不合理な信条から生じるのだが、これが治療上の問題となる。患者の反応があまりにも速すぎるため、思考や信条を修正する時間がないことがあるのだ。ライト(Wright)、ディ(Day)、ハウエルズ(Howells)らは、この現象を「感情システムによる認知システムのハイジャック(hijacking of the cognitive system by the emotional system)」と呼んでいる。第2段階では、特定の状況における適切な反応としてリラクゼーション技法を教える。一般的なリラクゼーション技法は、呼吸を整えること、その場から物理的に立ち去ること等である。第3段階では、患者が将来、怒りを感じる状況に遭遇した際に学んだテクニックを用いることができるよう、実践の場としてロールプレイを行う。繰り返し練習した結果、学んだ有効テクニックを自動反応的に用いられるようになる。このような一般的な各段階を修正することにより、特殊プログラムを作成することも可能である。更に異なる心理学の分野では、上記3段階のプロセスは基本的に認知行動療法に基づいて修正される。集団精神療法、家族療法、リラクゼーション・オンリー療法などがそれぞれアンガーマネジメント・プログラムに幅広く適用され、効果を上げている。 リラクゼーション療法を用いると、行動に移そうという認識や動機を低下させ、リラクゼーションを通じて自分の怒りをより上手く制御できるようになる。この療法は、怒りの生理的、認知的、行動的、社会学的といった様々な局面に対して有効である。これらの局面が組み合わされてリラクゼーションが形づくられ、怒り治療に効果を発揮するからである 。マインドフルネス(気づき)療法テクニックは、患者に身体感覚と感情を受け入れる方法を教えるものである。マインドフルネス(気づき)は、瞑想により実践される伝統的な東洋の精神療法に基づくものである。マインドフルネス(気づき)は主に、「自己抑制」と「今この瞬間への適応」の2つで構成される。この療法テクニックは、瞑想を反映し、批判することなく今この瞬間を体験するという考え方に基づいている。実際には、患者は瞑想しながら注意深く呼吸し、座り、歩く。目的は、患者に「怒りという思想は、現実というよりも単なる思想にすぎない」と理解させることである。マインドフルネス(気づき)は、リラクゼーション・アプローチにおいて使用されるテクニックでもある。このテクニックにより、生理的興奮を鎮めることができるからだ。 論理情動療法(Rational Emotive Behavior Therapy)は、怒りとは「出来事そのものから生じるというよりも、患者の信念や感情から生じるもの」であると説明している。この療法のコンセプトは、患者が怒りを生じさせる不合理な思想を避け、出来事を合理的に解釈できるようにすることである。遅延反応テクニックは、患者が自分の怒りを行動に移す前に、自分は何に怒っているのかに気づかせるために使用される。このテクニックにより、患者は怒りを感じる状況を修正するための時間と、怒りに反応するまでの時間を得られるため、より合理的に思考できるようになる。更に、患者は反抑圧的な命令を避けられるようになり、怒りを避けることができるようになる。例えば患者が命令を受けた時に、「自分の基準に照らし合わせて行動すべきだ」と思えるようになる。研究により、患者がアンガーマネジメントについてより良く理解し、またそれが自分自身、および他者との関係にとってどう役立つかを理解すると、攻撃的な行動を起こす頻度が低下することが分かってきている。 怒りの治療の成功率を推定するのは困難である。「過剰かつ深刻な怒り」は、精神疾患診断統計マニュアルが認める障害ではないからだ。このマニュアルは、メンタルヘルス専門家の参照文献として使用されている。怒りの治療方法を比較する研究は複数存在しているが、これらの研究も正確な比較は方法論的に困難だと述べている。怒りの治療に関して非常に明確に立証されているのは、単独テクニックを用いるよりも複数のテクニックを併用したほうが上手くいくということだ 。単独テクニックを用いる治療として最も成功率が高いのは、リラクゼーション・アプローチである 。CBT療法に基づいたアンガーマネジメント療法は、多くのメタ分析によって評価されてきている。50の研究と1640名の被験者を分析した1998年のメタ分析は、治療を行わなかった場合とアンガーマネジメントによる介入を行った場合の差異を比較するため、怒りと攻撃性の測定を行った。治療を受けなかった個人と比較して、アンガーマネジメントの介入を受けた患者の改善確率は67%であったことが確認され、顕著な効果として結論づけられた。更に2009年のメタ分析では、96の研究を対象として精神治療比較が行われた。その結果、平均8回のセッションを受けた後に顕著な改善が確認され、怒りが減少すると結論づけられた 。全体的に見ると、アンガーマネジメント・プログラムを完遂すると、患者の行動に長期的な良い変化が見られるようである。介入が成功すると、外的に表現される攻撃性を減らすだけでなく、内的な怒りのレベルも減らすことができる。
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