実情に合わせた変化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/23 03:45 UTC 版)
しかし、この基本構成はもともと大都市近郊の事情に合わせたものであり、電車運転線区の拡大に伴い実情に合わなくなってくるケースが見られ、概ね1970年前後からはそれまでの全国一律の統一的仕様ではなく、基本的な設計思想は引き継ぎながらも使用地域の輸送事情に適合させる例が登場する。 1967年(昭和42年)に登場した北海道向けの近郊形電車である711系は苛酷な気象条件を考慮し、キハ24・キハ46形に倣って、近郊形ながら455系と同じような前後2扉、デッキ付きで座席は戸袋付近を除きクロスシートとなった。シートピッチを急行形と同一とし、急行列車への使用も想定していた。実際、函館本線の急行「かむい」には711系が充当されている。しかしこれは特殊な例であり、他地域ではこれ以降も引き続き113系・115系や415系などの標準仕様車両が投入されている。 急行形車両の絶対数不足や送り込み運用との兼ね合いなどから一部の急行列車に近郊形車両が充当されるケースがあり、近郊形を充当した急行列車は「遜色急行」と呼ばれることもあった。 1978年(昭和53年)に製造された417系は地方都市での普通列車に使用される前提で両開き2扉セミクロスシートという構造が採用された。これは地方都市で用いられていたキハ45系やキハ47形に準じた接客設備であり、地方都市向け近郊形電車の標準形として確立し、713系・413系・717系にも受け継がれたが、その後は国鉄財政事情の悪化が進み、地方都市向け電車の多くを特急・急行形電車の改造・転用で賄うこととなったため、結果的にこの仕様の車両は少数の製造にとどまっている(次項「#他用途の車両からの転用」を参照)。交直流電車は製造コストの高さもあり、常磐線中電・水戸線・九州北部などを除く交流電化線区には、状態の良い交流電気機関車を有効活用する観点から、一般形客車である50系が投入されている。例外的に地域輸送用の交流近郊形電車が新造された函館本線においても、旅客列車の全面電車化には程遠い状況で、電化区間に多くの客車・気動車列車が残っていた。 並行私鉄との激しい競争にさらされていた関西地区では、1979年(昭和54年)に新快速用として117系が投入された。この車両は、並行私鉄の「無料特急」車両が転換クロスシート装備であり、それまで新快速に使用されていた153系のボックスシートでは見劣りがするため、2扉車体に転換クロスシートを装備したもので、ロングシートとつり革は一切設けられなかったほか、蛍光灯には乳白色のグローブ(カバー)が取り付けられるなど、並行私鉄車両に匹敵する高級感あふれる内装となった。なお、117系はその後、中京地区にも快速用として投入されている。 一方、関東地区では、郊外の住宅地の拡大により増え続ける乗客を捌くため、1982年(昭和57年)には415系に普通車すべての座席をロングシートとした(事実上の通勤型)車両が製造された。また、1985年(昭和60年)には415系で、セミクロスシート車の車端部をロングシートとした車両も登場している。この仕様は、国鉄分割民営化を視野に入れた新型車両である211系でも採用された。 このほか、1982年(昭和57年)には使用線区を飯田線に特化し、同線の事情に合わせて設計された119系が、1983年(昭和58年)には長崎本線・佐世保線向けに417系に準じた2扉車体・セミクロスシートの713系が、四国島内の電化が実施された1986年(昭和61年)には四国島内向けの121系が、瀬戸大橋線開業が間近となった1987年(昭和62年)には同線向けに117系に準じた2扉車体・全席転換クロスシートの213系が、それぞれ製造されている。 711系 417系 117系 415系 211系 119系 121系 213系 117系車内(2扉転換クロスシート) 415系500番台車内(ロングシート)
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