国旗損壊罪法案とは? わかりやすく解説

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国旗損壊罪法案

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/25 01:45 UTC 版)

国旗損壊罪法案(こっきそんかいざいほうあん)は、日本の国旗を損壊することに対する刑罰を規定した「国旗損壊罪」を新設する法律[1]

歴史

日本国旗を尊重することを法律で義務付ける試みは、1999年に制定された国旗及び国歌に関する法律でも存在していた。当時内閣官房長官を務めていた野中広務はそのような考えを示していたが、1999年6月29日の審議で内閣総理大臣小渕恵三が「尊重規定や侮辱罪を創設することは考えていない」と答弁した後、条文化は見送られた[2]

2012年5月25日に、自由民主党総務会日章旗を傷つけることに対する罰則を定めた「国旗損壊罪」の刑法改正案を了承した。この法律は、日本国を侮辱する目的で国旗を損壊、除去、汚損した者に2年以下の懲役または2万円以下の罰金を科すものだった[3]。この法律は、高市早苗長勢甚遠平沢勝栄柴山昌彦が議案提出者となり、議員立法第180回国会法務委員会に提出されたが、審査未了で廃案となった[4][5]

2021年1月26日、自民党保守団結の会城内実や高市早苗は、外国国章損壊罪が存在するにもかかわらず、国旗損壊罪がないのはおかしいと主張し、政調会長下村博文に、国旗損壊罪の提出を要請した[6][7]。高市はまた、「国旗損壊罪がないのは敗戦国だから」とも自身のホームページのコラムに記述していたが、毎日新聞はこの記述に対しファクトチェックで否定した。記事が掲載された後、記述は削除された[8]。尚、デンマークは日本と同様に、自国の国旗損壊は表現の自由として容認する一方で、他国の国旗を損壊する場合のみ外交問題を理由に犯罪としている[9][10]。自民党内では、岩屋毅が本法案に反対の立場だという[1]

2025年10月20日、自由民主党と日本維新の会は、2026年の通常国会で「国旗損壊罪」を制定することを記載した連立政権合意書を締結した[11]

批判

2012年の法案に際し、日本弁護士連合会表現の自由を侵害する恐れがあるとして反対声明を出した[12][13]。弁護士の伊藤真は、この法案の賛同者が主張する「外国でも国旗損壊罪があるから日本でも新設するべき」という考えについて、アメリカ合衆国連邦最高裁判所が国旗の棄損を禁止する法律を「象徴的言論の自由」を侵すものとして違憲無効としたアメリカ合衆国対アイクマン事件の判例を引用し、疑問を呈した。保守派と見なされる西田昌司もこの法案には懐疑的とされる[6]。保守団体一水会代表の木村三浩は、「国を憂う心も必要」として、国旗損壊罪に反対の考えを表明した[14]小林節は、「日の丸は好きだが、日の丸損壊罪の新設には反対する」とし、日の丸の取り扱いは誰にでも出来る簡単で自然な表現手段であることを理由に挙げた[15]

弁護士の猪野亨は、国旗損壊罪は表現の自由を保障した日本国憲法第21条に照らし、違憲であるとの考えを示した。同様に、「イスラエルによるガザへの軍事行動の際に大使館前でイスラエル国旗を毀損すること」を直ちに処罰することは疑問があると述べ、外国国章損壊罪についても無制限の適用は違憲の疑いがあると付け加えた[16]品川区議会議員で弁護士の松本常広は、外交問題が保護法益の外国国章損壊罪と異なり、国旗損壊罪の保護法益は「日本人の集団的な感情」になると指摘し、個人の権利ではなく特定の集団の尊厳を保護法益とするのは様々な方面の表現規制に道を開くとして反対を表明した[17]

慶應義塾大学教授の駒村圭吾は、国旗損壊罪は国旗に敬意を表したくない人にまで敬意を表することを強制する法律であることを理由に、日本国憲法第21条だけでなく、思想・良心の自由を規定した同第19条にも抵触するとの考えを示した[18]。憲法学者の志田陽子は、国旗損壊罪は芸術文化的な表現を制約することにも繋がりかねないと懸念を表明した[19]

関連項目

参考文献

  1. ^ a b 自民・高市早苗氏、岩屋外相は「保守じゃない」 国旗損壊罪法案阻まれた「恨み」明かす”. 産経新聞 (2025年4月22日). 2025年10月21日閲覧。
  2. ^ 国旗損壊罪の新設 表現の自由に思慮皆無 抗議も許さぬ危うさ<メディア時評>”. 琉球新報 (2021年3月14日). 2025年10月21日閲覧。
  3. ^ 国旗損壊に刑事罰案 自民”. 日本経済新聞 (2012年5月25日). 2025年10月21日閲覧。
  4. ^ 衆法 第180回国会 14 刑法の一部を改正する法律案” (2025年4月22日). 2025年10月21日閲覧。
  5. ^ 「国旗損壊罪」新設の刑法改正案、自民が今国会に提出へ”. 読売新聞 (2021年1月26日). 2025年10月21日閲覧。
  6. ^ a b 「国旗損壊罪」がとことんダメな理由 法案に自民保守からも異論”. 毎日新聞 (2021年2月20日). 2025年10月21日閲覧。
  7. ^ 自民・高市氏ら“国旗損壊罪”新設へ要請”. 日本テレビ放送網 (2021年1月26日). 2025年10月21日閲覧。
  8. ^ 高市氏「日本国旗損壊罪がないのは、敗戦国だから」は誤り”. 毎日新聞 (2021年4月14日). 2025年10月21日閲覧。
  9. ^ Dannebrog må fortsat brænde”. デンマーク放送協会 (2006年1月10日). 2025年10月25日閲覧。
  10. ^ How US Flag Burning Law Compares to Other Countries”. Newsweek (2025年8月27日). 2025年10月25日閲覧。
  11. ^ 「国旗損壊罪」制定へ26年通常国会に法案 自民党・維新合意”. 日本経済新聞 (2025年10月20日). 2025年10月21日閲覧。
  12. ^ 志田陽子 (2021年2月22日). “「国旗損壊罪」はなぜ「表現の自由」の問題となるのか”. Yahoo!ニュース. 2025年10月21日閲覧。
  13. ^ 「日の丸損壊罪」必要? 自民保守派が新設目指す 識者「表現の自由侵し外交に悪影響」”. 中日新聞 (2021年4月2日). 2025年10月22日閲覧。
  14. ^ 一水会代表「国旗損壊罪には反対だ」「過剰になったり、偏狭になったりするのは良くない」三島由紀夫の命日にEXITと語る“愛国心””. ABEMA (2021年11月26日). 2025年10月21日閲覧。
  15. ^ 小林節『「人権」がわからない政治家たち』日刊現代、2021年5月27日。ISBN 978-4065241554 
  16. ^ 参政党への抗議で国旗に「バツ印」、法的に問題ない? 弁護士の見解は”. 弁護士ドットコム (2025年7月29日). 2025年10月21日閲覧。
  17. ^ 「罰則がない方が不自然」「むしろ燃やしたりする人が出てくるのではないか」 賛否両論の“国旗損壊罪”を議論”. ABEMA (2021年2月1日). 2025年10月21日閲覧。
  18. ^ 国旗損壊罪を新設?「日本と外国の国旗で同じ罰」の問題とは…。憲法学者に聞いた”. ハフポスト (2021年1月29日). 2025年10月21日閲覧。
  19. ^ 自民党有志が新設目指す「国旗損壊罪」は表現の自由を脅かすか? 憲法学者が解説”. 美術手帖 (2021年2月2日). 2025年10月21日閲覧。



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