各国での方言の実例
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/11 07:28 UTC 版)
「言語」と「方言」の境界が曖昧な事例は、世界中で見られる。 旧ユーゴスラビアのセルビア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ地方などでは、セルビア語、クロアチア語、ボスニア語といった言語が話されてきたが、これらの言語は表記体系・正書法・規範的な語彙に違いがあってもお互いに非常に近く、第二次大戦後の旧ユーゴスラビアにおいてはセルボクロアチア語という1つの言語だとされた。しかしユーゴスラビア紛争を経て国家が分裂した現在、それぞれの国家・民族でセルボクロアチア語はセルビア語・クロアチア語・ボスニア語という相異なった3つの言語であると再び主張されるようになり、モンテネグロ独立後は更にモンテネグロ語の存在も主張されるようになった。一方でセルボクロアチア語には発音・語彙的に多くの方言が存在するが(シュト方言を参照)、セルビア語・クロアチア語・ボスニア語の分布は発音・語彙的な方言とは一致せずむしろそれらに対して横断的になっており、発話上のセルビア語・クロアチア語・ボスニア語の違いを決定付けるのは最終的には発話者の民族意識となる。なお、Wikipediaにはセルビア語版Wikipedia、クロアチア語版Wikipedia、ボスニア語版Wikipediaが存在し、それらとは別に更にセルボクロアチア語版Wikipediaも存在する。 インドネシアの公用語であるインドネシア語はマレーシアの公用語であるマレー語の方言を基盤に整備されたものである。そのためインドネシア語とマレー語の共通性は元々非常に高く、更に現在では両言語は正書法も同一のものとなっている。しかし、一般的には両言語は別言語として扱われている。 インドの公用語であるヒンディー語とパキスタンの公用語であるウルドゥー語は両国が同一のムガル帝国のころは同じ言語(ヒンドゥースターニー語)であったが、インドとパキスタンの分裂により別の言語とされ、その後はイスラム共和国であるパキスタンがペルシア語やアラビア語の単語や文字を取り入れ、インドがヒンディー語からイスラムの影響を排しサンスクリット語を代わりに取り入れるインド化をおこなうなどの差別化を行った。ただし、現在でも両言語の話者の意思疎通は可能である。 中国語の下位区分である呉語・閩語・粤語などは中国語では「方言」と呼ばれるが、それぞれが独立した言語(または語群)と呼べるほどの違いを持ち、日本語でいうところの「方言」や英語でいうところの「dialect」とは異なる。ヴィクター・メアは「dialect」のかわりに「方言」を直訳した「topolect」という語を使うことを提案している。 ドイツ語は北部方言(低地ドイツ語)と標準語を擁する南部方言(高地ドイツ語)とで互いに通じないほど違うが、どちらもドイツ語を構成する方言とされている。一方でドイツ語北部方言はオランダ語ときわめて近い関係にあるが、オランダ語はドイツ語の方言とみなされない。そのため、ドイツ語北部方言とオランダ語は会話が可能でありながら別言語とされ、ドイツ語北部方言とドイツ語南部方言は会話が困難でありながら同言語とされる奇妙な現象が起こる。 英語はイギリスで用いられるものとアメリカ合衆国のものとで細部が異なり、前者はBritish English(イギリス英語)、後者はAmerican English(アメリカ英語)と呼称される。このほか例えばイギリス北部訛とアメリカ南部訛の英語は同じ文章を読むにおいても発音の仕方が著しくことなるので強い訛り型の場合は意思の疎通が困難である。またInglish(インド英語)やSinglish(シンガポール英語)など、かつてイギリスの植民地だった地域には独自の方言がある。 ベッサラビア(現モルドバ)でかつて使われた言葉もルーマニア語とされ、大ルーマニア支配下ではルーマニア標準語の広まりによりほとんど差異がなくなっていた。しかしソビエト連邦の占領政策によりモルドバ語の存在が主張され、キリル文字化と並行して別言語とされた。ソ連崩壊後のモルドバ共和国では再びルーマニア語との同一性が主張されるようになり、2013年最高裁判所の判決にて「モルドバの公用語はルーマニア語である」と規定された。 アラビア語は東はオマーンから西はモーリタニアまで26の国家で公用語とされている。 湾岸方言、ヒジャーズ方言、イラク方言、シリア方言、レバノン方言、パレスチナ方言、エジプト方言、スーダン方言、マグリブ方言、ハッサニヤ方言などに大別され、それぞれの地域のなかでも違いがある。地域によっては、宗派ごとに話されるアラビア語に差異があるなどする。また、生活形態によっても、地域を越えてそれぞれ共通の特徴がある。遊牧民方言、農村方言、都市方言の3つに分けられる。 現代アラブ世界での現代標準アラビア語と方言の関係は、中世のカトリック教会地域におけるラテン語とロマンス諸語の関係に似ている。後者が前者から派生し、多くの変種に分かれていること。前者が日常語としては死語であるが、公的な話し言葉、書き言葉として通用し、後者は基本的に書かれることはまれであることが、その理由である。このことから、言語学においてアラビア語は二言語使い分けの典型的な例とされる。 文字言語がほぼ共通している地域内で、文法は同じであっても単語や発音・アクセント・イントネーションが異なる地方の言語を言う。地域人口の集中程度により同一方言が形成されるが、隣接地域に人の交流が多い場合は方言に明確な区分はない。また、離れた地域間ではほとんど会話が通じないことがあり、その場合は共通語が使用されることがある。[要出典]
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