収録されている書評
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スタニスワフ・レム著『完全な真空』読書人(チテルニク)出版所、ワルシャワ。Stanisław Lem. Doskonała próżnia. Warszawa: Czytelnik 実在しない書物の書評というアイデアはレム氏独自のものではない。それは、ラブレーによる『ガルガンチュワとパンタグリュエル』ですら最初の例とは言えないほど古くからあるアイデアである。しかし、 『完全な真空』が一風変わっているのは、そういった架空の書評だけを集めて一冊のアンソロジーを目指す点にある。レム氏の意図は首尾一貫した衒学趣味なのか、それとも悪ふざけなのか? 私には悪ふざけのように思われる…。 『完全な真空』は純文学、ヌーヴォー・ロマン、SF、文化論、宇宙論など、16冊の〈実在しない書物〉を、大まじめにときにユーモラスに論じた架空書評集。 マルセル・コスカ著『ロビンソン物語』書肆スィユ、パリ。Marcel Costat. Les Robinsonades. Paris: Éditions du Seuil 無人島に漂流したセルジュ・Nは、空想の中から召使や侍女を呼び出し、孤島生活を楽しもうとするが、状況は次第に混乱し、島は想像上の群衆でいっぱいになってしまう…。 パトリック・ハナハン著『ギガメシュ』トランスワールド出版社、ロンドン。Patrick Hannahan. Gigamesh. London: Tranworld Publishers サイモン・メリル著『性爆発』ウォーカー&カンパニー、ニューヨーク。Simon Merrill. Sexplosion. New York: Walker & Company 化学物質NOSEXによって世界中の人々から性欲が失われ人類絶滅の危機が訪れる近未来SF。 アルフレート・ツェラーマン著『親衛隊少将ルイ十六世』ズアカンプ社、フランクフルト。Alfred Zellermann. Gruppenführer Louis XVI. Frankfurt: Suhrkampf Verlag 南米のジャングル奥地に18世紀フランス王国を再建した元ナチス親衛隊少将の奇怪な宮廷生活をえがく。 ソランジュ・マリオ著『とどのつまりは何も無し』真昼書房、パリ。Solange Marriot. Rien du tout, ou la conséquence. Paris: Éditions du Midi 「列車は着かなかった。彼は来なかった…」否定に否定を積み重ね、無限に後退を続ける語り手。アンチ・ロマンの辛辣なパロディ。 ヨアヒム・フェルセンゲルト著『逆黙示録』真夜中書房、パリ。Joachim Fersebngeld. Perycalypsis. Paris: Éditions de Minuit ジャン・カルロ・スパランツァーニ著『白痴』モンダドーリ書房、ミラノ。Gian Carlo Spallanzani. Idiota. Milano: Mondadori Editore 『あなたにも本が作れます』。 Do yourself a book クノ・ムラチェ著『イサカのオデュッセウス』。Kuno Mlatje. Odys z Itaki 世に埋もれた〈第一級の天才〉を見出さんと〈精神の金羊毛を求める探検隊〉を組織し、探索を続ける青年の奇妙な冒険譚。 レイモン・スーラ著『てめえ』ドゥノエル書店、パリ。Raymond Seurat. Toi. Paris: Editions Denoël アリスター・ウェインライト著『ビーイング株式会社』アメリカン・ライブラリー、ニューヨーク。Alistar Waynewright. Being Inc.. New York: American Library コンピュータ・ネットによって人生のあらゆる局面を演出する〈ビーイング社〉の企業戦略と、その結果実現したすべてがあらかじめ設定された世界…。 ヴィルヘルム・クロッパー著『誤謬としての文化』ウニヴェルシタス書店、ベルリン。Wihelm Klopper. Die Kultur als Fehler. Berlin: Universitas Verlag ツェザル・コウスカ著『生の不可能性について』『予知の不可能性について』全二巻、国立新文学研究所、プラハ。Cezar Kouska. De Impossibilitate Vitae/De Impossibilitate Prognoscendi. Praha: Státní Nakladatelství N. Lit. 著者の生誕の可能性を産出するため、両親のロマンスから紀元前250万年の造山活動までさかのぼってしまう抱腹絶倒の確率論。 アーサー・ドブ著『我は僕(しもべ)ならずや』パーガモン・プレス。Arthur Dobb. Non serviam. Pergamon Press 道徳的ジレンマの核心となるAI(人工知能)のアイデアによる精巧な風刺。それは近い将来に有力な科学雑誌に掲載されるかもしれないような書評のドライなスタイルで書かれている。この書評はアーサー・ドブ教授による本書『我は僕(しもべ)ならずや』と、これを介した「パーソネティクス」の分野、コンピューター内での真に知的な存在(「パーソノイド」)のシミュレートされた作成について説明している。説明は「[パーソネティクスは]これまでに人間の創造した最も残酷な科学」という引用から始まる。レムは、博識な評論家にパーソネティクスの一般理論、その歴史と最新の技術、およびその結果のいくつかを説明させて、その分野の専門家の仕事を自由に引用している。さらに、書評子は本書から、ドブ教授が記録したパーソノイドの哲学者であるADAN300の議論を引用している。ADAN300は自分は(未知の)創造者に何を負っているかを考える。このパーソノイドは自分自身が自由意志を持っていると信じていることは明らかである(すなわち、“non serviam”、つまり自分は「[神に]奉仕しない」ことを選択できる)。「最終的にこの世界を終わらせなければならない」というドブ教授のジレンマを表現する引用により書評は終わる。 『新しい宇宙創造説』。 The New Cosmology コスモスを創造者たちのゲームの産物とみて、〈ゲームの理論〉によって宇宙の発生と成長を論じるサイバネティック宇宙論。アルフレッド・テスタ教授のノーベル賞受賞講演。 スタニスワフ・レム著『完全な真空』沼野充義・工藤幸雄・長谷見一雄訳、国書刊行会、東京、日本語版。 「完全な真空」日本語版の解説の代わりに収められた書評。最初の英訳が出版された1979年に出た『タイム』誌(1979年1月29日号)のR・Z・シェパード氏の書評と『ニューヨークタイムズ・ブック・レビュー』誌(1979年2月11日付)のジョイス・キャロル・オーツ氏の書評が紹介されている。
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