出羽海部屋継承
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出羽錦忠雄が待ち望んでいた横綱昇進をようやく叶えた佐田の山は、横綱2場所目の1965年5月場所で14勝1敗の成績を残し、4度目の幕内最高優勝を果たした。しかしこれ以降は持病の高血圧に加え、胃腸炎も患い2年以上に渡って優勝から遠のいた。それでも直向きに土俵に立ち続け、1967年11月場所では12勝3敗、1968年1月場所では13勝2敗の成績を挙げて自身初の連覇を達成した。佐田の山はこれが最後の華となり、同年3月場所で序盤に3敗を喫すると、あっさり現役引退を表明した。まだ30歳になったばかりで悲願だった連覇を果たし、周囲からはさらに優勝回数を重ねるだろうと思われていた矢先の現役引退は角界に衝撃が走り、「高見山大五郎に金星を献上したことが悔しかったのではないか」という憶測まで流れたが、佐田の山自身は「弟弟子である北の富士勝昭に敗れて初優勝を許した時点(1967年3月場所)で考えていた」という。戦前に活躍した栃木山守也、常ノ花寛市のように「引き際の潔さ」という伝統を受け継いだとも言われた。同年6月に蔵前国技館で行われた引退相撲では、直近の5月場所で大鵬幸喜・柏戸剛の両横綱が休場したことを受けて、露払いに同部屋の福の花孝一、太刀持ちに海乃山勇を従えて最後の横綱土俵入りを行った。引退相撲における横綱土俵入りは現役横綱が露払い・太刀持ちを務めることが通例だった当時としては異例の組み合わせだが、2003年の貴乃花光司以降は、大関以下の現役力士が務める場合も増えた。 引退後は、大関時代に出羽海の娘と結婚して市川家の婿養子となっていたために、既に横綱昇進の時点で部屋の土地および建物が佐田の山名義となっていた。このことから佐田の山が出羽海部屋の次期継承者であることは誰が見ても明白だったが、出羽海は佐田の山の引退を受けて即座に部屋を継承させ、自身は過去に襲名していた「武蔵川」に戻った。これには佐田の山も「引退して少しは楽になるかと思ったらとんでもない。ますます大変になった。こんなことならもう少し現役を続ければ良かった」と発言していたという。1969年12月の時津風との対談においても「実際、現役の時には苦しいこともあったけれども、相撲をとって自分本位に一生懸命働いていれば自分のためになると同時に部屋のためになる。それを若い者も見習ってくれるし、非常に良かったんだけれでも今度は反対ですからね。人のことでも世話していかなきゃならんし、指導せんといかんしね」と苦労を語っている。出羽海部屋継承の時点では自身を含めて11名の年寄が在籍していたが、全員が先輩格ばかりだったために部屋を継承しても名実が伴わない面が多かったと話していた。 出羽海部屋では常陸山谷右衛門が一門を創設して以来、「不許分家独立」の不文律が存在し、当時の大坂相撲から一門へ加入後に消滅した部屋の再興を除いて独立が無かった(武隈・九重は一門を破門された)が、現役時代から可愛がっていた三重ノ海剛司が独立の意思を持っていることを知るとこれを許可し、1919年の栃木山守也(春日野部屋を創設)以来となる円満独立となった。出羽海は独立について「私は不文律にはこだわらない。優秀な親方であればどんどん弟子を養成させたい。協会運営も部屋運営もこれからますます複雑になってくるから、活発に動き回らないとダメなんです」と話している。その後も出羽海一門では1980年代まで分家独立が相次ぎ、2019年9月時点では出羽海一門が最も所属部屋数の多い一門となった。稽古の厳しさも有名で、朝5時には稽古場に下りて土俵に鋭い視線を送り続けた出羽海について、小城ノ花昭和は「師匠(佐田の山)が入って来ると稽古場がピリッと引き締まった。少しでも気を抜くと怒られ、出稽古に来る他の部屋の力士からも『出羽海部屋は入りにくい』と言われた」と語るほどだった。また、幕下以下の力士は部屋にいると何もすることがなく、フラフラし出すことから午後は四股を踏ませ、特に相撲を知らない序二段の力士は無暗に稽古土俵に上げてぶつかり稽古をやらせても稽古にならないため、当番的に幕下または三段目の胸を貸すのが上手い力士を土俵に上げ、入門1年未満の新弟子をぶつからせた。このように弟子の指導には非常に厳しい一方で、弟子の龍興山一人が1990年2月に急逝した際には通常なら番付から名前が消されるところを、3月場所が龍興山の地元・大阪で開催されることから「名前だけでも凱旋させてあげたい」と尽力し、龍興山の自己最高位となった東前頭5枚目に名前を記載した。
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