光学式投影機
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/30 02:36 UTC 版)
恒星球と呼ばれる球形または半球形の恒星投影機の中心に光源となる電球(主にハロゲンランプやメタルハライドランプが用いられるが、近年では白色の高輝度LEDも用いられる)を設置し、その光を恒星の光に見立ててドーム内に投影する方式。恒星球の構造により、ピンホール式とレンズ式に大別される。また形状により、緯度軸を中心に恒星球が北半球用と南半球用とそれぞれ独立して存在する二球式と、北半球用・南半球用の恒星球を合わせてひとつの球形(またはほぼ球形)とした一球式に大別される。二球式はさらに、主にカール・ツァイスやコニカミノルタプラネタリウムが採用する緯度軸を中心として緯度軸→惑星投影機群(惑星棚と呼ぶ)→恒星球という順で構成されるツァイス型と、主に五藤光学研究所が採用する緯度軸→恒星球→惑星棚という順で構成されるモリソン型とに区別される(なお、五藤光学研究所のGSS-IおよびGSS-IIは惑星投影機群が独立して設置されているが、惑星棚を廃止したモリソン型である)。近年では、大型の二球式投影機は投影機本体により観客の視野が遮られてしまうことから減少傾向にある。 光学式における天体の運動は日周運動、方位、緯度、歳差の4軸で制御される。ただし、歳差軸は一球式の場合省略されることがある。歳差軸を省略した場合は、歳差によって天の北極(南極)が移動した場合の日周運動を仮想軸を使って再現する。また、地平線下に恒星が投影されないように、主投影機には恒星シャッターが設けられている。恒星シャッターは重力式とXY制御式の2種類あるが、ドームが水平式の場合は重力式、傾斜式の場合はXY制御式を用いる(ドームの形式については後述)。また主投影機本体には恒星シャッターを設けず、恒星球をすだれ形シャッターで覆う方式をコニカミノルタプラネタリウムが採用している。 ピンホール式投影機 球状もしくは多角形の恒星球に、投影する恒星の等級に応じた穴をあけた構造。光源となる電球のフィラメントが回折して星像に悪影響を与えるので光源はできるだけ無指向、点光源に近く恒星球は大きいほどシャープな星像を得られる。構造が単純なため、中学校や高校などの学校教材として用いられるほか、アマチュアの天文サークルや個人によって自作されることも多い。アマチュア用だけでなく、アメリカのスピッツ社の大型ピンホール式投影機は全米各地の教育施設に納入されているほか、フランスのラ・ヴィレット公園にあるシテ科学産業博物館でも使用されている(明るい星はレンズで投影)。また、移動式のプラネタリウムの製品、ラーニングテクノロジー社のスターラボや、AE社のキューベックスなど、多くがピンホール式である。 レンズ式投影機 恒星球に内蔵された恒星原板と呼ばれる恒星の座標・等級に応じた小穴を開けた薄い金属箔(全天を32分割して、32枚の恒星原板を用意する)に光源の光を通し、その光をさらに集光レンズを通して集約し、ドーム内に投影する方式。ピンホール式に比べて光の経路はより複雑になり、多くのレンズを恒星球に仕込まなければならない関係上、軽量化・小型化・低価格化が難しいものの、ピンホール式よりシャープな星像を容易に得ることができ、また恒星原板さえ作成できれば投影する恒星の増加にも対応可能である。現在、プラネタリウム投影機の主流を成している方式である。近年では、カール・ツァイスの投影機などでは光源から恒星原板へ光を導くための導光路として、光ファイバーを使用するものもある。これにより、等級に応じて光の強度を変えることができるため、星像がよりシャープになる。また、従来は光源からの光の9割以上は無駄になっていたが、光の利用効率が高まるという利点もある。この結果、光源ランプの出力が少なくて済み、消費電力を減らすことができるようになったが、光ファイバーを恒星原板に直接植え付ける構造のため、光学系の小型化や再現できる恒星数に限界がある点も否めない。半導体製造技術で発達した微細加工技術を応用して導光路を形成する方法も開発されつつある。 2012年現在、世界でレンズ式光学投影機を製作しているメーカーは五藤光学研究所、コニカミノルタプラネタリウム、カール・ツァイス、大平技研の4社のみである。 惑星投影機群 主投影機に惑星棚を採用する場合は、水星、金星、火星、木星、土星、月および太陽をギアの組み合わせで運動を忠実に再現する。これらの惑星投影機はプラネタリウムという名称の由来でもあり、最も精緻な機構である。ただし、再現できる時間に限りがあり、現在を起点として数千年の範囲である。惑星投影機群を主投影機より独立させる場合は、各々の投影機をXY制御すれば良いので、機構が簡単で、天文計算ができる限りどこまでも運動を再現できる。また、この機構を応用してドームスクリーン上に太陽を中心とした太陽系の各惑星の軌道を再現する(つまり太陽系を外宇宙から見たような視点から見る)ことが可能な機種もあり、こうした機能を持つ投影機を『宇宙型』として区別する場合もある。 補助投影機 ピンホール式でもレンズ式でも、恒星の明るさは恒星球もしくは恒星原板に開けられた穴の大きさで表す。これはドームスクリーンに投影された星像の大きさが恒星によって違うことを意味するが、観客が肉眼で見た時にはその大きさの変化を識別できず、明るさの違いとして錯覚されることを利用している。しかし、最も暗い恒星の穴の大きさを基準として単純に穴の大きさを計算すると、最も明るい恒星(シリウス)の大きさが月の直径より大きくなるなどの問題が生じる。これを避けるため、一等星などの明るい恒星については、ブライトスター(輝星)投影機と呼ばれるその恒星専用の投影機を用いる。恒星原板を通して投影される恒星には色がついていない(電球色)が、ブライトスター投影機で投影される恒星にはスペクトル型に応じたレンズフィルターをかけ、恒星の色を再現することができる。また、変光星のように明るさが変化する恒星や天の川を再現する場合にも専用の投影機が用いられる。この他にも観客に星座や季節の移ろいなどを分かりやすく解説するために、方角を示す文字や地平線の風景、天の赤道・黄道・子午線などの座標線、星座線、星座絵などを投影するための投影機が使われる。先述のブライトスター投影機を含め、これらの投影機を総称して補助投影機という。変わった補助投影機としては、二至二分投影機(春分、夏至、秋分、冬至の太陽を同時に投影する)、流星群投影機、雷投影機、オーロラ投影機などがある。
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