交雑種など
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/09 06:36 UTC 版)
淡水でも容易に人工繁殖することから、有用食用魚としての養殖研究の歴史が長い。特に、他のサケ・マス類との交雑種が研究され、食味向上や高成長率、耐病性向上により養殖効率をあげるための研究がされ、一部は商品化され流通している。なお、自然界に逃げ出し天然魚と交雑することによって既存生態系の遺伝情報に交雑種の遺伝子が組み込まれるのを避けるため、養殖目的で人工的に作出する交雑種は、3倍体メスを利用する。 その手法は、1.変異個体の系統選別育種、2.異種交配、3.染色体操作などである。これらの方法は、サクラマス養殖などにも応用されている。 系統選別育種は、一定の特徴を持った個体を選別して系代飼育することで系統固定する手法である。現在の異種交配は、不妊化により養殖魚が場外流出し在来魚種に与える影響を軽減する目的で、ホルモン処理による全メス化と後述の倍数体個体との交配を併用する方法がとられている。ニジマスにおける染色体操作とは、受精初期の未分化卵を通常の自然界ではあり得ない圧力や温度環境下(例:26℃20分間)に受精卵を置くことで、減数分裂を抑制し倍数体個体を作出する方法である。これらの技法により不妊化魚(生殖能力がない事から生殖の為のエネルギー消費がなく短期間で大きく成長する)三倍体個体の作出や採卵後の性転換技術がニジマスだけでなく、ヤマメ、イワナ等でも確立されている。三倍体雄魚は性成熟するが三倍体雌魚は性成熟しないとされるため、成長が早く年間を通じ食味の変化が少ない。また、作出された種や系統は登録商標として登録されている場合が多い。 実際の作出例は、 選抜種(変異種を選抜して品種として固定) 突然変異:(メラニン色素欠如) 通称:アルビノニジマス 1956年、長野県水産試験場で初めて発見され、交雑試験により遺伝的に優性であることがわかった。子孫である純系マスが各地で生産されている。またニジマス養殖でアルビノが出現することはほとんど無く、珍しい。チロシナーゼ合成酵素が欠損してメラニン色素が作られないため、残りの色素などにより体色が黄色近似に変化。優性遺伝の為、一方の親がアルビノならば、アルビノの子が育つ。観賞用としてペットショップや観賞魚店(熱帯魚店)などでも販売されている。また、養殖場では成長度合いを簡単に調べるための標識魚として利用される。 突然変異:(無斑) 通称:ホウライマス 1965年、愛知県水産試験場鳳来養魚場で発見された斑紋の無い突然変異のニジマスを選択交配し、1980年代までに品種として固定した系統。名前は水産試験場の名称(地名)「鳳来(ほうらい)」に由来する。無斑個体を効率的に増殖させる研究も行われている。遺伝的に優性。 突然変異:(体色異常) 通称:コバルトマスまたはコバルトニジマス 脳下垂体中葉の異常により体色がコバルトブルーに変化。この形質は劣性遺伝する。またコバルトマスは繁殖せず病気にかかりやすい。したがって美しい体色であるが大量生産は困難である。 系統選別育種(大型ニジマス) 通称:ドナルドソン ワシントン大学名誉教授のドナルドソン(Lauren Donaldson)博士が、降海型のスチールヘッドと大型のニジマス選抜個体を交配し、30年以上をかけた品種改良の結果得られた系統。1m以上に育つ。「ドナルドソントラウト」「ドナルドソンニジマス」とも呼ばれる。管理釣り場での人気が高い。スーパーで見かける「サーモントラウト」「トラウトサーモン」「トラウト」などは、「ドナルドソン」がカナダやチリ、ノルウェーなどで生産されたものを指すことが多い。青森県むつ市大畑町では2年間淡水飼育して成長が良い本種のメスを海水で8カ月飼育したものを出荷している(流通名:海峡サーモン)。 系統選別育種 流通名:ギンヒカリ 群馬県水産試験場により選抜。通常2年で成熟するニジマスの中から3年で成熟する系統を選抜育種・固定化した系統。肉質の低下が少ない。 系統選別育種 流通名:ハコスチ 遊漁用ニジマスとして群馬県水産試験場により選抜。スチールヘッド系ニジマス(オス)と箱島系ニジマス(メス)を交配した。 交雑種 ホウライマス♀とイワナ♂あるいはアマゴ♂を交配した三倍体 流通名:絹姫サーモン 愛知県水産試験場により作出、父系にアマゴを持つ略称ニジアマと、父系にイワナを持つ略称ニジイワの2つのタイプがあるが、主に、ニジアマと呼ばれている種が流通している。 ニジマス四倍体♀とブラウントラウト偽♂を交配した三倍体 流通名:信州サーモン 長野県水産試験場により作出、ニジマスとブラウントラウト両者の良いところを受け継いだ一代雑種 (F1) で繁殖力はない。この魚は、食用のみ使用できる。そのため、釣り場への放流は禁止である。活魚での県外流通も禁止し、地域ブランド化を推進している。 ニジマス♀とアメマス偽♂を交配した全雌三倍体 流通名:ロックトラウト、ロックサーモン、魚沼美雪マス。 新潟県内水面水産試験場により作出、「魚沼美雪マス」は新潟県にじます組合の商標登録。 ニジマスとキングサーモンの交雑種「富士の介」。 山梨県水産技術センターによる作出、地域ブランド化を行っている。 倍数体 倍数体 ニジマスの全雌三倍体(全雌:すべて雌) 流通名:ヤシオマス(栃木県内で生産された個体)、銀河サーモン(北海道上川郡上川町の養殖業者)、笹川マス(新潟県村上市の養殖業者)、アルプスサーモン(長野県飯田市の養殖業者)
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